コスモ(越百山)と南駒ヶ岳――中ア中部の2山縦走

2003年8月23〜24日 2人パーティー




赤い屋根の越百小屋越しに、越百山の山頂部(8月23日夕)

 「コスモ山」、こんな響きのいい名前をもつ好展望の山を知ったの は、恥ずかしながら去年(2002年)の秋のことでした。さっそく中アのガイドブックを 求め、登る計画を立て始めました。
 最初に立てたプランは、東の伊那谷側の中小川林道から往復する日帰り 登山です。しかし、隣に名峰・南駒ケ岳があり、ここもぜひ登りたいとな ると、2日かけてのプランが必要です。このときは日帰り しか余裕がとれず、常念→蝶の縦走に変更しました。

 今回、実行したのは、西の木曽側の伊奈川ダムから入る計画でした。
 1日めは越百小屋(避難小屋の方)に宿泊。
 2日目に、→越百山→仙涯嶺→南駒ケ岳と縦走して、西に張り出した尾 根(南駒ケ岳西尾根→北沢尾根の踏み跡)を伊奈川ダムへと下降する周回ルートです。
 私にとってずっと未踏だった中央アルプスに、初めて入ったことに なります。




今回のコース。黄色は登山道。
赤いトラックは南駒ケ岳から踏み跡をたどった下降ルートで、ハンディGPSで記録したもの。
緑色は林道部分。
国土地理院25000分の1地形図に踏み跡の記載がないため、 同地形図にカシミール3DでGPSの軌跡をとりこんだ。
GPSデータは、記録したままの修正なしの生データ。
25000分の1地形図は、「山旅倶楽部」オンライン。


 印象深かったのは、南駒ケ岳の西尾根下降ルートの好位置から、間近に 眺めた空木岳の姿でした。
 それから奇跡ってあるんですね。ずっと霧の稜線縦走だったのに、南駒ケ岳の 山頂に立った瞬間からわずか1時間余り、見る見るうちにガスが飛ばさ れて、中ア北部、御岳、乗鞍、富士山、南ア全山、北アの展望が開けま した。うれしい、至福のひとときをすごしてきました。
 もう一つ、運が良ければ、と期待していた、越百小屋で星空を眺めた いという願い。これも、かなえられました。天の川と夏の大三角などが くっきり眺められ、火星観察のおまけがついて。
 この夏は、雨ばかり。展望の機会は稀少なことだったのに。
 Cosmos の幾百千万の星々に感謝、感謝の山行きでした。

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8月23日
東京・西多摩の自宅(4時35分)車→中央道・長野道→塩尻インター (6時44分)→伊奈川ダム上部の登山口・駐車場(8時31分着、4 9分発)
→林道を登る→福栃橋・登山道起点(9時31分着、42分発)→下の 水場(10時09分)→下のコル(10時24分着、31分発)→オコ ジョ平(11時03分着、21分発)→見晴らし台(11時45分着、 52分発)→上の水場(12時15分着、42分発)→福栃山横巻地点 (13時17分)→越百小屋(13時43分着) 避難小屋泊

8月24日
越百小屋(5時04分発)→越百山山頂(5時46分着、6時02分 発)→仙涯嶺(7時03分通過)→途中食→南駒ケ岳(8時34分着、 9時50分発)→西尾根・北沢尾根ルート→2411メートルの三角点 (11時07分通過)→1850メートルの標識(12時17分通過) →ロボット雨量計(12時32分着、休憩)→ニワトリ小屋橋(13時 17分通過)林道下降→福栃橋(13時42分通過)→伊奈川ダム上部 の登山口・駐車場(14時17分着、31分発) 車→

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8月23日
 登山口は、伊奈川ダムから林道を1・5キロほど上った「今朝沢橋」です。
 この橋のたもとに、車を通せんぼする柵があり、道路左手に駐車場が 設置されていました。
 50台収容の駐車場はほぼ満杯。この数の多さは予想外でした。
 ようやく好天の週末となったせいでしょうか?
 伊奈川ダムが、人気の空木岳への、木曽側からの重要な登山口になってい ることも、登山者が意外に多い理由のようです。

