雨の仙丈ケ岳

1988年8月8日から10日  家族4人




薮沢を登る


馬ノ背ヒュッテのご飯つくり


 この夏は、台風が北緯20度(太平洋沿岸沖)付近で突如、発生する変な天候が続き、 おまけに小笠原高気圧が元気がない。私にとって初めての、南アルプスの3000メート ル峰、仙丈ケ岳への山行だったが、出発前に突然に熱帯低気圧が発生してしまった。そし て、この熱低に徹底的にいじめられてしまって、頂上を踏めずに下山してしまった。

 8月8日夜10時すぎに立川を出発。車で広河原の登山口をめざす。夜叉神峠のトンネ ルまでは夜中の空いた道で、前に峠まで登りに来たので、1時間半かからずに通り抜けた 。峠の手前でキツネが目の前を横切った。車をゆっくり走らせて見上げると、すごい星空 で、天の川が真上を横切る。
 夜叉神トンネルに入ると、とたんに前途は未知の世界となる。ヘッドライトの細い光で 何度も回るカ−ブに目を凝らしつつ、30分かけてゆっくりと広河原に着いた。
 車の脇に、新しく購入したばかりの4人用のテントを張った。短い仮眠しかできないが 、駐車場の中に張ってしまったために、夜通し、車がうるさくて、これでひどい寝不足に なった。

 9日。北岳と小太郎尾根がモルゲン・ロートに染まる。甲府駅から登山者を満載したバ スも着いて、降り立った登山者が大樺沢への吊り橋を次々と渡っていく。見上げる北岳は 、すごい標高差だ。私たち家族4人は、眠い目をこすってカレーライスの朝御飯にする。 稜平(2歳)と岳彦(5歳)は、目を覚ましたらテントの中だったので、びっくりしてい た。が、すぐにテントを飛び出し、近くを走り回って遊び始めた。
 村営バスの始発は、9時からしかない(注・この山行当時のダイヤ)。このロスタイム は大きい。
 満員のマイクロバスを北沢峠で降りて、薮沢コースの登山口がある大平小屋へ少し下る 。小屋脇から、沢沿いの道に入り、登りはじめる。ウドの若芽がある。ジグザグに登って 、小さな尾根を乗り越すと、沢音がするようになり、薮沢に出た。腹ぺこなので、ラーメ ンを作って昼御飯にした。

 腹ごしらえのあと、調子を上げて登るはずだったのに、背中の稜平の重さと寝不足が体 にこたえて、登りが急になるほどに、ペースはがっくり落ちる。沢には小さく残った雪渓 もあった。ガレた急坂にさしかかると、15分歩いては休むという状態になった。岳彦は 元気。遥子は、4人分の荷物をほとんど一人で背負っているが、元気だ。休んでいる私の 顔を見て、真っ青だよと、いう。息が苦しい。(実は、これは軽い高山病の症状だったこ とを、後に北岳で本格的な症状に見舞われたときに、思い出したことだった。)
 花が次第にふえて、シナノキンバイが混じるようになると、道はいったん沢を離れて、 尾根側に取り付き、ひと登りで馬の背ヒュッテに出た。(13時30分)

 ヒュッテの上に、小仙丈から仙丈ケ岳にかけての稜線が見える。カールも2つ数えられ る。カールはかなり明瞭で、ボーデンの盛り上がりもよくわかる。なるほど仙丈ケ岳はス ケールの大きな山だ。
 ヒュッテは昨年、新築したばかりの真新しい木造で、感じがいい。水は、カールの方か らホースで引いてきている。その間に温まってしまうのか、あまりおいしくない。
 この日のうちに登頂していれば、翌日の気落ちはなかったのに、体がいうことを聞いて くれないので、4人とも小屋でゆっくり昼寝をした。

 夕食は、実がほとんど入っていないカレーを、炊き損じでぐちょぐちょになったご飯に かけたもの。私と遥子は落ち込んだが、子どもたちは例によって小屋の中を走り回って大 暴れしていた。

 夜半、周囲の樹木が強風でうなり、雨が窓ガラスをたたきつける。朝になっても、断続 的に激しい雨が降る。突然、発生した熱低が、太平洋岸に接近し、2、3日は雨に降り込 められるとのこと。静岡と神奈川には大雨注意報が出された。
 なんとか山頂へと、私だけ偵察に小屋から少し登ってみたが、風雨で体をささえるのが たいへんなくらい。山頂の往復は断念して、道が閉鎖されないうちに、できるだけ早く広 河原まで下山することにした。……



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野原 森夫