三ノ沢岳 霧の中に姿を見せた、カールと山頂

2006年7月31日




宝剣岳から、西(右)へのびる支稜線の先にある、三ノ沢岳 (右端)の風格ある山容
2005年に木曽駒ヶ岳から撮影


 中央アルプスの北部の主稜線から離れた位置にある三ノ沢岳に登った。三ノ沢 岳は、東面が大きなカールでえぐられ、堂々たる独立峰のようにそびえる山だ。主 稜線から、ほど良く離れた位置にある展望の良さ、静かな稜線での花との出会い など、気になる山の要素をもつ山でもある。
 今回は、足が不調のカミさんを飯田市の友人夫妻宅に送り届けて、飯田市から日 帰りで往復するという日程ででかけた。昨年、木曽駒ヶ岳に花の撮影行で出かけた ときに登り残した宝剣岳も、帰り道に登ってきた。

///////////////////////////////////////////////////

飯田市内(6:45)車→中央道・飯田インター→駒ヶ根インター→萱ノ台バスセン ター(7:25着 7:47発)バス→しらび平・ロープウェイ→
千畳敷駅(8:32着 8:43発)→極楽平→三ノ沢岳分岐(9:16)→三ノ沢岳(10:53着 11:09発)→三ノ沢岳分岐(13:08着 13:24発)→封建岳南稜の岩場で渋滞→宝剣 岳(14:02)→宝剣荘前(14:09)→乗越浄土→八丁坂→千畳敷駅(14:57着 15:20発)
ロープウェイ・バス→萱ノ台バスセンター(16:40着 16:50発)車→中央道・駒ヶ根 インター→飯田インター→飯田市内(17:35)

///////////////////////////////////////////////////

 千畳敷に上がるルートでは、ロープウェイよりもバスであがる林道が、怖いところだ と思う。1968年にロープウェイが開通してから、ずっとピストン輸送をしている小 型バスだが、道は崖の切り通しのような急傾斜の山腹を、上がって行く。道路の上には ところどころ樹木さえ倒されたような、急な法面がある。地滑りや土石流がにまきこま れれば、真下に見える大田切川のV字谷まで、あっという間の地形。そのうえ今回は、 半月ほど前の豪雨で土石流が実際に発生し、大量の土砂が枝沢を埋 めた場所を通過した。濁流が沢床に設置された道路を地盤ごと流していた。削られた山 腹から押し出された大岩が沢床に転がる景観も生々しく、「この道は大雨のときは絶対、通 りたくない。山よりここが怖い」とつくづく思わされた。

 バスが着いたしらび平で、ロープウェイに乗り換える。平日なので待ち時間はなし。ロープ ウェイは、霧の中をは高度を上げる。



千畳敷カールから、宝剣岳

 

 千畳敷に着くと、宝剣岳が真っ青な空にまぶしい岩峰を突き上げていた。天気はまずまず。
 8時47分出発。
 ロープウェイ駅のテラスのすぐ10メートルほどのところにある駒ヶ岳神社のT字路で、 右にカールを横断して八丁坂へ向かう道を見送って、左折。島田娘の北東斜面に大きく電光 形に切られた登山道を、稜線へと登りだした。

 今回は、三ノ沢岳の頂からの展望とともに、ルートを彩る花の撮影が目的だ。登り始めた 登山道では、ナナカマドの白い花、スミレ科のキバナノコマノツメの群落、コイワカガミも 花の見ごろで、良い被写体に出会うたびにシャッターを切った。ヒメウスユキソウ(コマウ スユキソウ)もわずかな株が見つかり、ちょうど花の季節を迎えていた。
 稜線の極楽平へ上がりつくこの道は、宝剣岳と千畳敷カールを南東側の高い位置から眺める ことができる。この「画角」は初めてで、八丁坂へのルートよりもこのルートの方が、光線 の角度も、宝剣岳が画面にうまく収まる面でも、眺めは上だと感じた。
 極楽平までの標高差は約300メートル。30分前後で主稜線に登りつく。

 

 稜線からの、楽しみの三ノ沢岳の眺めは、ガスの中だった。宝剣岳も千畳敷側は開け ているが、西面は、木曽側からの上昇気流が霧を濃くしながら吹き付けてきて、西半分 は姿が見え隠れしている。
 風が生み出した風衝地形が展開するザレ地を少し登ると、9時16分、三ノ沢岳分岐 の道標に着いた。この一帯でも、ヒメウスユキソウの姿が見つかった。チョウノスケソ ウ、ハハコヨモギは、登山道付近では見つけられなかった。

 そのまま三ノ沢岳への踏み跡を、下降する。霧は晴れないが視界は数百メートルはあ る。とりあえず目の前に見えている稜線上の最初のピークが目標だ。
 この支稜線の左側(南面)は、冬の降雪が吹き溜まり、遅くまで残雪が残る場所のよ うだ。チングルマ、イワカガミなどそこらじゅうに湿性の花が群落をつくっていた。ハ イマツ帯に入ると、今度は見ごろのハクサンシャクナゲが姿を見せる。
 そして、前方を見上げると、中空のガスが割れて、三ノ沢岳の山頂部が黒々とした姿を現 し始めた。こいつは、ずいぶん高いところに! そして、けっこう遠くに! そして、期 待通りに堂々とした風格がある山ではないか! ガスがさらに薄くなっていくと、山頂の 左下に大きく、深く削り取られたカールが全容を現し始めた。
 なるほど、風格がある。いい姿をした山だ。



中空のガスが割れて、三ノ沢岳の山頂部が 姿を現し始めた。けっこう、高く、遠い! 