 

 8時49分発。
 まず40分の林道歩きです。車止めの柵を抜けると、 すぐに今朝沢橋です。左に、伊奈川林道をすすむ空木岳へのルートが分 岐しています。
 私たちは、右へ、今朝沢林道をたどりました。
 今朝沢は、白い花崗岩 が沢床を埋め、深い水が青緑色に澄んでいます。石に苔はなく、川虫が極端に少ないと 思うのに、淵にはイワナがゆらゆらと泳いでいました。でもやはり、体 がやせて見えます。いっしょに泳ぎたいような、透明感のある沢の色で す。
 林道も白い花崗岩を砕いたものが敷き詰められていて、強い夏の日差 しの照り返しがきつい。

 越百山への登山道は、福栃橋から始まりました。枝沢の福栃沢を渡る橋です。
 登山道は、80メートルほど沢の右岸(上流から見て)を進み、堰堤 に達したところで、左手の暗い樹林帯に入っていきます。日差しを避けら れるのがありがたい。
 ひと登りで最初の水場に出ます。登山道左手10メートルほどのと ころに湧水があり、塩ビパイプの口から毎秒コップに1杯ほ どの水が流れ落ちてきます。手がきりりっと痛いほど冷たい。汗に濡れ たバンダナをこの水に浸して、鉢巻を締めなおしました。

 あとで下のコルで出会った登山者に聞くと、この水場は、昨年はほんのちょろちょ ろしか水が出ていなかったとのこと。
 上の水場(7合目の上)は細い沢水を利用してい ますが、こちらも今年は勢い良く水が流れ落ちていました。去年は この上の水場の沢水も、こころもとない状態だったそうです。
 この2つの水場は、年によって不安を残す条件にあります。
 中アのこの近辺の水場では、空木岳避難小屋はまだ条件はいいもの の、摺鉢窪は例年、夏には枯れ、木曽殿から倉本へのルートの水場もし ばしば使えない場合があるそうです。明日、私たちが下降する南駒ケ岳 の西尾根、北沢尾根のルートも水場はなし。
 中アの中部は、残雪がないだけに、水に困る地域であり、登山者の側で 用意と情報収集がいるところです。

 私たちは、上の水場で数種類の容器に沢水を注ぎ込み、合計8リット ルの水を1泊2日2人分の行程のために用意して小屋へ上がりました。
 でも、越百小屋に着いて見たら、小屋では今年、沢水のポンプアップ を開始したところで、宿泊者らに制限なしに飲料水を提供し始めていま した。雨が多く水に恵まれた今年、裏手の流しで洗濯までしている宿泊
者もいます。
 でも、持ち上げた水は、夕、朝、翌日の行動にと十分に役立ちまし た。

 登山道は、下の水場を過ぎても、尾根のかなり上部まで、古い時期に植林さ れた杉が見られます。このルートの特徴でしょうか。木曽は古くからの杉の産地 だけに、下山時には幹の周りが1メートルを超す杉の巨木も見えました。
 杉の姿が見えなくなると、樹林がツガやモミなどの針葉樹だけに変わります。し かし、森林限界が高いために、標高2300メートル余り小屋までずっと森の 中。そのため、周囲の山の眺めはなかなか得られず、かろうじて「御岳展望台」 と呼ばれる7合目付近で、南駒ケ岳と仙涯嶺の姿を撮影することができました。



見晴らし台付近から、 南駒ケ岳。明日、下降する尾根が見渡せる

 夏山の好天の週末というのに、越百山を行き来する登山者は少ない。 小屋までの行程で、登る人は3人、下る人には9人にしか、会いません でした。登山口を埋めていた車の数と、勘定が合いません。やはり、空木 岳をめざした人が、多かったのでしょうか。

 

 ところが、小屋へ着いて(13時43分)、しばらくして、日が傾く 時間になってくると、この予想は一部、裏切られました。小屋は、 最初のうちこそ、閑散としていたものの、人はどんどん増えてい きます。結局、40人の定員がほぼ満杯。忙しく、てきぱきと準備を すすめる小屋のご主人の伊藤さんの、よく通る独特の声が、周囲に 響き渡ります。
 越百山をピストンする人、空木岳や南駒ケ岳から足を伸ばして縦走し てきたパーティーなど、小屋の前の広場でそれぞれに車座をつくって、 夕食前の宴会を始めたグループも出始めました。

