蓮華温泉 兵馬ノ平と、森の探索。星空キャンプ 

2007年8月中旬





翌朝、兵馬ノ平への道で、朝日岳が姿を見せました
   

 白馬岳蓮華温泉は、新潟県糸魚川市の平岩(JR大糸線平岩駅)から、林道 を車で1時間、登った場所にあります。標高1450メートル。北アルプスの 主要な登山口のなかでは、一番、北東側にはずれた位置にあります。
 17年前、家族登山で朝日岳、雪倉岳、白馬大池と周遊登山をしたときに、起点 にしたのが、この蓮華温泉でした。(記録は、こちら
 あのとき泊まったキャンプ場、朝日岳への登りのコースにあった静かな森と湿 原をもう一度訪ねたいと、カミさんと2人のキャンプに出かけました。




蓮華温泉とキャンプ場、そして蓮華の森の周回コース。
赤い軌跡は私たちの探索ルートを示す、GPSトラックログ。
カシミール3Dを使い、山旅倶楽部の国土地理院25000分の1地形図を使用。


1日め

 蓮華温泉に午後3時すぎに着きました。
 途中、平岩までの国道は見違えるように改良がすすみましたが、そこから温泉へ 上がる林道は、標高差1200メートルの九十九折の急登。崩落箇所の補修はい ぜん、自然の力に追いつきません。舗装の路面は不自然な沈み込みがあり、地盤 じたいの地すべりの跡が見られます。ここはフォッサマグナの断層地帯、そして 有数の豪雪地帯です。

 お盆休みにさしかかった温泉は、施設全体が建て替えられていました。ひなびた 感じはありません。外観は赤い屋根、板や柱に茶色の塗装と、ロッジ風、山小屋 風の造りになっています。
 温泉前の広場から、朝日岳、雪倉岳の稜線が美しく望めます。夏まっ盛りの緑 濃い山肌には、白い雪渓が刻まれています。今日も晴天、麓は35度の暑さでした。

 キャンプの手続きをすませ、カートとザックに荷物を積んで、砂利道を下って、登って 10分ほど行った「蓮華温泉キャンプ場」へ。
 一汗かかされてキャンプ場に着くと、そこにはシラビソの森に囲まれた、以前のまま の草原が広がっていました。広さは80メートル四方くらい。緩く傾斜した場内を、幅 50センチほどの小川が流れくだっています。枕木のテーブル、ベンチの配置、東屋 の炊事棟に引いた水道も昔のまま。あのときは急いでタープを張るような雨降りだった けれど、今日は入道雲が頭上に移動してきて、通り雨が来そうなことまで、ちょっと似 ています。
 違っているのは、テントが計10張りもあって、少しにぎやかなことぐらいか。
 私たちは、パラパラッとにわか雨が降り出す前に、テントを張り終えました。




今回は、子どもが巣立って、夫婦2人のキャンプです
   

 さあ、楽しみにしてきた蓮華の湯です。宿泊者以外の入浴は午後3時30分が締めな んですが、私たちは着くなり、すぐ戻りますから、と予約してきました。1人800円。
 内湯は、以前は小屋の背後にあったと記憶していますが、今は、北東端の棟にあり、浴 槽には以前にはなかったガラスの大窓が設けられて、湯につかりながら朝日岳の稜線を 眺めることができます。
 浴槽部分だけは、昔と同じで木を使っていました。
 うっすらと白濁して、硫黄の香りのよい、良い湯です。源泉72度を45度に下げて、掛 け流しています。

 蓮華温泉は、「蓮華七湯」とも呼ばれ、次のような湯が、上手の山体の崩壊地帯の各所 から、湧き出しています。
◇「総湯」、純酸性泉、内湯のこと。
◇「黄金湯」、重炭酸土類泉、建物のすぐ上手の森の中にある露天風呂。
◇「仙気の湯」、単純酸性泉、建物のさらに上手の高台にある露天風呂。
◇「薬師湯」、酸性石膏泉、一番上部にある露天風呂。石組。
◇「三国一の湯」、単純酸性泉、露天風呂。小さな湯船で、温度が低いこともある。
◇昔はこのほかに、「新黄金の湯」、「蒸湯」があった。
 こんな歴史のある、本格的な温泉つきのキャンプ場というのも、あまりありません。

