狩場山 小田西川のイワナ釣り
              1978・8・14〜15 
 野原、山野、S君





日本海側(北西)から狩場山を見る。
ブルーの水線が、小田西川
カシミール3D(DAN杉本 作)で描画。国土地理院50m数値地図を使用


 鱒がうようよ泳ぐ滝壺

 北海道のなかでも、道南(同じ日本海側の道北も)のイワナは大き いという評判がある。道東にも大物のイワナはいるが、この地域はオショロコマ を筆頭に大きさよりも生息数で勝負というのが常だ。もちろん、川によっても、千 差万別だが。

 その大物イワナを釣りたいと、道南の小田西川を遡行することにし た。小田西川は、狩場山(一五二〇メートル)に源を発し、日本海へとそそぐ。狩場山 は、後方羊蹄山(一八九三メートル)をのぞけば道南地方では最高峰、渡島半島では 随一の険しい山岳だ。標高一五〇〇メートルを超す山頂から、一〇キロたらずの流程 で海に達するわけだから、川全体が一気に高度を下げる急流となっており、と くに下流部のゴーロ帯と源頭部とはきびしい遡行を強いられる。

 事前に遡行記録を調べて、上流の二股に魚止めの滝があり、そこに は鱒が群れて泳いでいると記してあったので、三人で胸をふくらませて、札幌 中山峠 岩内 島牧と車を走らせた。まだ開通して日が浅い国道が、日本海 の断崖にそって、難所を切り通しやトンネルでやりすごしながら、南へ延びてい た。村の集落が途絶え、舗装道路が砂利道に変わって、しばらく走ると、小田 西川の河口に着いた。

巨岩累々のゴーロ帯を遡る

 河口といっても、そこは、広々とした砂浜をゆったりと流れる川が海にそそ ぐというような、ありふれた河口ではなかった。かなりの傾斜がある流れが、大き な石を押し出 しつつ、海に落ち込んでいる。一見すると土砂崩れの跡のよう。一〜二メートルの高さ の堰堤が二段、三段とつらなって、その川を横断していた。期待の鱒(おそらく、 アメマス) は、これでは遡上を阻まれているかもしれない。

 わらじ、地下足袋で足ごしらえをして、出発。空は鉛色で雨も落ちてくる。上 流から降りてきた釣り人とすれちがったが、聞くと「天気が悪いので、引き返して 下山する」 とのこと。びくの中は二、三匹の型のいいイワナが入っていた。この釣行で、人に 出会ったのは、この人だけだった。

 雨はときおり、強く降る。天気予報では大きな崩れはないそうだが、局地的 に降られれば、増水して大変なことになる。

 ゴーロ帯にかかると、沢幅いっぱいに、巨岩が積み重なって、待ち構えてい た。沢登りというよりも、岩の乗り越えの競争をやっているみたい。ついに、二階 建ての家ほど もある岩が二つ、V字型の沢幅いっぱいに行く手を完全にふさいでいるところに 出た。まいった。いや、岩の間にすきまがある。さそく山野君が先行してルートを 切り開く。

 岩に両側をはさまれたこのすきまには、水が流れ落ちていた。けれど、濡 れるのもかまわず体をすきまの奥へやり、空間の中で上向きにずり上がると、 頭の上に空が見えた 。

雨で退避。33センチのアメマスを釣る

 巨岩帯が一段落し、岩はいぜんころがっているが、その間隔があいて、渓 相がやや穏やかになってきたあたりになって、また雨が強く落ちてきた。水も濁 ってくる。「まず いな、これは。」「テントを張って安全に一晩退避できるところをさがそう」。

 しばらく進んで、右手の小尾根に樹林が繁っているのを見つけ、川から二 〇メートルほどの高さがあるこの尾根に登った。木の間に狭い空き地を見つけ、 ダンロップの小型のドー ム・テントを張る。増水すれば、ここで停滞になるかもしれない。でも、落石や水 流に襲われる心配はない。明日のことを考えれば、上部の滝が射程に入るあた りまで、沢を つめておきたかったが、しかたがない。

 泊まり場が決まると、雨の中で、釣りを始めた。U字型の谷底に、直径五メ ートルくらいの大きな岩がころがっていて、その岩の上流側が深い淵になってい る。濁流が渦を巻いて いる真ん中に、ミミズを餌に、おもりを重くして糸を垂らす。竿の長さ分のミチ糸 が全部沈んでも、まだおもりが効いている。濁っていてわからなかったけれど、 三メートルを超す ようなかなり深い淵だと知って、思わず乗り出していた体を岸にひいた。
 と、竿先がクィーンと水の中におじぎをした。来た! もう一度、引き込ん だところであわせると、 かなりの抵抗で応えてくる。竿を立てるようにして、水面へ引き上げると、白い斑 点が大きい、立派な魚体が姿を現した。尺上(三三センチ)のアメマスだ。
 テントに帰ると、山野田君が三枚におろしてくれた。ピンクの身がきれいだった。小麦粉をつけてムニ エルをつくり、骨は他のイワナとともに味噌汁の具となった。

尺イワナが群れる桃源郷でルアーを 引く

 夜が明けると、幸い、雨はあがり、増水していた沢も水の濁りがとれてい た。足のそろった三人なので、いいペースで遡行し、沢がゆったりと流れる中流 部に着いた。よど みや淵には、尺に少し足りないくらいのイワナが群れ泳いでいる。初めて見る魚 影の濃さに歓声を上げつつ、ルアーのキャスティングの用意をした。

 川幅は、二人が並んで竿を振れるくらいの広さ。一投めから、元気いっぱい のイワナがヒットする。並んで投げれば、二人同時にヒット。遡ると、川は三人並 んでキャステ ィングできるような開けた場所も出てきて、上流へと足で魚を追い立てつつ、一五 メートルくらいの遠投を繰り返す。あっという間に、三人がそれぞれ一五匹ほどを釣った。大物ね らいに切り替え、型が小さいものは逃がしてやる者、貪欲に数を上積みする者 (私)、泳ぎ、逃げまどうイワナとたわむれる者など、さまざまに、この幸せなひと ときを堪能 する。休憩のとき、山野君は、一服休みの時間にバッタをつかまえ、これを餌に 針を落ち込みに投じた。バッタは白い泡とともに、沈まずに回っている。バシャッ と水面が波 立って、尺もののイワナが引き上げられた。

どこまで、このイワナの桃源郷がつづくのだろう。僕たちは、いつのまにか釣 り心が満たされて、イワナでず っしり重くなったザックを背に、川をくだった。



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野原 森夫