 「越百小屋の主人は、コーヒーに凝っていて、うまいコーヒーが飲め る。食事も野菜のてんぷらがおいしい!」 と書いた9月号の山の雑誌 の記事をカラーコピーで持ってきた女性もいました。満員の秘密は、こ こらへんにあったのかも。
 この晩、小屋は、布団2枚に3人が眠る混雑。

 私たち2人は、隣の避難小屋を使わせていただきました。炊事場 兼  食事室の土間と、奥にシュラフで15人くらいは詰めて眠ることがで きる2段の板の間があります。建物は古い。
 名目は20人収容。この日は、7人が宿泊。1人で畳1畳分ほどが使 え、そのうえ丸太を割ってつくったテーブルがある土間でくつろげます。
 利用料は、1人2000円。高いと思いましたが、水も、トイレも、 支援を受けられるし、避難小屋につきもののゴミもまったくあ りません。条件は、まずまずではないでしょうか。

 小屋の方では、7時までに2回に分けた夕食がすんだら、いっせい消灯・就 寝となりました。
 避難小屋では9時過ぎまで宴会が続きました。
 酒は少しだけの私たちも、食事には荷の重さを考慮せずに、力を入れ ます。妻が野菜をテーブルに広げ、携帯フライパンでナスやピーマンを 炒め始めました。生のキュウリも4本持ち上げ、もろみ(味噌)をつけて、かじり ます。果物も、梨、プルーン、キューイとそろえ、今日明日 の行動食には、おやつに「豆かん」「あんみつ」を用意。コーヒーはも ちろん、ケーキだけでも4,5種類は担ぎ上げてきました。

 夜、越百山の山頂部は雲がかかっています。
 それでも空の4分の3ほどの範囲が晴れ上がり、久しぶりに見るすば らしい星空が頭上に広がりました。デネブ、アルタイル、ベガ。天の川 の周囲に「夏の大三角」がきらめきます。
 「あれは、火星じゃないのか」という方向には、数段明るいオレンジ 色の星が姿を見せました。
 デジカメを15秒露出、設定感度400、マニュアルフォーカスで無限大 に設定。シャッターを押して、長く待たされ、液晶モニターを覗くと、 その星空の一部分が画面に再現されました。
 北斗七星を入れて、宴会が続く避難小屋も撮影しました。



越百小屋と星空。北の北斗七星の柄杓の枡が写っている。
右端には、航空機の点滅ライトも見える。
灯りがともっている部分が、避難小屋の食事場所の土間。
その右の屋根の下の、消灯した建物が越百小屋


モニターのコントラスト調整の度合い等によっては
小さな星やノイズが見えにくいと思います。
画像を保存した上でフォトレタッチ・ソフト上で読み出し
コントラストを軟らかくすると、見えてくきます。


8月24日
 霧が深い朝です。4時30分ごろ、稜線にかかる雲が淡く橙色に染ま りました。稜線そのものはガスの中です。
 越百小屋を5時04分発。



 越百山山頂に5時46分着。風が強く、伊那側のくぼみに下りて、風 をよけました。
 霧が深く、視界は10メートルくらいでしょうか。登っている山の形 もわからない状態です。この山からの眺めを楽しみにしてきたのに。

 仙涯嶺に7時03分着。強い風が一瞬、岩場の霧を吹き払い、巨岩が 縦に寄り添うようなこの山の異様が確認できました。でも、また、霧で す。上空は晴れているのですが、これでは、今日は展望はのぞめそうに ありません。



仙涯嶺の下降で、切れ落ちた岩場のトラバースがあった

 南駒ケ岳への登りで、ルートがより安全な伊那谷側へふられると、沢 の源頭に広がるお花畑にそって登る道になりました。展望はもうあきら めたので、何度も立ち止まって花を撮影しつつ、すすみました。