 しかも、そのキャンプ場が、車の乗り入れが禁止で、徒歩でたどり着かねばならず、大 荷物は運び込むことが難しいというのも、好条件。最近のオートキャンプ場のように、人 数の割にやたら持ち込み道具類が多いというのもなし。
 車のエンジン音も、ラジオなどの騒音もなし。聞こえるのは小鳥たちの声。家族連れは3張 りで、子どもたちの話し声も柔らかく森に響きます。
 静かな時間をすごしに来る人や、登山者らが、ゆっくり体を休めたり、とびきりの一夜を 過ごすサイトになっているようでした。

 大事に持ってきたビール1缶で乾杯し、夕ご飯は、カレーライスと生味噌きゅうり生かじり。
 ひと眠りして、テントを這いだすと、満天の星がキャンプ場の空を埋めていました。おおっ、 こんな見事な天の川を見るのは久しぶりです。

 今日は「ペルセウス座流星群」が飛び交う夜です。おまけに今夜は、月齢27日め。月のない 夜空で、絶好の条件。雨がたいしたことがなくて、張るのを省略したタープを草むらに広げて、2人であおむけに 寝ころび、流れ星を数えました。猛暑が始まった日本列島で、こんなに涼しく、気持ち のいい夜をすごす幸せ。
 流れ星は、1、2分に1個の割合で出現し、1時間弱で30個ほどを数えることができました。

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2日め

 今朝も好天。登山者らは、6時ごろまでにはほとんど出発して行き、4家族プラス私た ちのテントがサイトに残りました。
 あったかいうどんに、出汁がしみたお揚げと、刻みネギをのせて、朝ごはん。チーズ ケーキでコーヒーも楽しみました。

 午前7時すぎ、キャンプ場を出発。
 兵馬ノ平へ下降し、蓮華温泉をぐるりととりまく蓮華の森に探索路を1周するコース を歩きだしました。

 最初は、ブナ林のなかを、標高差120メートルほど下ります。エゾアジサイの装飾 花の鮮やかな青、ツルアリドオシの淡く、ごく薄く、赤みがさした二つ花などに目をや りながら、ゆっくり下降してゆきました。左手、白馬大池に向かう登山道が伸びる尾根 から、枝沢が数本、流れ落ちてきて、私たちが進む登山道は木道で、それらの沢を横断 していきます。




雪倉岳
   
 15分ほど進んだところに、直径数十メートルばかりの「アヤメ平」があり、オニシ オガマの若い花茎が立ち上がりだしていました。朝日岳、雪倉岳が、青空に映えていま す。そこからわずかな下りで、兵馬ノ平に降り立ちました。




兵馬ノ平
   

 久しぶりのこの湿原は、周囲を森に囲まれ、中央部を幅2メートルほどの沢が、流れ ていました。
 8月半ば、しかも先月から猛暑が続いたため、湿原の花はすでに夏の終わりの風情で す。湿地性のヤチトリカブトが真っ盛り。ナンテンハギも大人の腰を越す背丈に伸びて、紫 が基調の多彩な色合いの花を咲かせていました。オニシオガマは、日当たりがいい場所だ けに、生長しきって、花を咲かせています。




ヤチトリカブト
   



イワショウブ 
   

 湿原の木道を進んで行くと、例の沢を渡る橋のたもとに、木造りのベンチが設けられて いました。今回のキャンプは、この湿原と周囲の森の探索が目的ですから、私たちはゆっく り腰を下ろして、花の撮影やお菓子を楽しみました。
 沢には、岩魚の姿はありませんでした。

 兵馬ノ平の西端に、朝日岳に向かう登山道と、蓮華の森の探索路との分岐がありまし た。
 私たちは、左(南)に折れて、緩やかな登りにかかりました。細い水路状のくぼ地が錯 綜するような中を、登っていきます。ギボウシの花が盛期を越えかかったところ。ミズバ ショウは葉が巨大化し、花の終わりに着けた実は、実の付け根で自然に折れて、種子を泥 の上にまこうという構えです。うまい具合に、子孫を残す仕組みがあるものです。




