ギョウジャニンニク

 ギョウジャニンニクでは 、思い出しても苦笑いして しまう失敗があります。

 北海道の日本海側、留萌 に近い暑寒別岳(しょかん べつだけ)に登ったときの こと、縦走もようやく終点 の山小屋で夕ごはんをつく ることになり、イワナや山 菜を求めて手分けして沢へ 入りました。そこで同僚の 一人が見つけたのがギョウ ジャニンニクの群落です。
 姿は、スズラン(有毒) やオオバギボウシ(食用) とちょっと似ています。で も、茎を包んでいる葉の根 元(はかま)が赤く色づい ているのが良い目印になり ます。根元からもぎとって 嗅いだ臭いも、ニンニクそ のものです。

 小屋へもどり、鍋で油い ために。おひたしもつくり ました。食欲をそそるいい 香りが小屋の中にたちこめ ました。ゆでた葉は、色も あざやかです。各人が一束 分ほども食べたでしょうか 。その昔、修行者たちが好 んで食べたといわれるギョ ウジャニンニクです。山旅 に疲れた私たちも、次つぎ にハシを口にはこびました 。

 異変には、朝になって気づ きました。オナラの臭いに 、強いニンニク臭があるの です。林道を歩いていても 、誰かがちょっともらせば 、全員がわかってしまうく らいです。野外では、まだ 笑い合ってすみました。が 、帰りのディーゼル列車の 車内では、そうはいきませ ん。他の乗客の雰囲気が妙 です。こちらも、下腹に気 を使って、心おだやかでは ありません。帰ってから、 臭いのはオナラだけでなく 、息も体もみんなにおって いることに気づかされまし た。この臭いは四、五日も 続きました。なにしろ乳牛 が食べると乳が臭くなって 売り物にならなくなるくら いなのです。

 それでも、「また、あの おいしいおひたしが食べた い。世間の迷惑がなんだ」 と、食べた人をひきつけて しまうのが、ギョウジャニ ンニクです。やわらかな歯 ざわり、ニンニクとニラを 合わせたような香り、甘み のある味。これほど個性の ある山菜もないでしょう。

 分布は、本州北部と北海 道。時期は六月まで。さが すときは、渓流のわきや林 の中の開けた地形のところ で、地面が湿っている場所 を目安にします。群生する ので、一カ所見つければ、 充分な収穫があります。似 た野草が多いので、かなら ず臭いで確認することです 。生の葉には辛味がありま すが、ゆでれば甘味がでま す。ラーメンの具や卵とじ にも合います。

 ギョウジャニンニクは「 アイヌネギ」という名前で も知られていますが、これ は根拠のない差別用語とし て使われることもあるので 、私は正式の名前で呼ぶこ とにしています。

(1990年5月10日)




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野原 森夫
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