山小屋アルバイトで問い合わせてきた
Hさんへの返信メール

2002年7月

 Hさん、こんにちは。メールいただきました。  今年の夏は、二男(高校2年)が今日(7月19日)、1学期の終業式が終わった後に、夜 行のアルプス号で「剣御前小舎」の1ヵ月のアルバイトに出発します。彼は、去 年、同じ小屋で同じ期間アルバイトをしたので、今年は自信をもって準備をし ています。
 長男(大学1年)は、理科系学部で授業や試験が不規則なため、8月上旬に ならないと休みが始まりません。そのうえ9月早々に試験週間があります。そ れが終わってから9月半ばごろから、同じ小屋にアルバイトに行く予定です。

 さて、お尋ねの件ですが、私自身は昔の学生時代をふくめ山小屋ではアルバ イトの経験がなく、お伝えできる内容の多くは子どもたちから聞いた体験が中心 です。そういう制約がある話であることを前提に、お問い合わせの件に返信します。

 まず小屋の従業員、バイトの男女比です。アルバイトといえば北アの山小屋と いうことになると思います。私が泊まったり、見た限りでは、男女比で7対3から 6対4くらいと思います。剣御前小舎の場合、小屋の支配人の豊田さんの奥さん をふくめ、夏休み中(7月20日〜お盆すぎ)は6、7人の女性がいました。部屋 も女性従業員用があります。
 「ヤマケイJOY」などの雑誌に山小屋ごとの全従業員の写真がよく掲載されま す。写真で見ると、その割合も、各小屋で同様の傾向と思います。

 メールにもありましたが、女性の方がアルバイトをされる場合、やはり女性をと りまく雇用者側の状況、環境が不安になると思います。社会常識と思いやりを もった対応をオーナー、管理人がしてくれるのかということです。
 剣御前小舎の場合は、若い夫婦が管理者(支配人)で、奥さんもしっかりした 方です。女性の立場で主張もされている様子でしたから、直接間接の話を総合 しても、この点は安心感を感じました。

 北アの小屋では、薬師岳山荘のように女性が支配人という小屋もあります。登 るのが大変な場所ですが、朝日小屋の管理人も、亡くなられたオーナー娘さん が翌年は引き継いでいたと思います。燕岳の合戦小屋も若い女性が管理人です。
 もしも、私が親の立場で、息子ならぬ自分の娘をバイトに出すとしたら、 他には、三俣山荘、双六小屋系列、そして燕山荘あたりは、しっかりした方 がオーナーをされているので、少しは安心かなと思います。大きな山小屋では複数 の小屋をもっていて、その小屋ごとに条件に差があるのはやむをえません。
 逆に、穂高の著名な近代的な小屋で、オーナーが毎晩、酔っぱらっているよう な小屋もあります。全体の仕切りは「番頭さん」役に任せているという感じでした。 でもこの小屋でも、女性の従業員がはつらつと働いているのが印象的でした。
 小屋ごとに条件は違うし、外目にはわからないので、なかなか正確には判断で きないと感じます。

 一方、南アルプスの小屋もありますが、ここは経営形態も小屋のつくりも、北ア のような近代化は遅れています。小屋ごとの差異も大きい。逆にそれが魅力的でもあ ります。聞こえてきている限りでは、北沢峠のすぐそばにある大平山荘は、オー ナーご一家(とくにおばあちゃん)の評判がよいようです。

 心構えという点は、私の立場と体験では想像するしかありせんが、山小屋バイ トは拘束時間の割に賃金は安いです。7000円〜9000円くらい。自宅からバイ トに通うのに比べて、けっして経済的ではないでしょう。アパートを引き払って、住 み込みでバイトする場合には、3食保障ですからその期間は割りはいいですが、こ れも、帰ってからがたいへんですね。

 また、自分の時間が持ちにくいので、周囲の人間関係がかぎになるのではない でしょうか。これに恵まれないと、続けられないと思います。逆に人に恵まれれ ば、いい体験ができるのでないかと思います。私は、そういう悪条件も考えて山 小屋にとびこんでこられる方は、真面目な方が多いという印象を持っています。
 うちの子どもたちも、年上の世代の学生や社会人、就職志望者の人達の生活 の厳しさ、真面目さ、夢を求める姿を目の前にして、これが親が忠告するよりはる かに効果的な体験になった様子です。自立しろと口でいうより、その大変さや責 任感を知ることの方が、身につく様子です。

 それから、以前の剣御前小舎がそうでしたが、風呂に入るにも往復1時間、2時 間かかるようなきびしい(地上の基準でいえば)生活条件があります。水不足のとき には、顔を洗うのも、制限が出ます。トイレも多くは、20、30年前のくみ取り式で す。これらの問題は大きな近代的な小屋では水洗化がすすんだりして早くから解決 されているし、剣御前 小舎も一昨年あたりからやっと、小屋で風呂には入ることができるようになりまし た。ここは、部屋の条件と合わせて、各小屋の条件・現況をチェックするといいと 思います。

 山小屋は9月の2度の連休時に、その年さいごの忙しさを迎えます。この秋の時 期と、それから7月の早い時期は、残雪やみぞれ雪が降るなどで、危険性が生ま れます。小屋の位置によっては登山の装備と心得が必要になるときがあります。H さんは山は体験されているので大丈夫と思いますが、うちの子どものばあい、一 人で7月の残雪の多い時期に小屋へ入って行くため、この点の注意はよくいい聞 かせて、装備もしっかり用意させています。とはいっても、高校生のことですから、 いざというときにどう判断できるか、送り出すときはとても不安があります。
 山の経験、天候判断や地図読み、遭難者・救護を要する登山者への対応など を知ることも、山小屋アルバイトでは大事な体験になると感じます。

 

今晩出発の入山も、二男は高校1年のバイト初心者と室堂で合流して、残雪がま だ多い雷鳥沢を上がることになっており、ちょっと心配しているところです。去年 は、別に登ったもう一人の高校生のバイト志願者が、残雪の途中でルート判断等 で試練にあい、荷物を置いて携帯電話で小屋にSOSを入れたそうです。

 思いついたことばかり書いてしまって、参考になる点は少ないかもしれません が、とりあえず返信します。  Hさんが、良い夏をすごされることを願っています。

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剣御前小舎でアルバイト中の
二男(高校2年)への手紙

2002年8月

 フィルム、遅くなりましたが、室堂郵便局どめで送ります。
 3本ですが、とりあえず間に合わせてください。ASA40 0なので、感度はまずまずですから、手ぶれには強いです。
 剣御前小舎では、今年も元気にすごせているようですね。積極 的に体を動かして、何でも体験してみてください。

 家ではみな元気です。岳彦は8月5日で大学の授業等から解放されま す。畑ではスイカ、ニガウリ、トマト、キュウリ、ピーマン、ズ ッキーニなど絶好調で収穫が続いています。

 8月7日から11日まで3人で山へ入ります。岳彦がテントを 担いでくれるのでかなり楽。今のところ、北アの笠ヶ岳と、南アルプス のハシゴ(塩見岳か甲斐駒)の計画です。でも、前線や雨雲の位置など 天気次第では北の方(東北か新潟の山)へ行くかもしれません。
 この期間は、必要なときは携帯電話が連絡先になります。

 では引き続き頑張ってください。豊田さんによろしくお伝えく ださい。
   2002年8月2日



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野原 森夫