坂本直行さんの原画を展示する中札内美術村

   ―――野原森夫の山と自然のジャーナル


FYAMAP(山と展望と地図のフォーラム)への投稿から(2004・8)

 8月22、23日と帯広市に行って、坂本直行さんの絵を展示している中札 内美術村に行ってきました。この美術館は、自然のままの原生林の中に、幾つ かの展示施設が互いに離れて点在しています。
 「美術館」といったら、建物のことだという先入観で、林に入り込んでところで 地元の人に、「美術館はどこですか?」と聞いたら、「ここのことです。ここ が全部、そうなんです」といわれ、どぎまぎしてしまいました。森全体が、美 術村ということでした。

 坂本直行さんの絵は、そのうち「北の大地美術館」という木造りの建物に、展 示されていました。
 周囲の森は、柏(カシワ)の樹林です。坂本直行さんが、1930年代に日高 山脈の麓(現広尾町)で開拓に挑んだのも、柏の原生林だったということでした。

 小学校の教室の4倍分ほどの床面積がある建物の板壁に、ちょうどいい高さ で、絵が掲示されていました。訪問した私たち4人のほかには、1人の訪問者が いるだけの、静かな空間です。
 初めは、原野の花と植物たち。フキノトウ、コゴミ、ハマナシ、フクジュソ ウ、ギョウジャニンニク、ノブドウなど何十という種類が、墨のコンテや竹筆で 描かれ、みずみずしい色彩に染められています。坂本直行さんが描く花と植物 は、開拓農家として自然の中で苦闘してきた、飾り気なしの目でその姿を愛で、素 朴かつ大胆にとらえられているところが、独特と感じました。山野に咲く花の、美 しさだけでなく、強さが、伝わってくる絵です。

 山の絵も、その山の特徴が強く突き出されてくる感じがしました。
 沼ノ原からのトムラウシの絵は、ぐいっと頭をもたげる大雪の雄峰が、強烈な 印象でした。原野からの日高連峰は、晩秋と、冬、春の、雪がある日高にやはり 魅かれます。
 日高連峰の絵で、もっともよく描かれているのは、中部日高です。遥かに南へ、視 野の彼方へと連なるこの大山脈のスケールが、伝わってきます。視野の近くにや わらかい季節の色に染まる原野が展開することで、日高の山々の神々しさが印象づ けられます。

 帯広に行った2日間が晴天に恵まれて、日勝峠からはニペソツ、ウペペサンケや 石狩連峰を望めました。十勝の平原を走る道では、ずっと日高の山々が望めました。
 23日は、中札内美術館が開くまでのあいだに、帯広市内から、朝の農道を太平 町、八千代町へと南下して、山の裾を走りました。トッタベツ川で短い時間でも釣り 竿をふりたかったためでした。芽室川あたりの谷越しには、短い区間でしたが、戸 蔦別岳と幌尻岳も眺められました。
 トッタベツ川を後に、南東の上札内町、そこから北へ中札内町へと走ると、中部 日高の山並みは眺めるごとに姿を変えていきました。太平洋に向かって、延々と連 なる大山脈です。これが十勝の眺めなのでしょう。坂本直行さんの絵の情景と重な る、北の大地から望む日高山脈でした。

2004・8・25  野原森夫
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 坂本直行さんの開拓記は、はた目にはとんでもない困難な生活と経営について 書いているのだけれど、そのなかで生きた人でなければ味わえない、鮮烈な、あ るいは穏やかに心が満たされるようなよろこびが、描きだされています。ともに 生きる人々も、興味深い人物がいっぱいですね。
それと、十勝の開拓だけに、気 温とか、風・雪、山火事、畑の面積や家畜・動物たちの数など、登場してくるも のが「量」「スケール」の面からいって、みな度外れです。登山家だけに、極限 に思える事態も、一方で冷静な目で楽しんでいる様子も感じ取れます。北海道の 開拓記録としても、坂本直行さんの文章は、独自の個性が光っているように思い ます。

 思えば、当時の開拓の時代は、国が農業・食糧増産に、本気になっていた時代で した。いまは「開拓」なんて、とうに死語ですね。
 自然とのたたかいは厳しいものだったけれど、それから60年代にかけては、下支 えが有形無形にあった時代でした。
 私が北海道のあちこちに行きだしたのは、70年代のことで、山へ入るアプローチ では、そのころも多くの離農の家々を見ましたが、今回の旅でも、道みち、大きな農 家が離農した跡をずいぶん見かけました。
 自然とのたたかいでは、やっと折り合いがつけられるところまで進んできて、なんと か食えるはずの生産量をあげられるようになったあとに、今度は農業を続けること 自体が、以前とは別の困難に直面してきているのでしょう。

 私も、今回、美術村の売店で、まだ読んでいなかった『原野から見た山』を購入し てきました。直行さんの絵を1冊にもっとも多く収容している画集には、茗渓堂から ではなくて、「京都書院」刊の、大判の「坂本直行作品集」があります。
 http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/%8D%E2%96%7B%92%BC%8Ds/list.html
 いまは入手がむずかしそうです。

 それから、相原求一朗美術館の「北の十名山」のことですが、私は見る余裕があ りませんでしたが、訪問した方のサイトには、確かに十勝幌尻岳 の絵が入っているようです。
 十勝からは、もっとも大きく見える山ですから。
 話はそれてしまいますが、10名山とせずに、ニペソツや、石狩岳、ウペペ、ペテ ガリなども、「十勝」から選ぶ場合には入れるべきですね。個別の作品として、きっと 描かれている山と思います。
 「深田百名山」に、北海道地方でも不満が残る一面です。ニペソツは、後で「入れる べき山だった」と言っていますけれども。

   2004・8・30  野原森夫
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