落ち込む沢の真下に駐車を指示する

新穂高村営駐車場


2002・8


 

 2002年8月7日朝、新穂高から笠ヶ岳に登るために、上宝村の村営駐車 場に車を停めさせてもらいました。ここは、バス停留所に一番、近 い位置にあります。その下に無料の駐車場があり、ここも何度か使 わせていただいたことがありますが、最近、各地で盗難事件が伝え られているため、有料の村営駐車場を選びました。

 

受付で料金をたずねると、「1日1500円、2日では3000 円」といわれました。
 「上高地側の沢渡では1日500円ですよ。ずいぶん高いです ね。5日間の山行の人なら7500円ですか」と私。受付の男性 (おじさんA)は、「そんなら無料駐車場に停めたらいいね」と、いいます。
 今回は2日間と登山としては短期の駐車だったため、車の 安全のためにもこの有料駐車場に停めることにしました。

 「奥から順に停めて!」といわれて、先行者が身づくろいをして いる一番、奥の場所にいきました。2台車が止めてあり、その間が 3台分開いています。そしてもう2台、間隔を開けたところに駐 車。計4台が停まっていました。
 車が停まっていない3台分の場所は、見上げると、傾斜が強い小 さな沢が落ち込んできていて、崩落が激しいためかずいぶん厳重に 崩落防止の堰堤、防護柵が整備されています。土砂崩壊を抑えるコ ンクリート工事をしてある部分で、高さ30メートルはあるでしょ うか。その上は崖状のルンゼです。
 沢と、駐車場との間には、幅8メートルほどの車道があるだけ。 一目見て、「これは危ない」と、私も沢下の3台分は開けて、沢を 外れた位置に停車しました。林道であれ、一般の車道であれ、まる 2日、3日と車を停めるときは、崖下や沢筋を外すのは、登山者に とって常識中の常識です。





 車道を間にはさんで、崩落防止工事をした急な沢が、
駐車場に向かって落ち込んできています。



 それにしても、有料駐車場に落ち込むように、こんな沢型がある なんて。
 もう一度、沢を見上げると、上部はほとんど崖状で、豪雨などで の土砂崩れはともかく、落石があれば、石は道路でバウンドして、 車体にらくらくとぶつかってくるでしょう。道路の駐車場側には、 防護柵はありません。この道は県道でしょう。道路管理者は通行中の車が落石に当たることは 避けようとして、道路の沢側に防護柵を設けていますが、駐車場に 落ちてくるような高い位置からの落石には、駐車場と道路の間には まったく柵がないのです。柵の設置は有料駐車場側の仕事ということでしょう。



 同じ位置を横位置で撮影。沢の真下は、駐車を避けたいのが人情。3台分空いています。
 私の車もこの空いた正面の位置に駐車を指示されました。
やりとりのうえ、一番奥の、区画を外れた空いた位置に、 停めさせてもらいました。
右端が私の車で、これが「協議」の結果、最終的に駐車した位置です。



沢の防護工事の道路側には駐車禁止の掲示があります。
この道は、「崩落注意、全線駐車禁止」の路線に指定されています。




 よく見ると、沢の崩壊止めの工事をしたコンクリートの断面に は、大きく赤字で「駐車禁止」の文字が描いてあります。「こりゃ あ、だめだ」と思いました。この車道(県道)は、駐車場受付のす ぐ脇に「崩落注意、全線駐車禁止」の大きな電光表示盤があるほど の、地域にあたっています。有料駐車場側に防護柵がないのがそも そもおかしい。(フロント・ウィンドーを割られただけでも12万 円は取られます。おまけに出先で部品もままならないでしょう。)

 受付のおじさんAが、私の停車位置を見て、やってきました。 ま、説明すればわかってくれるでしょう。

 「間を空けて停めちゃ、だめだ」
 「あの沢は大雨があれば危険です。今日は平日で有料駐車場は空 いていますから、間隔を開けて停めたんです」
 「指示に従うのは、規則になっている。すぐに空いている場所に 移動しろ
 「沢の真下には停めようがありません。沢下の向こう側(奥の車 のさらに奥)なら空いていますから、あそこならもしものときも安 心です。あそこではだめですか?」
 「だめだ。順につめて停めてくれ。指示に従わないなら、よそに 行ってくれ」
 「それなら、沢の下にもし停めたとして、もし車が壊れるとか流 されるとかしたら、修理代や交通費などは補償してくれるのです か? それなら、停めます」
 「そんなことはできない。受付で規則を読んでくれ。もしも車に 何かあっても、こちらでは一切、責任は負わない
 「それなら、やっぱり、沢の真下に停めるのは無理です」

