残雪の尾瀬、コシアブラ・ミステリー

2003年5月




 このレポートは、燧ケ岳(2003年5月)、谷川岳(2004年4月)、会津駒ケ 岳(2004年5月)と、上越、会越の春山に3度の登山の体験から、まとめたもので す。



コシアブラの枝先が切られていたのは、こんな残雪の稜線でした。
尾瀬の外周部の2000メートル級の稜線にて。2003年5月


燧ケ岳(2003年5月)

 コシアブラは、タラの木やハリギリと同じウコギ科の木です。その芽は独特のうまみ があり、山菜として、よく知られる存在になってきています。

 私は登山のときに、花だけでなくいろいろな植物を確認しながら歩くのが習慣になっ ています。
 尾瀬へ向かうアプローチや山岳地帯では、コシアブラが、いっぱいありました。林道沿いで、 日当たりのいい場所では、芽が割れかかっていました。まだ根元は残雪の中 なのに、春本番を待っていられなかったのでしょうか。

 標高がさらに高い山岳部では、残雪は1メートル余。標高も上がっているため、芽はまだ固い。

 

 残雪の中のコシアブラは、雪の重みからようやく半身を起こし始めたところで、幹は まだ雪の中で倒れかかったままのものが多く見られました。

 不思議だったのは、雪面に出た枝先を鋭利な刃物でカットされ、持ち去られているもの が、たくさんあったことです。
 子どもの指ほどの太さの枝が斜めにスパッと切られているので、その切り口は生々し く、とても目立ちます。自然の枝先と比較すると、切り取られた枝先の長さは、それぞ れ15センチ余りと思われます。

 場所は、尾瀬をとりまく山岳地域、外周部の稜線です。枝先を切られたコシアブ ラは、本数にして、20本以上 にはなるでしょう。一帯は、特別保護区の境界上か、その内部です。
 その木も、直立すれば高さ6〜10メートル内外になる木がほとんどで、枝分かれして 芽吹く芽は、1本の木からだけでも40〜50個にはなると思います。実際、枝先は、 雪面の上に出て、切り取りが可能なところは、みなカットされていました。

 芽の数の多さは、はコシアブラの芽を収穫したことがある人なら、容易に実感できるで しょう。6,7メートルほどの樹高のコシアブラの木を一本見つければ、その枝の2、3 本を手元に引き寄せるだけで、コシアブラの芽は両手に山盛り、摘むことができます から。

 問題は、尾瀬のコシアブラの場合、芽吹いてきた若芽ではなく、春先に枝先ごと、採取 されていたことです。しかも大量に。たまたま登山のルートになっているところで出会 っただけで、これだけの木の数です。全体では、膨大な数のコシアブラの枝 先が、採取されていたことになります。

 植木屋さんで、こういう材料から芽吹かせ、商売にしているなんてことが、あるのか な、と思いました。そのときの私は、想像したことも、「商品」を見たこともありませ んでした。

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谷川岳(2004年4月)

 同じようにカットされたコシアブラの木を、今度は、谷川岳の尾根で見つけまし た。
 積雪は2〜3メートル。雪面に出た部分から切り出せば、時期が遅くなって高く立ち 上がる木の場合も、くりかえし全体から採集できるのかもしれません。

 このときは、谷川岳に登って、尾根を下山の途中でした。 コシアブラの、まだ芽が固い木を何本か見つけました。  そのうち、2本の木の枝が、多い方では十数か所も、芽がついた枝先10センチほど をナイフ様のもので切り取られていました。規模は小さいものの、昨シーズンの尾瀬と 同じです。やはり育成して、何か、商売に用いられている様子です。

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 コシアブラが、どんなふうな産業として、用いられているのか、想像してみました。

 1つは、山菜のコシアブラとしての商品化です。
 2002年の5月、東北道の古河SAで、コシアブラを土産に売っているのを見まし た。山菜採りでねらうような大きさの芽ではなく、小さな芽で、1袋8〜10個づめで3 50円くらいだったと思います。
 これは、近所の山か山林で収穫してきたもののようでした。
 芽がでる枝先をたくさん切ってきて、並べて差し木し、芽だけを収穫するという方法 も、考えられそうです。枝の養分だけに頼るこの方法で、芽を摘んでしまえば、2番芽は 出ないでしょう。

 2つめは、盆栽、または苗木に育てる方法です。
 これは、今度の疑問を「山の展望と地図のフォーラム」で話題にして、ある方から教え てもらいました。
 挿し木をどのようにしているのかは、ノウハウがあるのでしょう。
 枝先の挿し木でなく、コシアブラの木を育てて、その種子を採って、苗作りをする方法 も想像できます。若葉と秋の黄葉が美しいコシアブラですから、大事にされるのもわか ります。