 中空のガスが割れて、これから登る山頂部が、高い位置に姿を現したという体験は、学生 時代にニセコアンヌプリの頂から後方羊蹄山を眺めたとき以来だった。
 運が良ければ、あの三ノ沢岳の頂から、木曽駒―宝剣岳―空木岳の大パノラマが眼前に展 開するかもしれない。

 道は、ハイマツや潅木をかき分けるような区間もときにはあるが、稜線の花は、程よい間 をおいて、入れ替わりで姿を見せてくれる。コケモモの愛らしい花は、いま真っ盛り。ヨツバ シオガマ、マイヅルソウ、ゴゼンタチバナ、ツマトリソウ、ミツバオウレンなど、夏山らしい 花々が、出迎えてくれる。タカネザクラは、直径3ミリほどの暗紅色のサクランボをつけてい た。左手の伊奈川源頭部からは小滝の水音が響き、コバイケイソウなどが草付きの斜面を埋め ていた。コバイケイソウは葉をしげらせてはいるが、花は今年はわずかだ。
 中間地点を少し超えたあたり、ルート上の2つ目の小ピークでおにぎりを食べ、高度障害よ けにしっかり水分を補給した。ここからは、山頂直下の急登にとりつく登山者の姿が見える。



あと一登りの位置まで、迫ってきた。山頂部の左手がカール 

 2度の小さなアップダウンのあと、山頂部の登りにとりついた。ルートは、カールの上端の 100メートルほど右手で山頂へ続く尾根に到達する。そして尾根の進行方向に山頂につながる 岩場を右手に見送って、南東側へ乗り越す。
 乗り越した場所は、ここも遅くまで残雪が残る、沢の源頭部だった。傾斜は緩い。広大というの とはほど遠いけれど、一帯はお花畑が道の両側に続く、美しい場所だった。ハクサンイチゲとチン グルマ、コイワカガミが目立つが、鮮やかな赤紫色のハクサンチドリが、あちこちに群落をつく り、このお花畑の引き立て役になっている。展望のことを忘れて、またしばし、撮影のひとときを すごした。

 山頂を右手前方(北西方向)に見ながら、穏やかに少しずつ高度を上げていくこの迂回路を 進み、ほとんど山頂の南東側に回りこんだあたりで、小さなガレ場を登って、三ノ沢岳の三角点 に到達した。
 10時53分着。



山頂

 その三角点より、1メートルほど高いと思われる岩のテラスで、一休み。主稜線のガスは晴れ ず、木曽駒も宝剣も、ここから見ることはできなかった。空木岳も完全に雲の彼方で、熊沢岳ま でがようやく、という展望。それでも、個性あるこの山の頂に来れたことはうれしかった。

 

11時09分、さあ、こんどは下って登って、主稜線へもどらねばならない。サングラスを外 して、レンズもマクロレンズをセットし、帰路は完全に花の撮影優先のスタイルになった。途 中、私よりひとまわり以上、若い、名古屋市の男性と花談義をしながら、歩いた。帰路、木曽駒ヶ岳 が姿を現し、宝剣岳もわずかな時間、顔をのぞかせてくれた。
 歩いたり、止まったりの繰り返しで、主稜線の分岐に帰り着いた。(13時08分)



帰路、ガスの晴れ間に、わずかの間、宝剣岳の先端が見えた



左端、木曽駒と、中央は中岳

 ここから、ツアー登山者らで渋滞する南稜の岩場を通って、宝剣岳へ。(14時09分)
 乗越浄土、八丁坂経由で、千畳敷駅に14時57分に帰り着いた。



宝剣岳の南稜ルートは、難所が続く。渋滞

 千畳敷カールは、今年、7月上旬になっても大量の残雪が残り、とくに八丁坂ルートは雪山経 験者以外は危険と注意が出されたほどだった。
 そのカールが、ひと月もたたないうちに、残雪がほんのわずか残るだけの真夏の姿に変貌して いた。高山植物の生育は1週間以上は遅れている様子。シナノキンバイ、今年は花が極端に少な いコバイケイソウなどはまだ盛期にいたらず、ウサギギクなども生育途上。八丁坂の一帯は花が去 年よりずいぶん少ない。カールのクロユリもようやく時期を迎えたところだった。

 


http://trace.kinokoyama.net  
南アルプス・中央アルプス・八ヶ岳 Indexへ
HomePage TOP へ

記事、写真の無断転載を禁じます Copyright (c) Nohara Morio.
since Nov.2000


野原 森夫