笠取山から富士山と北岳を眺める

2000年5月4日  家族4人


 ゴールデン・ウィークで高速はどこも渋滞が続いています。高速を使わ ない近場の山ならのんびり登って帰って来ることができると、奥秩父・笠 取山に行ってきました。登山口の一ノ瀬の集落は、山菜採りで何度か通 ったところ。いつも中腹を徘徊する山域だったのですが、ようやく笠取山 の山頂に登ることができて、多摩川の水源とされるミズヒ(水干)の拝礼 もすますことができました。
 今年の作物の植え付けに忙しい農繁期(^^; の合間をぬっての山行でした。

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東京・西多摩の自宅(6時56分)車→一ノ瀬・作場平橋の登山口(8時57分〜9時12分) →一休坂の尾根→笠取小屋(10時27分〜43分、食)→笠取山山頂(11時16 分〜43分、食)→いったん、登ってきた尾根を引き返して、最低鞍部から作業 道を東へ→水干(11時57分)→黒槐(黒エンジュ)尾根ルートの分岐(12時03 分)→中島川橋・登山口(13時03分)→走る→ヤブ沢登山口(13時16分、27 分発)車→奥多摩、吉野梅郷などで渋滞→自宅(16時22分)



雁峠近くの稜線から、笠取山。二男です

 一ノ瀬の入り口、犬切峠から簡易舗装がされた林道を下る。多摩川本谷にか かるコンクリート橋(作場平橋)がある登山口(標高1300メートル前後)に9時 前に着く。家から2時間30分はかかると思っていたのに、道がすいていて、途 中、休憩したのに2時間弱で着いてしまった。
 身づくろいをして、出発。登山口には20台ほどの車が止まっていて、笠取山 がなかなか人気の山であることがわかる。

 登山道はしばらくは左に多摩川本谷の沢を見ながら、ゆっくり登って行く。林 の中の日陰の道。桧とカラ松がまじりあって植えられている。途中、「水源林」の 案内板(都水道局)があって、「桧は風雪と低温に弱いので、カラ松を囲むように 植えて、風と冬の夜間の熱放射・冷え込みを防いでいる」という趣旨の説明があ った。
 沢沿いにだけは自然のミズナラが残されている。が、標高1300を超すこのあ たりでは、春はこれから。芽吹きには間がある。早春のような景観だった。ブナ も多くて、沢に落ちこんでいる倒木にヒラタケは出ていないかと、幹を目でさぐっ た。
 道はよく整備されている。明瞭な分岐に出ると、左はヤブ沢をつめて斉木林道 の稜線(ヤブ沢峠)に上がる道。私たちは、右の、一休尾根から笠取小屋へと 上がる道をとる。

 一休尾根は、ミズナラの樹林がそのまま残されていて、温かい陽光がふりそ そいでいた。ここで、これだけの規模のミズナラの樹林とは……。意外な出会い だった。太いものは幹の直径が90センチもある。案内板を読むと、その木は 300年は生きてきたミズナラだそうだ。「ここもきのこが出そうだね」と二男(中 学3年)がいう。「このあたりは、夏に山が乾燥するから、あまり出ないと思う よ。ねらい目はやはり下の沢沿いだね」。
 ブナや、イタヤカエデや、若芽がおいしいコシアブラもある。コシアブラは、あ と2週間もすれば、食べごろになりそうだ。

 登山道は、尾根を離れ、ヤブ沢の支流をたどって笠取小屋へ突き上げる登 りとなる。水流幅は1メートルほどしかなく、水音が心地よい。子どもたちは、水 の中の浅瀬の砂地にキラキラ光る粒を見つけて、「砂金だ!」と声を上げてい る。みんなでのぞいて見ると、ほんとに砂金のよう。量も多い。以前に大菩薩 の黒川山の泉水谷で「砂金さがし遊び」をしたのを覚えていたのだろうか、と思 って二人に聞いてみたら、「そんなこと、あったっけ?」という。
 もう少し登って行くと、沢沿いに、風化した花崗岩がボロボロに崩れ落ちてい る場所に出た。そこにも、やや粒が大きい「砂金」がいっぱい混じっている。「金 ではなくて、黄銅鉱かなんかだと思うよ」。「でも、お父さん、これをガラス瓶に いっぱい集めたら、なかなかいい宝物になるね」。

 笠取小屋の直下の沢床には、少しだけ残雪があった。小屋の前の広場に上 がる(10時27分)。ここには、軽トラックが2台も停めてあって、驚いた。柳沢 峠からの斉木林道を上がってくることができるらしい。車で運んでも、缶ビール は一本500円。私は、凍らせて担ぎ上げてきたスポーツ・ドリンクを飲んで、 我慢する。