 8時34分、南駒ケ岳着。
 やはり霧の中ですが、御岳が空に浮かぶように見えています。風が強 く、ガスの塊がつぎつぎに沢をのぼってきます。私たちよりも先に到着 していた登山者らは、「今日は仕方がない」といって、空木岳へ縦走に 移りました。
 そのとき、不意に雲間に灰色の岩の稜線の一部が見えました。空木岳 のどこかでしょうか?
 ガスが薄くなったり、切れかけると、空木岳は次第に全容を現し始 め、私もせっせとこの時しかないとシャッターを切りました。



 そのうちに、雲間には宝剣岳の岩の山頂部や、三ノ沢岳のほぼ全体が 見えるようになり、ついに木曽駒をふくむ北部の主要部が姿を見せ始め ました。
 30分ほどもかけて、視界はどんどん透明感を増していき、メモリー カードを急いで2枚目に切り替えたあたりで、ついに周囲にさえぎるも のがない展望が開けだしました。私たちだけでなく、居合わせた6人ほ どの登山者が、「これは奇跡のようだ」と声を出して、撮影を続けてい ました。



 南アが、光岳、聖岳から、甲斐駒まで、ほとんど全山がシルエットに なって見えました。
 富士山は塩見岳の右に接するように、あります。

 中アは、木曽駒から越百山の向こうの奥念丈岳の方面まで、よく見渡 せました。

 御岳、乗鞍岳は、どちらも雲に浮かんだ大きな島のようでした。

 

 驚いたのは、短い時間だけでしたが、三ノ沢岳の後方、接する ように、穂高連峰とおぼしき山並みが姿を見せたことです。山頂では、 あれはどこの山だ?と話題になり、私は、奥穂から槍までほぼ直線に重 なり合って見えているのかもしれない、と言ってみました。

 気がついたら1時間以上も、カメラを構えつづけていたことになりま す。
 9時50分、西尾根の下降を開始。
 人の背丈のサイズを圧倒する巨大な花崗岩が折り重なるような尾根 を、消えかけた赤いペンキの印を追いながら下りました。前日、ここを 登った登山者に、しっかりした踏み跡が続いていることを聞き、安心し ていました。けれど、この花崗岩地帯の通過は、注意がいるところで す。岩から岩へ渡る一帯は、踏み跡は消えています。



南駒ケ岳の西尾根の下降路をふりかえる。上部は花崗岩の岩尾根

 

 岩の多い尾根を抜けると、今度は左右が崖や崩壊地形になっている場 所が、時々現れる地域を下ります。やせ尾根で、踏み跡部分だけが幅5 0センチだけ残されているような場所もありました。
 このあたりからの空木岳は高度感があり、大きい。やはり登らねばな らない山だと感じます。南駒ケ岳も巨岩累々、野武士のような威圧感が あります。摺鉢窪には、やがては行きたいな。



南駒ケ岳の下降の途中で、空木岳が立派

 西尾根から北沢尾根に移る場所、そこからまた支尾根を選ぶ場所な ど、要所は、GPSにウェイポイントをアップしてきたので、画面の標示 でばっちり確認できました。

 2411メートルで支尾根にルートを切り替えると、あとは体力勝 負。左側がずっと崩壊地形が続く場所の、樹林の中の、ものすごい急降 下です。妻が足裏を痛めて、ペースががくんと落ちました。途中、水場 はまったくなく、今日のために用意した2人で3リットルの水は、1 リットルを残すのみとなりました。
 ようやく今朝沢に下り立ったあと、古い残置のつり橋を右手に見送っ て、今朝沢沿いを200メートルほど登ります。ここまでに崩壊地帯の 真下の枝沢(うち2つは渇水期は涸れ沢だが、増水時は渡るのはむずか しくなる)を3度、渡ります。
 やっと「ニワトリ小屋橋」に行きついて、鉄の階段を降りて林道に着 地し、この橋を渡りました。(13時17分)

 登山口まで1時間強の林道歩き。何度も後ろを振り返り、たどってき た尾根を探しつつ、下降しました。充実感のある山旅でした。

 


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野原 森夫