鹿島槍ヶ岳。花の稜線をたどって、大展望の山頂へ

2007年7月31日〜8月1日、2人パーティー(カミさんと)




鹿島槍ヶ岳の山頂から、剱岳と、立山別山(左)

 テントで稜線に泊まるのを楽しみにして、今年も夏の北アルプスへ行きま した。
 鹿島槍ヶ岳は、夏に、そして春にと、これまで何度か山頂に立とうとし て、かなわなかった山でした。天気の回復を見越して前日に決行を決め、雨 の中を信濃大町へ。念願かなった鹿島槍の山頂では、日本屈指の大展望が迎 えてくれました。


************************************

7月31日
東京・西多摩の自宅(5時08分 発)車→あきる野インター→圏央道・中央 道・長野道経由→豊科インター→信濃大町→扇沢(8時15分 着)

扇沢(8時51分 発)→柏原新道(途中、3回計50分休憩)→種池山荘(12 時21分 着、12時52分 発)→爺ヶ岳→冷池山荘(14時40分 着)  山 荘から150メートルの距離にある冷池キャンプ指定地で幕営

8月1日
幕営地(4時35分 発)→鹿島槍ヶ岳・南峰(5時54分 着、撮影、食、布 引岳との鞍部にもどりカミさんと合流、山頂にもどる、6時55分 発)→幕営 地(8時38分 着、食事、テント撤収、9時47分 発)→爺ヶ岳→種池山 荘(11時35分 着、12時16分 発)→扇沢(14時51分 着)

扇沢(15時25分 発)車→東京・西多摩の自宅(18時50分 着)

************************************


7月31日
 上空に寒気が入り込んだ関東・甲信越地方は、29日から2日続けての猛烈な 雷雨でした。「寒気の圏内からはずれる富山側はまずまずの好天」とよみ、早朝 の中央道を、雨の中を長野へと向かいました。
 大町から登山口の扇沢への登りにかかる、稜線はガスの中に隠れていますが、空 は明るい。上空は晴れているようです。

 8時51分、扇沢にかかる鉄橋のたもとの登山口から、柏原新道の登りにとり つきました。鹿島槍への道は、この登山道で種池山荘へ上がり、稜線上の爺ヶ岳 を越えて北へ縦走することになります。コースタイムでは、6時間ほど。
 爺ヶ岳には、初冬、4月、8月といろいろな季節にやってきました。雪がある季 節は、急な山腹をトラバースしてゆく柏原新道が雪崩と滑落とで危険地帯になり ます。そのため、私たちも、爺ヶ岳の南尾根を忠実にたどる「冬コース」を使って きました。夏道の柏原新道は、8月に下降したことはあるものの、登りに通しで 使うのは、今回が初めてです。
 登り出しでは樹林の木陰が、そして、尾根の山腹を斜めに延々と歩く区間ではガ スが、日差しをさえぎってくれました。長丁場の登りのつらさを和らげて、あり がたい。



イワナシの実。柏原新道で

 翌日の帰り道(下り)で気が付いたのですが、柏原新道が山腹をトラバース してゆく長い区間、樹幹越しに見上げると、稜線にある種池山荘がずっと見えて います。それも、ずいぶんと遠く、はるかに高い位置に、です。状況にもよりま すが、簡単にたどり着けそうもない目標が見えちゃうのは、登る意気をくじかれ そうになる場合もあります。
 しかも、種池山荘が見え出すのは、登山口からジグザグの急登を1時間ほども登 りあがって、登山道が山腹を斜上する区間に入ってからです。そこで、見えた小 屋に、「あんなに高い位置に?!」と衝撃を受ける。実際、下山のときには単独 行の年配の男性が、「山荘へあと3・7キロ、3時間半」の標識を見て、「この 標識はまちがっているんじゃないか!?」と、私たちに声をかけてきたくらいで した。休憩を入れれば、ここからでも「3時間半」は、かかる場合がもあると感 じました。
 私たちが登った日は、霧が視界も、そして暑い日ざしも押し隠してくれていて、幸 いしました。



柏原新道の上部では、扇沢の右股の源頭を渡る

 盛夏にさしかかったこの時期、柏原新道のルートの7割程度の行程までは、花 が少ないのが残念。ショウジョウバカマやイワカガミ、サンカヨウは花期をす ぎ、シラネアオイもすでに緑色の実をつけていました。
しかし、高度を上げて大小の枝沢のトラバースが始まるあたりにゆくと、山道の 両脇はぐんとにぎやかになってきます。

