星明かりの塩見岳。三伏峠から

2003年9月14日〜15日
2人パーティー



 南アルプス(赤石山脈)を東西どちら側から遠望しても、塩見岳はとても目立つ頂で す。この山脈は、北部と南部に3000メートルを大きく抜け出る名峰を集めています が、間をつなぐ長大な主稜線には、3052メートルの塩見岳以外に、大きな山がない からです。
 気になっていた塩見岳に、台風が日本海を抜け出た晴天を利用して、登ってきました。
 コースは鳥倉林道の登山口から入って、三伏峠の天場からの往復です。午前2時半の 出発にしたのは、明け方の好展望を期待したためでした。
 こんな夜半に稜線をたどる登山者はもちろんなく、星空のもと、ほのかな明かりに照 らしだされた山並みを眺めながら、静かな山旅を楽しめました。



本谷山から星明かりの塩見岳。15日午前3時すぎ

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14日

東京の西端の自宅(8時58分発)車→中央道・松川インター(11時27分)→大鹿 村(12時25分、買出し、林道情報入手)→鳥倉林道・車止めの駐車場(13時02 分着、同30分発)
→林道歩き→登山口(14時02分着、同12分発)→支尾根に出る(15時26分) →豊口山分岐点・塩川からの登山道と合流(16時16分)→三伏峠・天場(16時3 9分着)幕営

15日

三伏峠(2時31分発)→本谷山(3時36分着、同56分発)→塩見小屋(5時33 分着、同40分発)→塩見岳西峰(6時44分)→塩見岳東峰(6時46分着、7時1 0分発)→塩見小屋(7時54分着、8時04分発)→本谷山(9時24分着、同32 分発)→三伏峠(10時36分着、テント撤収、11時10分発)→登山口(12時4 8分)→林道→車止め・駐車場(13時26分着)
車→鹿塩温泉で汗を流し、渋滞の中央道で帰京。

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9月14日

 今日は三伏峠までの行程なので、都内の自宅を遅めの時間に出ました。
 中央道の松川インターでおり、昼過ぎに、ふもとの大鹿村に入りました。152号線 沿いの観光案内所で聞くと、鳥倉林道の登り口は道路の一部崩落の工事が断続していて 、日替わりで変更されているとのこと。言われた細い道を登り出したものの、分岐が多 くて、すぐに迷いました。この時間帯だと通行する地元の車も多く、3度も教えてもら ってルートを修正しつつ、うまく林道にのることができました。

 林道の車止めゲート前には30台分の駐車場がありましたが、好天、連休で満杯。道 路の山側にも80メートルほど手前まで、場所を選んで路上駐車する車列が続いていま した。全部で50台はあるでしょう。登り出して後で聞いたことですが、三伏峠の小屋 も、塩見小屋も、前日から連続して満員で、小屋に泊まれずに日帰りで下りてくる登山 者もいました。

 13時30分、ゲート前出発(標高1450メートルくらい)。40分弱で登山口( 標高1530メートル)に着き、三伏峠へのよく整備された登山道にとりつきました。
 針葉樹の森は、登るごとに手付かずの美しさを見せていきます。豊口山につながる標 高2100メートル余りの尾根に出てからは、樹林はいっそう雰囲気がよくなり、林床 がふかふかする苔で覆われだしました。

 途中、少し崖気味なった場所を2、3箇所通過するところがりますが、道は歩きやす く、行程がはかどります。帰りに撮影したいキノコのめぼしをつけつつ、高度を稼ぎま した。帰りに、美味しいショウゲンジの若い菌や、チャナメツムタケを見つけたのも、 この尾根筋でした。水場はこの区間に信頼できるものはありません。