オニヤンマ。ギボシ平で
   
 10分の歩程で、ギボシ平と名づけられた湿地に出ました。ここは、オニヤンマの繁殖 地らしく、2、3匹が激しい縄張り争いをして、飛び交っていました。
 この最後の湿地を抜けると、尾根へのやや急な登りになります。




実をつけた、ツバメオモト
   



ズダヤクシュ 
   

 兵馬の平からは、標高差で100メートル弱を登りついたところが、「姫負峠」。うち の「姫」は、先日の鹿島槍の下山で捻挫した足をかばっての歩行ですが、基本的に足は丈夫 ですから、どんどん先行して、登って行きます。道は、峠の先でまた左(南東)へ旋回し、尾 根筋をたどるように登っていきます。針葉樹のシラビソが主体の森です。
 一帯は、「シャクナゲ尾根」と名づけられたところ。7月ごろは、さぞかし見事で しょう。




ベニハナイグチ。針葉樹の尾根で。乾燥気味だった
   
 クロベ(黒檜)の大木を過ぎたあたりで、今度は、お菓子と果物タイムをとりました。一汗 かいたあとの梨とプルーンはおいしい。

 小さな上り下りが続く尾根道を少し進むと、「カモシカ展望台」の分岐です。ここへつい て、初めてわかったのですが、「カモシカ展望台」とは、ここからカモシカが見えるわけで はなくて、朝日岳への登山道の中間地点にある「カモシカ平」を、谷をはさんで遠望できる 場所ということでした。
 カモシカ平といえば、朝日岳へ縦走したとき、朝から5時間以上も歩いて、ようやくカモ シカ平に登りあがったときのことが思い出されます。あのとき、周囲を見晴らすと、自分た ちが登りついたその高さと同じ標高に、蓮華温泉の赤屋根が見え、「この半日の行動はなん だったのだろう?」と落胆したものでした。
 朝日岳への道は、さんざん下らされたあげくに、五輪尾根の長い登りが始まるのでした。

 森で囲まれた尾根道をさらに進むと、雪倉滝を眺める分岐点に出ます。
 ここは、瀬戸川へ下降して、鉱山跡を経て、鉢ヶ岳方面に登り返す登山道の分岐です。
 樹間からようやくその姿の全体が見えた雪倉滝は、落差が100メートル近くはあるで しょう。ドーム状に切り立った岩場を10メートルほどの水流幅で、水がノーバウンドで落 下しています。滝の上部は、V字谷が屈曲して登りあがり、細い滝が連続しています。その 上部は、膨大な残雪が斜面を覆う大雪渓となって、雪倉岳へと続いています。滝の下部 は、おなじく厳しい傾斜のゴーロ帯と岩場とが続いて、瀬戸川に急傾斜で落ち込んでいま す。
 この雪倉沢を遡行するのは、ちょっとむずかしそうですが、1本南側のやや規模が小さい 谷を遡行して、上部で大雪渓に抜けるルートもとれそうでした。あのあたりのお花畑は、きっと すばらしいでしょう。

 分岐点からは、尾根筋を左(北側)に乗り越して、山腹をほぼ水平にトラバースする道 に変わります。糸魚川の海岸線が見渡せました。




クロクモソウ 
   
 右から落ちてくる枝沢を2本、あるいは3本と越えると、キャンプ場は近い。このあたり の沢は、水量は少ないものの、苔むした岩、水辺の花が、やわらかい木漏れ日に照らされ て、とても美しく感じました。クロクモソウ や、タマガワホトトギスの花を撮影。
 蓮華の森の周回コースは、沢の様子を楽しめるのも、魅力と感じました。場所はヒミツにし ておきますが、山葵が自生している沢もありました。

 道は、またブナの林に変わり、木道を進んで、私たちはキャンプ場にもどってきました。
 テントを撤収したあとは、また蓮華の湯に浸かりました。汗を流し、硫黄のよい匂いにつ つまれて、自然に親しんだキャンプをしめくくりました。




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野原 森夫