姥湯



◆古いガイドブックの記述から

 枡形屋 遠藤金太郎
 天文2年(1533年発見)
 硫化水素含有緑そう泉53度 胃病に特効あり
 自炊のみ350円位
 西に薬師森を背にし、県境尾根の兵子、昭元を眼前に仰ぐ幽逐境である
 (写真あり)
(「アルパインガイド 東北の山」 山と渓谷社 1974年版から)

◆「東北の旅」(山本鉱太郎、創元社、1974年刊)から

 滑川からさらに1時間ほど東大巓に向かって歩くと、三方から絶壁 が迫って、南画にも出てきそうな深山幽谷の温泉、標高1300メー トルの姥湯が現れる。宿は1軒のみで山小屋同然の粗末なものだが、 環境がすばらしい。宿の前は大日沢の急流で丸太橋がかかり、その先 には赤褐色と灰色の荒々しい岩峰が立ちはだかり、岩場にはカモシカ が姿を現したりする。……湯は200メートルほど上流の対岸の源泉 から、丸太をくりぬいた木管で引いている。53度の硫化水素をふく んだ酸性緑ばん泉は、木管に入りきれないで大日沢にどんどん流れ出 している。
(注、東大巓に向かってとあるが、滑川から眼前には家形山と、大白岳が 見えている。)



滑川温泉をすぎ、姥湯に向かう道(1972年3月、野原撮影)

◆1970年年代前半の、姥湯の様子(野原森夫のメモ、写真も)



1972年8月の姥湯。沢を渡る橋は、丸太を束ね、
板をのせた、幅が狭いものだった(野原撮影)

 1970年代前半は、姥湯は米を持参して湯治形式で泊まる宿で、収 容は10人余り。宿泊代金は数百円だった。
 姥湯へたどり着く600メートルほど手前には、「自動車がスイッチ バック」する場所があった。いまは、道幅が大きく広げられ、なんとか 曲がりきれる。車道終点も、現在は大日沢の鉄製の橋のたもとまで延び ているが、この区間は崩壊が激しく、当時は登山道で、車道終点は10 0メートルほど手前の小さな車止めまでだった。
 このあたり、3月下旬の残雪の多い時期は、雪の斜面に傾斜があり、ス リルがある。峠駅から滑川までの区間も、崖状の急傾斜の箇所があり、ス キーで下降するときなど、崩落跡で通せんぼされたりする。

 70年代から80年代前半期には、姥湯の露天風呂は、いまよりも少し宿 に近い位置にあり、沢の流れの脇にあった。増水ですぐ沢水に呑まれる位 置。大きさ直径3メートル弱しかなかった。登山道がすぐ2メートル上を 通っていて、脱衣所も何もなく、丸見え。おまけに、温泉の湯は、今と 違って透明度が高く、入るのには勇気がいるところだった。今の露天風呂 の湯の色が不透明で混濁しているのは、湯の引き方、空気との混じりあいの 違いか? 源泉の位置が微妙にかわったのか? 内湯の方は、やや不透明 だったようにも記憶している。

 当時は、登山者の行き来がけっこう多かった。姥湯から、崖状の源泉地帯 を登って、鎖場で尾根に上がり、県境稜線の兵子(ヒョッコ)へ行くルート は、浄土平や高湯温泉方面をつなぐ登下降によく使われていた。日帰りのメ インルートの一つだった。

 稜線の兵子から姥湯へ下降してくるのは、変化とスリルのある道だった。 兵子から、最初はネマガリダケの密生地のトンネルの中を下り、鎖場のある 崖の上端に出る。目の前に幽玄な三階滝が眺められ、6月にはアヅマシャク ナゲの咲く崖を下降する。
 下り立ったところは、姥湯をドーム状にとりかこむ崖の基部で、温泉の源 泉地帯の真ん中。はるか下方の赤屋根が小さい姥湯へ、木の樋で湯が引かれ ているほかに、使い切れない源泉から放物線状に湯が噴き出して、沢へ流れ 落ちていた。木の樋や、噴出口付近には湯の花が厚く堆積し、足元のザレは 明るいクリーム色の硫化物の色に染まっていた。
 この登山道は、いまは通行禁止となり、廃道になりつつある。

 私の場合は、1990年の5月、両親と私の家族4人の計6人で、姥湯に 行ったのがいちばん最近の訪問になる。このときの姥湯は、建物が以前の2倍 ほどに増改築され、概観は大きく変わっていたが、内部は古い木作りの名残が 残り、タタミ2畳くらいの広さの気もちの良い内風呂があった。
 5月だと、コブシ、コゴミ、残雪から顔を出し始めたフキノトウ(アキタ ブキ)など、周辺は芽吹きの時期にあたっていた。ネマガリダケのタケノコ はこのあたりは6月になる。

 70年代、最初に訪問したころの姥湯を思い起こすと、そこまでの道程 も、行き来する登山者や湯治の人々らも、そしてひっそりとした姥湯の建 物のたたずまいも、すべてが素朴そのものの時代だった。
 滑川鉱山跡に泊まって、薬師森経由で、姥湯の露天風呂を訪ねたときのこ とや、地下足袋姿の父と私(高校3年)の2人で兵子から下降したときのこ となどを、懐かしく回想することがある。いつの間にか、あのころの父の年 齢に私も達してしまった。

◆現況
姥湯温泉HP
  http://www.mountaintrad.co.jp/yamagata/uby/masugata/data.html
露天風呂は
  http://www.ycci.or.jp/kanko/tanbo/00048.html
◆野原森夫の関連山行記録
 滑川鉱山と姥湯の露天風呂(未掲載)
 父と山へ


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