見市川――河原で深夜の燻製つくり

1982年8月7日〜9日
野原、山野、須藤


 木陰に入った暗い淵。すぐ下の明るい浅瀬から、深みに向かって2 尾、3尾とイワナが走ります。淵の一番上手の水の落ち際をねらい、 山野君がロッドを振りました。しなりながら伸びるライン。フライがパシ ッと水面に落ちると、深みから飛び出た魚がすぐに食ってきました。ひ きよせると28センチほどのイワナです。今日は燻製づくりが目的。こ の型はやや大きすぎ、燻製で干しあげるのに手間がかかるので、放流です。

最初の日は燻製サイズをねらう

 フライで釣りあがる北海道在住(当時)の山野和弘君は、まったくの自然体 で、イワナを引き寄せては、放流するの繰り返し。「尺物がくれば、キ ープするから」といいますが、そこまでの型は、この上の沢ではなかな か出ません。

 私は、須藤秋吉さん(札幌、当時)と少し上流をルアーで釣り上がりまし た。22センチから25センチくらいの、燻製サイズをキープするのが 目的で、すでにかなりの尾数を確保しています。ポリ袋がいっばい になると、河原を掘った天然の冷蔵庫に袋ごと埋めておき、帰りに 回収するという方式です。

追いは活発。浅瀬に乗り上げるイワナも

 「ルアーを水面に落とすと、まだリールを巻かないうちに食ってく る」状態です。岸までルアーを引いてきたら、追ってきたイワナが 勢い余って砂地の水際に乗り上げてしまい、手づかみにされたものもい ました。

 コケの少ない、澄んだ水。やや減水気味で水温は高め。イワナ は瀬にも出ていて、追いも食いも活発です。いいポイントだと、た て続けに4尾も5尾も出ます。私たちは小さなポイントは対象にせ ず、大きなポイントでも1〜2匹でやめる、という「間引き」のルー ルで釣り上がりました.








ヒグマと深い函が遡行をはばむ

 北海道南部、遊楽部(ユーラップ)岳から日本海に流れ落ちる見 市川(けんにちがわ)。エゾイワナ(アメマス)やオショロコマの多い 北海道の渓流も、各地で魚の数が減少しています。いまだに魚影 が濃い渓流は、沢の遡行が困難な渓流や、アプローチに時間が かかるところ、そしてヒグマが釣り人を恫喝しているところなどに 限られてきました。

 見市川の場合、ヒグマだけでなく、イワナの聖地への入り口に ある廊下帯、とくに長さ30〜40メートルほどの大きく、深い函 が、釣り人の遡行を阻んできました。
 東京から久しぶりで合流した私を加えた3人は、札幌から2泊3日ののんびりした日程で、この 川に挑みました。

 8月7日朝7時過ぎに札幌をたち、八雲町を経由して、見市川 砂防ダムのすぐ上の車置き場に着いたのは正午すぎ。日本海 に面した熊石町は、もう目の下です。そこから小沢をたどって一 直線に見市川へ下降し、遡行を開始しました。

 広い河原歩きが続いたあと、右手から岩魚沢が合流すると、 いよいよ廊下帯です。前方には例の大函が暗い淵をのぞかせ ています。私たちは、時間はかかっても泳ぐよりは安心というこ とで、右岸を大きく高まくことにしました。

 前半は急登、後半はクマザサのヤブこぎ。枝沢の滝の上部を 越え、トラバースを続けて、30分余りかかって廊下帯の上流へ 出ました。

 幕営地は熊追沢との二股に。ここまで遡行開始から2時間で す。夕飯のおかず用にと、この目の前のトロ場で竿を振って、6 匹ほどを釣り上げました。山野君は、学生時代(函館の水産学 部)からこの川に何度か入ってきましたが、「どうも型が小さくな ったみたいだ」といいます。

やぐらを組み、巨大なフキの葉で覆い、煙でいぶす

 そして、翌日(8日)は、朝から、本流の上の沢を遡行し、冒頭 にのべた釣りを堪能しました。

 燻製用のイワナが十分に確保できたところで、上の沢を下降 して幕営地点へもどり、昼過ぎから河原で燻製つくりにかかり ました。まず、イワナは腹を裂いて塩水に漬けておきます。つい で、燻製のやぐら作り。手ごろな太さの枝で三角錐の形のやぐ らを組み立て、これをおき火の上に置きます。そのやぐらに、塩 水で十分に体がしまってきたイワナを、枝で目刺しにして、つる し、並べました。

 やぐら全体をフキの葉で覆って、あとはひたすら下から煙でい ぶします。「温燻」です。おき火の温度を抑え目にして、イワナが 十分に乾いて、身が締まってくるまでは、あまり温度を上げない ことが、コツです。温度を上げると「焼ける」状態になって、魚の頭 部がやわらかくなり、魚がおき火に落下してしまいます。

 夜8時ごろ、イワナの体表が褐色に変わりはじめました。シッ ポが焼けこげないよう火加減を注意。美しい星空、沢の水音 だけの真っ暗な河原で、交代で火の管理です。

 夜11時すぎ、体表がアメ色に変わり、身も十分締まって、よう やくでき上がりました。独特の香り、軟らかい身。なかなかので きです。大きめのイワナは腹開きにして燻製にしましたが、こち らもいい色に仕上がりました。

熊追沢には型の良いイワナが

 最終日(9日)の朝は、山野君一人が熊追沢をルアーで釣り 上がりました。この沢は入り口に、首までつかって越える淵が あります。そのすぐ上の小滝で、40センチ近い大きいのが追 ってきたものの、すれているのか食ってこなかったとのこと。そ れでも、40分ほどで11尾(うち7尾放流)が釣れ、持って帰っ た4匹はみな30センチ前後と型がそろいました。

 ずっしり重い燻製をかかえ、見市川温泉での一風呂を楽し みにして、私たちは沢を下りました。




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野原 森夫