 ちょっとネットで検索してみると、ありますね。いろいろと。

「当店は、世界と日本の花木・珍種・新品種・果樹をメインで取り扱っています。 木もの――石楠花 白ヤマブキ 大手鞠 梅花ウツギ 姫ウツギ コシアブラ」

「○○名産薬草山菜
   ミツバアケビ白馬紫(挿木) 2,000本
大実アケビ(挿木) 3,000本
"深山の"ニワトコ 1,000本
クマヤナギ 白馬龍 2,000本
ミヤママタタビ 3,000本
マタタビ 2,000本
"大実"緑王サルナシ(挿木) 3,000本
コシアブラ 2,000本」

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会津駒ヶ岳(2004年5月)

 会津駒の雪の尾根では、枝先を切り取られたコシアブラに出会うことはありませんで した。
 しかし、登山者が多いルートでは、残雪から枝先を出し始めたコシアブラの木が、登 山靴やアイゼン、スキーで踏みしだかれ、皮をそがれたものも目につきました。足元の 木が「山菜の王様」で、美しく黄葉する樹木であることに気づく人は、稀なのでしょう。

 枝先を注意してみると、雪のため、また踏みしだかれたたけに、枝先がぽきんと折れ て、わき芽が付いたものも目につきます。自然のなかでも、コシアブラはこうして、圧 力に耐えて生き抜いていることが、感じとれました。
 枝を不連続に曲げたあの樹形も、自然の圧迫のなかで生きてきた証なのかもしれませ ん。



会津駒の標高1600メートル付近。残雪に埋もれたま
ま、枝から芽をふくらませていた、コシアブラ


 会津駒に登って、桧枝岐に下山して、只見町へと車を走らせている途中、予想外のも のを見つけました。
 ある民宿の日当たりのいい玄関先に、青い大きなポリバケツがあり、そのなかにコシ アブラの枝が束になって差し込まれていたのです。枝先には、もう緑色の芽が開きだし ていました。枝は、バケツから出た分だけでも30センチほどはあります。かなり長め に切り出した様子です。芽の伸び具合から見て、近所の低山(持ち山?)のコシアブラ の木、しかもかなりの樹高の木から、切り出してきたと想像しました。

 その芽は、泊り客に提供されるのでしょうか。
 枝から根が出れば、植えつけて栽培することも可能なのかもしれません。

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 尾瀬の場合も、枝先の採集は、特別保護区の境界付近での現象でした。
 これらの方法では、少なくとも雪に埋まっている半身の方は、難を逃れますから、コシ アブラの生育には致命的ではないと思われます。また、芽や枝を摘まれると、コシアブ ラはより多数の芽(枝)を生え出してくる習性もあります。そこは、「作業」をする方 々も、翌年のことに知恵を利かせているのでしょう。
 そのうえ、人の手にこうしてかかるコシアブラは、たくさんのコシアブラの木のなか で、ごく一部なのでしょう。
 そう考えてはみても、枝の切り取りという採集の方法、それが自然とのふれあいを求める 多くの登山者がたどるルート上でもおこなわれているという問題を考えると、生業として いる方には、いま一段の自然と他の人々への配慮をお願いしたいと思います。
 コシアブラの根を使って、山麓などの畑で栽培・増殖する手法も考案されたと聞き ます。最初の1、2年は増殖に手間がかかるかもしれませんが、より自然へのインパクト の低い方法で、とりくんでほしいという希望をのべておきたいと思います。

 私は、背丈のあるコシアブラの木が、残雪に埋まって冬を耐えているのを見て、「豆 腐の木」「芋の木」と呼ばれるこの木が、山岳地帯でしぶとく生きぬいている「秘密」 を知ったような気がしました。これが、もしも幹が硬い樹種ならば、雪の重み でへし折られてしまうでしょう。
 コシアブラは、生長が速く、しかも背丈が5、6メートルになってもなお、幹が柔らかい。
 そして、生長が速いだけでなく、背丈が10メートルを楽に超すほどに育ち、日当たりを めぐっての他の樹種との競争にも、負けはしません。
 そして、成長途上で雪の重みがのしかかれば、しなやかに倒れこんで、生き抜くこと が出来る・・・。

 

 いつか、コシブアラも、スーパーで売られている「タラの芽パック」のように、どこ でも売られる山菜になるのかもしれません。それでも、残雪の山で芽吹き、あるいは秋に明るい 黄金色に染まるコシアブラとの出会いは、自然の山ならではのものと思います。

 その後、狩猟をする方から、コシアブラの枝先と芽を野ウサギが鋭い歯で噛み切る という話を伺いました。雪面に枝先が姿を現す時期なら、なるほど高さの問題は解決 できます。野ウサギの背丈でも、大丈夫そうです。
 しかし、中には枝の太さ1センチほどのものまで、スパッと切断されたものも、たくさん 目撃されます。シカも同じように枝先を食べる可能性があります。でも、切り口が鋭利 すぎ、かつ直線的な「刃」を想像させるため、シカ説も納得できません。
 謎が残ります。

(コシアブラ、ハリギリ、タラの芽など山菜についてのフィールド体験レポートは、下記のHPをごらんください。)
  



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     山の便り、大地の恵み (野原森夫)  
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