 16時49分、三伏峠小屋に到着。着いてびっくりしたのは、北東側へ乗り越した三 伏沢沿いの天場が、幕営禁止になっていることでした。小屋の北より斜面の狭い天場し か使えません。
 水は、三伏沢の源頭からポンプアップしたものを、目の前の宿泊者が1リットル30 0円を小屋に払って購入しています。300円? そりゃあ、ないよな。下界の発泡酒 の値にせまる値段です。

 私は、テントを張り終えてから、折りたたみの10リットルのポリタンクをかかえて 、沢へ水汲みに。下り10分、登り15分の道のりです。マツムシ草、咲き遅れのタカ ネナデシコ、これから咲こうというリンドウの花が目を楽しませてくれました。 旧天 場の手前に源頭の湧き水を貯めた大きなタンクを並べた小屋があり、あふれた水をホー スから落としています。冷たい、甘露水。10リットル、3000円相当!の水を汲ん で、登り返しました。

 今回も妻と2人の山行です。家族登山形式は、息子たちがてんでんばらばらの生活に 入る年代になり、年に1度あるかないかに激減しました。このごろ、妻は、「山が好き 。高いところに登りたい」としばしばいいます。
 水が担ぎ上げられて、まず、源頭の甘露水で「水割り」です。つまみは、シシャモの 燻製、なぜかシナチク。担ぎ上げた材料と乾燥食品とで、野菜煮込みカレー、、スープ や梨、ブドウなどの夕ご飯になりました。

 明日の出発をどうするか。今日は午前中から稜線に雲がかかり、まだ塩見岳も拝めて いません。明日も好天ですが、遠望をねらうには早朝に山頂に立ちたい。道にむずかし いところはなく、いざとなればGPSも使う予定で、夜中に出発することにしました。 登山者は、2つの満員の小屋にくわえ、テントも25張り。静かな山頂に立つにも、夜 の出発は好都合です。
 「すごい星空だ」と言う外の声を聞きながら、19時すぎにシュラフに入りました。

9月15日

 夜中に鹿の「ピューッ!」という警戒の声を聞きました。テントの脇を、人の足音で なく、動物が通った気がしました。目を覚ますと、午前1時半。1975年から使って きた2人用のダンロップ・テントは、内面がびっしり結露しています。もち入りのおじ やを温めて、腹ごしらえ。2時半に、天場を出発しました。
 天場から100メートルも歩かないところで、また鳴き声です。ヘッドランプの明か りの向こうに何頭かの動物の目が光りました。やはり鹿のよう。南アではこんな標高に 森があり、鹿が夏をすごしているのです。

 樹林の中は真っ暗に近くて、湿地のぬかるみが多くて、足場に困りました。 森を抜けた場所で見上げると、空の8割ほどは雲がなく、星がいっぱいです。雲間から 月が顔を出すと、ライトが不要なくらいの明るさです。

 1時間ほどで本谷山へ。
 オリオン座とシリウスが輝き、すばるも見えています。星明りの下で南アの主稜線が 黒く起伏しています。塩見岳は
山頂に薄くかすかにガスがかかり、荒川3山方面も稜線 がくっきりと眺められます。  稜線の西側の谷を見下ろすと、手前に大鹿村の集落の灯りがあり、その先に、飯田市 、松川町、駒ヶ根市の街の明かりも眺められます。
 風がほとんどなく、静かな夜。こんな場所、こんな時間に、いま自分がいることが不 思議に感じました。ジャケットを羽織り、30分ほど夜空と稜線を眺めて撮影しました 。

 本谷山からは、尾根筋をしばらくたどった後、ゆっくり右へ下り始め、樹林帯のトラ バースになります。森の中は、また真っ暗。一度、すぐ左手前方で「グルルッ」と動物 が鼻と唇を鳴らして威嚇する音を聞きました。丹沢のアナグマが同じような音を出すの を聞いたことがありましたが、こんな標高にはアナグマはいないでしょう。これも鹿だ ったようです。
 このトラバースの途中で1箇所、細い涸れ沢と斜めに交差する場所があり、立ち止ま ってルートを捜しました。