 そして、稜線直下で、道が電光形に急ターンを切って登り出すと、周囲は潅木 と草むらに変わり、湿性のお花畑のなかを種池山荘へと上りあがります。イワカ ガミはここまでくるとようやく花の盛り。ハンサンチドリ、クルマユリも咲きだ し、花の数ではコバイケイソウ、チングルマ、ミヤマキンポウゲ、ハクサンイチ ゲ、色が濃いハクサンフウロがとくに目立ちます。ショウジョウバカマも、ここ では開花期を迎えていました。
 ふと、視線を上げると、頭上には真っ青な空が広がっていました。私たちは ガスの中を抜け出したのでした。



湿性のお花畑のなかを、種池山荘へ

 12時21分、種池山荘着。
 立山、真砂岳、雄山へとつづく迫力の岩山が、ガスの間から姿をのぞかせま した。正面の雄山沢を埋めた雪の量がすごい。梅雨どきに雨が少なかった今年 は、例年よりも多めの雪が谷筋に残っていました。天気はどんどん回復してい るものの、立山から南の山々は、この時点ではまだガスの中に隠れていました。



コケモモの花。爺ヶ岳中峰で

 12時52分、種池山荘を出発。
 今日の泊まり場は、冷池のテント場です。
冷池山荘までは、北北西に直線距離では2キロもないでしょう。肉眼でも建物 の構造が大まかにわかるくらいの、まさに指呼の先です。今日は空気が澄んで いるため、いっそう近く感じます。それに、高度はこっちがやや高い。2時間 もかかるなんて、とても思えない距離に見えます。
 しかし、歩き出してみると、稜線をたどる道は意外に手ごわい。直線では2 キロもなくとも、稜線はまず東へ、そして北へと大きく回りこんでいます。さ らに、アップダウンがあります。

 最初は、標高差300メートル余りを登って、東の爺ヶ岳南峰へ上がります。山 頂の20メートルほど脇を、トラバース道は小迂回して、先へすすみました。
 爺ヶ岳はこの南峰と、中峰、北峰と3つのピークがならびますが、この区間が けっこう上下があり、そして長い。通過には1時間近くかかります。  3つの主要ピークを抜けて、そろそろ鞍部への下降と思ったら、鞍部までには もう1つ、2つ、小さな起伏が登下降を強いました。

 足元はザレ地や砂質の地質で、高山植物の群生の規模は大きくはありません。種 類は豊富。コマクサ、ミヤマダイコンソウ、コケモモ、ハクサンシャクナゲ、タ カネバラ、イワカガミ、そして蕾のミヤマアキノキリンソウなどがところどころ に咲いていました。
 ぐんと大きくなった鹿島槍の双耳峰を目の前に見て、鞍部に下降して、針葉樹の 樹林のなかを登り返すと、冷池山荘です。
 14時40分着。



爺ヶ岳のトラバース道から、鹿島槍ヶ岳(2日目の下降時に撮影)

 テント設営の申し込みをして、3リットルの水を購入(1リットル150円)。こ の水を担いで、150メートルほど鹿島槍方面へ登ったキャンプ指定地へ向かいま した。
 この天場は、稜線の高みの角にあり、風当たりが強そう。その分、眺めは抜群で、真 北を除いて330度くらいが見渡せます。とくに、剣・立山連峰は、至近距離で迫力 いっぱい。立山以南の北アの山々がほとんど全部、見渡せるのもすごい。南ア、富士 山から浅間山、志賀、戸隠の山々も、好きな時に好きなだけ眺められます。
 幸い、この晩は5張りのみの幕営でした。夕食は、うな丼と、生きゅうりと味噌。
 夕陽が池ノ平山の北に沈んだあとも、残照が剱岳の岩と雪を 荘厳に映し出しました。



剱岳 残照。 (冷池のテント場)

8月1日
 いつものように、私に、高度障害の頭痛がきて、バファリンを飲んでおさめま した。夜半にカミさんが胃の不調を訴えました。
 夜は、風が出始めたものの、北アの稜線にしては気温が高く、シュラフのみ、カ バーはかけずに快眠できました。
 満月が明るい朝4時に起床。私は頭痛もまったくなしの、快調。カミさんは相変わ らず不調。相談のうえ、私だけが鹿島槍の山頂をピストンしてくることになりまし た。

