甲斐駒ヶ岳――花崗岩のランドマークに登る 2002年8月21日 3人パーティー
甲斐駒は、鋭い三角錐の姿が、どこから眺めても良く目立つ 山だ。2966メートルの高度も南アルプス・赤石山脈の北端 の「ランドマーク」として、十分な資格がある。そのシルエットだ けでもとても個性的なのに、森林限界から上部は、どの方角か ら遠望しても、花崗岩の岩場が白く光って見えて、これもまた印 象的。私は道志の山から眺めたときに雪と間違えたくらいで、こ の白い岩場も甲斐駒のもう一つの目印になっている。 この山に礼を尽くすならば、ほんとうは標高差2200メートル を超す黒戸尾根から登るべきと思う。でも今回は、スーパー林 道を使って北沢峠から、1泊2日の予定で入山した。北沢峠か らだと、標高差は約900メートル余り。長衛小屋→仙水小屋→ 仙水峠をへて、駒津峰(こまつみね)から岩の尾根筋をたどる 道(直登コース)を登って、山頂を往復した。 写真もいっぱい撮って、時間をかけて歩こうと、登りで仙水小 屋の天場に荷物をデポして軽い荷で往復した。結果的に、ずい ぶん早くに仙水小屋に下降して、その日のうちに自宅に帰り ついた。夏時間の村営バスの運行にも助けられた。 天気は晴れていたものの、稜線には昼前からガスが舞い、 中・低層は薄い雲が覆っていた。登りでは北岳、仙丈ケ岳が 見えたものの、南アは間ノ岳が見えたり、隠れたりという状 況。早川尾根とアサヨ峰は予想外に高度感があり、立派に見 えた。あの尾根を越えて広河原に入った時代もあったことを思った。 *************************************東京・西多摩の自宅(3時16分発)車→中央道→甲府昭和インタ ー(4時22分)→広河原・駐車場(5時32分着、6時52分発)村営 バス→北沢峠(7時12分着) 北沢峠(7時13分発)→長衛小屋→仙水小屋(7時55分着、テン ト・ザックデポ、8時10分発)→仙水峠(8時31分着、食、同47分 発)→駒津峰(9時55分着、10時05分発)→直登コース→甲斐駒 山頂(11時16分着、同45分発)→直登コース→駒津峰(12時37 分着、同45分発)→仙水峠(13時45分)→仙水小屋(14時05分 着、デポ物資回収、同20分発)→長衛小屋(14時40分)→北沢 峠(14時52分着) 北沢峠(15時15分発、臨時バス、定時は15時30分発)→広河 原(15時35分着、16時05分発)車→(途中、夕食。中央道渋滞 あり)→東京・西多摩の自宅(19時55分着) ********************************** 広河原の駐車場に着いたのは、午前5時半すぎだった。夏時間の村営
バスが出るのは6時50分だから、まだかなり時間がある。前夜にパッキ
ングはほとんどすませて来たので、車の中でパンとお茶の朝食をゆっくり
とった。 6時10分ごろ、甲府駅からの直行バスが到着すると、バス乗り場には合わせて60人
ほどの登山者が列をつくる。出発する村営のマイクロ・バスは3台。大人
500円、荷物代は半額で、計750円。 7時12分、北沢峠着。 100メートルも行くと、小屋の手前の河原に天場が開けていて、テント が30張ほど幕営中。長衛小屋は校舎のような平屋立て、木造で、新し い水洗トイレが設けられていた。南アの開拓期に登山道を開き、登山者 を助けた竹沢長衛さんは、北沢峠の南側の大平山荘の竹沢信幸さんの 祖父にあたる。長衛小屋の前には長衛さんのレリーフが設けられてい た。 ここからは沢沿いに7回、堰堤を登ったり下りたりして登って行く。沢
が狭まり、傾斜が強くなり、ロープが垂れた小さな岩場を越すと、話に聞
いていた「水力発電機」が流れのそばに据え付けられているのが見え
た。 仙水小屋からはわずかの登りでガレ場に出、ゆるやかに踏み跡をた どっていくと、仙水峠に出た。この峠は意外に眺めがよかった。摩利支 天の岩の峰が目の前にある。その左上に甲斐駒の山頂が白く光って いる。ずいぶん高い。窓のように切れた峠からは、下層の雲がなけれ ば韮崎方面や奥秩父の眺望がえられるところだった。
仙水峠からまずとりつく駒津峰へは、高度差400メートルのきつい登
りになる。ぶどうの巨峰を食べて元気をつけて、8時47分に峠を発つ。と
きどき樹林が切れて、低木帯になる場所があり、そういう場所に出るた
びに周囲の眺めが広がってくる。 峠から60分余りで、駒津峰に登りついた。甲斐駒の山頂部をガスが 覆い始める。鋸岳への尾根は完全に雲の中。 10人ほどの団体が4パーティーほど先行し、そのあとを私たちが鞍 部へ下降する。岩と木の根が出てくる段差が大きい下りで、尾根はやせ ており、先行者は渋滞気味。2パーティーは追い越させてもらったが、ト ラバース道との分岐点からは、人が少ない直登コースをとることにし た。この岩尾根は、分岐のすぐ上に短い岩場があっただけで、むずか しいところもなくいいペースで山頂へ直上していく。 風衝地帯に生きるトウヤクリンドウが、群生している。白く可憐な気品
のある花だが、この花が生息する地域は、ザレを飛ばすような風が吹
き、冬も強風で雪がつもることのない、凍てつく裸地だ。他の植物をよせ
つけないような厳しい環境で、夏の終わりに花が咲く。
11時16分、甲斐駒ケ岳の山頂に着く。3000メートルにあと少しの花
崗岩の頂だ。 山頂からの眺め、とくに北から西の方角は、一番、期待していた。けれ ども、すぐそばの八ヶ岳もまったく見えない。ただ、北から北東の方面でず っと遠方、雲の上に、3ヶ所ほどなだらかな山並みが遠望できた。(名前 まではわかりません。) 11時45分、山頂から下降を開始。すっかり気に入った直登コースを、
またたどる。 仙水小屋に14時に着く。最終バスに間に合うことが確実になったた め、小屋に幕営のキャンセルを申し出た。応対してくれたHさんは、長 男の山小屋バイトの先輩の友人で、ひとしきり懐かしい話がか わされた。Hさんは、その友人に会いに、バイトが明けたら彼のいる太 郎兵衛平の小屋へ出かけると話していた。私の長男は、その友人の妹 さんがいる剣御前小舎へ、この9月にアルバイトに入ることになってい る。山小屋のネットワークは独特なものがあると思う。 テントなどを回収して、ヤナギランが咲く長衛小屋へ下り、北沢峠へ
登り返す。行きのときには気がつかなかったけれど、林道脇の樹林
の林床には、ヨブスマソウやコウモリソウの仲間、それにカニコウモ
リなど、「コウモリ」に縁のある植物が密生していた。 |