塩見小屋から、塩見岳の山頂方面

 塩見小屋の手前のジグザグの登りで、木の枝越しに見上げる空が白んできました。足 元も明るみが増し、ヘッドランプを消して、登ります。
 小屋のすぐ前で、空が紫色に染まり出し、一服するうちに日の出となりました。見上 げる塩見岳の山頂部は、大きな岩の固まりのようです。岩場、ガレ場に付けられた道を 高度を上げて行きました。小屋から、さらに1時間もかかるほどの、高度差がありまし た。

 塩見岳西峰(3047メートル)に6時44分着。すぐ目の前、50メートルほどの 場所に塩見岳東峰(3052メートル)がありました。



槍ヶ岳と穂高連峰。霞の彼方のシルエット



黎明の中央アルプス

 山頂からは、南ア中心部のすべての山々と、遠く槍・穂高連峰が望めました。槍ヶ岳 の右手に三角形の山がありましたが、常念岳でしょうか。その背後は霞の中。





左が仙丈ケ岳、右が甲斐駒ケ岳。甲斐駒の左奥に蓼科山

 甲斐駒の両側に、赤岳や阿弥陀、そして蓼科山が意外な角度で見えていたのには驚き ました。ちょっと想像すると赤岳が左、蓼科山が右に見えそうな先入観があったのに、 双方がその逆の位置にあったからです。八ヶ岳・蓼科山のラインを、塩見岳の位置から は南南西方向から眺めることになるんですね。



南アルプスの南部の山々と、右へ三伏峠、本谷山(雲がかかる)



荒川岳と赤石岳がかさなり、聖岳は右肩に

 富士山が予想をはるかに超越して、とにかく大きくて、逆光のシルエット。 塩見岳からダイヤモンド富士をとらえたら、すごい眺めになるのではと思いました。

 乗鞍岳と、中央アルプスの背後に御岳も望めました。中アは、全山が朝日に映えてく っきり。百間なぎの崩落地を目印に南駒ケ岳を探し当て、先日の越百山からの縦走路を たどりました。



 午前7時に山頂を後にしましたが、8時ごろには、北アや中アは、雲の中に隠れてし まいました。「早発ち」が功を奏しました。
 三伏峠までの下りの長かったこと。明るい日差しのもとで歩く樹林のルートは、折り 返しとはとても思えないほど新鮮です。こんなところだったのかと。何もかも、初めて 見るようです。でも、明るいと歩くスピードがあがります。登山道に突き出した木の枝 や倒木には、夜の登りでは一度も頭を打たなかったのに、明るい帰り道で3度も木に頭 をぶつけ、傷を負ったのにはまいりました。

 本谷山の手前で、一気に鞍部へ下降するところがあります。真っ暗な方が、幸せだっ たところ。この下りかけの場所に湿性のお花畑がありました。マツムシ草が群生する場 所もありました。
 トラバース道と、本谷山の下りでは、キノコがたくさん見つかり、撮影で時間を食い ました。ショウゲンジ、ニセ?アブラシメジ、ヌメリササタケの仲間、カワムラフウセ ンタケ、ムメリスギタケモドキ、ヤマイグチ、キンチャヤマイグチ、チャナメツムタケ 、スギヒラタケなど。ハツタケもありました。標高2700〜2200メートルの一帯 でいっせいに生え出していたという感じで、目にしたキノコは40種は超えていたと思 います。
 南アの樹林のルートの美しさ、楽しみも感じました。

 三伏峠でテントを撤収。残った水は、帰りにあいさつした京都の登山者に上げました 。峠からの下降でも、しばらくは樹林とキノコを愛でつつ、楽しみの多い道です。 昼過ぎに登山口に戻り、ふもとの鹿塩温泉のしょっぱい湯で汗を流しました。帰りは渋 滞の中央道。都内に入ると猛烈な雷雨が待っていました。






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野原 森夫