 4時35分、天場を出発。
 快晴で、ガスもまったくありません。キャンプ指定地のすぐ先は、稜線の東側の 穏やかな地形が続く場所を通過します。湿性のお花畑が続き、小さな池や窪地 (ごく小規模の舟形地形)が展開して、今回の山行でたどる稜線のなかでは、 もっとも花が多様な一帯でした。
 雪解けが遅かった今年は、いまがドンピシャの花の盛期。シナノキンバイ、ミヤ マキンバイの大きな群落があり、キヌガサソウもこんな稜線上で小さな群落をつ くっていました。
 5時すぎに、日の出。台風が九州に接近している余波でしょうか、風が強いなか を布引岳に登りあがり、ザレ地と岩まじりの吊尾根をたどります。この一帯で は、チシマギキョウ、ムカゴトラノオが強風に耐えて群生していました。



日の出は、高妻山の右手から。冷池の天場でカミさんが撮影



キヌガサソウ。稜線の鞍部で。葉が通常より細く、13枚もあり、やや変わったタイプ

 5時54分、最後のひと登りに20分ほどを費やして、鹿島槍ヶ岳・南峰に着 きました。
 うれしい頂です。鹿島槍は、双耳の頂とのびやかな曲線の山稜が、遠くから眺め たときもよく目立つ山でした。いろいろな山から、この山を眺めてきました。この 山に登りたいと思ってから、ずいぶん年月がかかりました。
 まずは、これまで視界がさえぎられていた、五竜岳と北方の山です。五竜岳は、 期待通りの武骨さ。予想したよりも大きな姿で、すぐ隣にありました。岩尾根のルート は、キレットの連続です。



南峰のピーク(右)から、五竜岳へつづく岩尾根



鹿島槍の山頂から、剱岳

 次は、剱岳の眺めです。鹿島槍は、真正面から剱岳に対峙する位置にありま す。岩場の小さな起伏や岩の風合いまで伝わってくるような眺めです。はるか下 方に黒部別山を従えて、三ノ窓、小窓の雪渓と、左に剣沢雪渓が立ち上がり、高 度感も申し分がありません。剣岳は、太陽が上昇するごとに、刻々と明るみをま し、コントラストを強めていきました。

 遠望でも、鹿島槍ヶ岳は日本屈指の展望の山です。
 最遠望は、鳥海山。距離は340キロ。妙高連山の金山の隣に、日本海ごしに 見えてくるはずですが、今日の好条件でも、さすがに無理でした。
 今朝、一番遠くに見えているのは、
 富士山    165キロ
 男体山    156キロ
 日光白根山  146キロ
 光岳     145キロ
 燧ヶ岳    142キロ
などの山々でした。



鹿島槍ヶ岳の山頂で

 撮影と朝食を終えて、下山を始めたら、布引岳との鞍部に、どうもカミさんと同 じ黄色のヤッケの人影が見えました。降りて行って合流すると、やはりカミさんでした。
 「そこまで来たんだから、どうしても登りたかった」とのこと。体調は、お茶を 飲んで日の出の山々を撮影していたら、元気が出てきたんだとのことでした。いろ んな山から眺めてきた鹿島槍に、やはりいっしょに登りたかったのでしょう。
 山頂に登りかえして、記念撮影。もう一度、大展望を楽しみました。



爺ヶ岳から、種池山荘への下降(2日め)

 6時55分、山頂から下山開始。
 花の撮影で、ゆっくり時間をかけて下って、8時38分に天場にもどりました。
 テントを撤収し、9時47分 発。

 種池山荘で、1個500円のアイスクリームをそれぞれ食べて、残りの果物で元気 を補給。
 今日の柏原新道は、登山者がぐんと増えたようです。カンカン照りの日向 道と、木陰でほっとする一瞬とを、交互に味わいつつ、扇沢へと下降しまし た。(扇沢 14時51分 着)



種池から、柏原新道を下降。爺ヶ岳がずっと上方に(2日め)



http://trace.kinokoyama.net  
北アルプス Indexへ   HomePage TOP へ

記事、写真の無断転載を禁じます Copyright (c) Nohara Morio.
since Nov.2000


野原 森夫