月山

1973年8月(日帰り、羽黒町の宿坊に1泊)
4人パ−ティー(両親、下の姉と)


 50歳を超えた父は、月山の参拝登山を、もう十数回も続けてきた。一度も行ったこと のない母と、大学の夏休みで帰省していた私の希望で、父が月山に連れていってくれるこ とになった。

 福島市を発ち、国道13号で米沢市を通過し、山間の道へ。湯殿山の登山口に車を止め た。湯殿山の「御神体」は赤茶けた大きな岩で、熱い湯を勢いよく吹き出している。

 湯殿山の参拝をすませると、登山靴をはくのに手間取った姉と私をおいて、キャラバン シューズの母が一番早く歩きだし、地下足袋の父が続いて登山道をたどりはじめた。

 すぐに崖状の急な登りになり、鎖場が現れる。前をお年寄りが多いパーティーが登って いて、ペースが落ちる。母に追いついたら、大汗をかいて鎖にしがみついている。頂上ま で大丈夫だろうか。



 登り切ると月山の南西に張り出した稜線に達し、茶店があった。一休み。ニッコウキス ゲがあちこちに咲いているなだらかな道を行く。驚いたことに、この標高からもう樹林帯 が終わって、灌木が少しだけ混じる草原となる。冬の豪雪のせいだろうか。

 残雪が現れ始め、美しいニッコウキスゲの群落が彩りをそえる。水場を過ぎると、左手 に谷をへだてて切り立った尾根が見えてきた。高山的な景色に見とれながら登っていくと 、頂上へと続く尾根に出た。頂上はガスに包まれている。右手には遠く青がすんで、低い 山並みがずーっと続いており、山形の平野部へと連なっている。

 尾根をたどり、小さなピークを2つばかり越すと、道がなだらかになる。右手に雪田が ある。雪田のずっと下には、夏スキーをしている人達が見える。道は雪田を渡って、ガレ 場のきつい登りとなる。母がここで「あら、きれいだ」と立ち止まっては、山の花やとき おり広がる眺望の大きさに自分を励ましつつ、かなりの頑張りを見せる。

 ガレの中途に山小屋があった。ますます濃くなるガスの中を登りつめて、目の前に広々 とした平坦な地形がひろがる場所に出た。「あそこが山頂だ」と父が指さすまで、どこが 最高点なのか見当がつかなかった。

 ようやく月山の最高点に着いた。母はうれしそうな顔をして、ちっとも疲れを見せない 。石積みの山頂の神社でいただいた「御神酒」は、のどから胃へ、ぐぐっとしみわたって 、すばらしくおいしかった。

 「あーやに、あーやに、つくしうたうとーぉ、神の御山をおろーがーみまーすーる、あ ーやに、あーやに………」

 父が何度もうたってみせた、月山の参拝の歌。家で月山の話を聞くたびに、酔った父が 歌ってくれた歌。この山頂部に立つと、徹底した無神論の私も、一種厳かな気持ちにおそ われる。

 湯殿山への下降。雪田ではシリセードを何度もしたりして、ゆっくりと下りた。母は、 「一生の大事業をやりとげた。よかった、よかった」と最後まで元気だった。

 (下山後、湯殿山から羽黒町へまわって、父の知り合いの宿坊に泊まる。羽黒山神社の五 重の塔は、無垢の白木を塗装なしに使って組み立てられており、杉の樹林の中に厳粛な 空間をつくりだしていた。)





山の便り、大地の恵み (野原森夫)
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