 私はこの日、標高差1700メートル余りの登りを控えていまし た。長丁場の登りで、やっと夕方に笠ヶ岳山頂下に着くことを想定していたので、こんな議論 はとても続けたくありません。

 いったん、おじさんAが帰っていったので、やれやれと思ってい たら、今度はおじさんBと2人でまたやってきました。困った。こ んな入山基地があるでしょうか。

 「どうして間を空けて、停めるんだ?」とまた同じ質問、説明。  土砂崩れや増水、落石の危険はよく知っているはずの地域です。 こんどは私は、変化球も投じてみました。
 「もしも自分の愛車をまる2日も駐車するんだったらですよ。周 囲に安全なところがいっぱいあるのに、あなたはあんな沢の真下に 自分の車を停めますか。数時間、ロープウェーに乗って往復してく るんではないんです。私は2日間、安心して停車できるようにと、 有料駐車場を選んだんです。山を知っているなら、わかってもらえ るでしょう」
 この意見には、最後まで応答はありませんでしたが、おじさんB にはちょっと逡巡する様子が見えました。

 「でも、この沢は、もう何十年も崩落なんてしたことない」とおじさんB。
 沢の防護工事の様子を一目見れば、そんな説明はとても成り立ち ません。

 私は、もう一言、いいました。「そこまでおっしゃるなら、わか りました。指示の通り、沢の真下に停めましょう。ただし、運転者 が自己責任で果たす以上のことを、あなた方は私に強いたことにな る。万一のことはないことを祈りますが、もしも何かあったら、い ままでのやりとりと指示は、客観的に残りますよ。万一のときに は、私はそれを主張します。早く登山したいので、それでいいです ね」

 すると、おじさんAは、「そんなことをいうんだったら、お金は 返す。出ていってくれ」といい出しました。私も、「もう無料駐車 場でいいや」と心を決めました。

 すると、おじさんBが、「それなら、あそこなら停めてくれる か?」と言い出しました。そこは、私がさっき、おじさんAに「あ の奥の場所なら、沢下を避けられる」と提案したところです。「そ こなら、大賛成です。さっそく移動します」と、愛車を駐車場の奥 の車のさらに奥の3台ほど空いた空間に移動しました。

 ようやく用意が終わって、登山開始。と、受付のそばまで歩いて くると、おじさんAはまた私のところにやってきて「規則を読んで くれ」といいます。もう話したことだし、「規則」には「指示に従 え」「責任は負わない」と書いているだけです。その「指示」がい ま問題なんです。「いやもう、さきほどのやりとりで身にしみてわ かりましたし、あそこに停めさせていただいてたいへんありがたく 思っていますから」と、私は、新穂高からワサビ平への林道を歩き 出しました。
 入山初日、こんな暗い、不愉快な思いをしたことはありませんで した。

 翌日午後、再び駐車場にもどってきたとき、停車している車は4 台だけで、そのすべてが前日と同じ車のままでした。あたりは、ガ ラガラ。沢下も空いたまま。

 管理人の方は、年に数日の大混雑に日に、駐車場の入り口付近に 駐車する一部の不心得者に対応する熱心さのあまり、実情に合わせ た対応を忘れてしまったのかもしれません。また、沢下の危険を意 識しないで車を停める観光客は、中にはいるかもしれません。

 それにしても、こんな地形的・防災的条件にある公営駐車場で、 しかもこんな防災無策と「指示」が行なわれているところが、ほか にあるでしょうか。
 ほんらいならば、山を良く知る地元の管理者こそ、遠方からくる登山者 にたいして、安全な駐車位置や土石流・落石の危険について啓蒙・注意 する立場にあるはずです。これでは、さかさまです。
 日本で屈指の登山基地、新穂高の有料村営駐車場が、このままで いいのかと、思います。



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野原 森夫