大正時代の、笠取山。小屋の前の水道局の案内板から

 小屋の広場にも、都水道局の案内板があって、多摩川源流の水源林につ いて、ややくわしい解説が出ていた。
 江戸時代から明治の初めにかけては、一帯の樹林は焼畑農業による延焼 などの影響で笠取山の山頂部まで木が焼かれ、一面の笹原だったそうな。 馬に乗って稜線を越す写真も掲示されていて、なるほど樹木は少ない。
 明治の終わりになって、多摩川→玉川上水→東京府と水を引くために、水 源林の保全に目が向けられ、この一帯の林は東京府によって買収された。そ の後、焼けて裸になっていた地域にも植林がすすめられて、現在のように整 備がすすめられたという。
 自然そのままで林を残す方法も一つだが、この一帯のように、下生えを取り 除き、人工の更新をすすめ、作業道も縦横に整備する。そして一定の地域に は自然の樹林も保全していく。こういうやり方も目的にあった方法だと感じ た。

 小屋を出発。さあ、富士山や南アルプスは見えるだろうか。
 来る途中の車の中で、「きょう登る山は、何がいいところなの?」と聞かれ て、「富士山が見える。南アルプスも真っ白に見える」といったら、子どもたち に「富士山なんて、うちの学校からだって見えるよ」と反論された。「いや、そ んなもんじゃないんだ。2000メートル近い山頂から眺める富士山は、全然 、迫力が違うのさ」といった手前、なんとか姿くらいは現してくれないと、大い に困る。が、春の空は、晴れていてもぼんやりとした雲や霞が多くて、遠望 はむずかしいかもしれない。

 雁峠への分岐付近に上がると、防火・延焼防止の目的からか、稜線は 帯状に刈り払いされていて、笹と草の原っぱが広がっていた。目の前まで近 づいた笠取山が、ずいぶん高い。意外な急登が、山頂まで続いている。
 最低鞍部まで下って、ほとんど直線に近い登りに取り付く。普通は、大きく ジグザグを切るのに、こういう道のつけかたも、あるんだなあ。上部の一番 、急なところは、まっすぐ腕を伸ばすと斜面に触れるくらい。
 ふりかえると、奥秩父の稜線上の山々が、しだいに姿を現してくる。右(西) に続く主稜線の奥で、雲の中に山頂部を隠しているのは、甲武信ヶ岳か。稜 線から南に大きく外れて、谷筋に残雪が光っている大きな山は、国師ヶ岳 と、北奥千丈岳のようだ。
 その尾根の先、乾徳山あたりの上部に、遠く、二つの白い峰が見える。バ ットレスの岩場があるのが北岳、大きな山容の左の峰が間ノ岳と確認でき た。中南部の南アの山々は、雲と霞の中だった。

 笠取山の山頂(1953メートル)に、11時すぎに着く。頂上には、私たちを 入れて10人ほどが、お弁当を広げていた。私たちもおにぎりを食べ、夕べ 仕込んだ夏みかんの砂糖漬けや、キュウリの漬物をほおばる。例によって、 食糧も水もお菓子も、みんな子どもたちが担ぎ上げてきたもので、私はカメ ラと雨具だけの小さなザックで登ってきた。
 南東に大菩薩嶺が黒々と横たわっている。その右手の雲が流れて、富士 山がずいぶんと高い位置に姿を現した。
 「富士山って、ほんとに高い山なんだねえ」と妻がいう。山頂部はずいぶん な傾斜で立ち上がり、切れ味のいい山、という感じさえする。街から眺める富 士山もいいが、富士山はやっぱり高いところに上がって眺めると、迫力があ る。秋留台から眺める富士山の東面(上部)は、まだ真っ白だった。ここ から望む北側の斜面は、尾根すじがもう黒い線になって、春に衣替え中だ。
 霞がかかっていて写真にはならない。でも、立派な富士山が眺められて、 まずはよかった、よかった。

 途中、抜いてきた中年の二人連れが山頂にたどりついた。長男は、「ご苦労様 でーす!」と声をかけ、頭を下げる。ちょっとていねいな挨拶に、呼びかけられた 方が、「どうもどうも」と少し恐縮している。
 あとで長男に、「剣御前小舎では、登ってきた登山者に『ご苦労様です』ってい うのかい?」と聞いたら、そうだという。普通は「こんにちは」とか「ご苦労さん」な のに、なるほど、それでか。長男は今年は高校3年だから、2年続けた夏山アル バイトは、この夏はむずかしいかもしれない。

 12時前に下山開始。
 ぜひ見ておきたかった多摩川の水源――水干(ミズヒ)に立ち寄るために、い ったん来た道を下って最低鞍部に出、そこから稜線下の山腹を東へトラバース する作業道に入る。
 15分ほどで着いた水干は、源頭の涸沢の上部に大きな岩場があり、そこに 小さな岩の板が立てかけられていて、神社の名前が彫り込まれていた。昨日、 夕立があったはずなのに、水は一滴も落ちてこない。
 すぐ先で笠取山頂からの踏み跡が合流し、黒エンジュ沢を渡る。見上げる源 頭部には、大きな残雪が残り、雪崩が押し流した倒木と岩が登山道を埋めて いた。
 黒槐(黒エンジュ)尾根の分岐から中島川橋をめがけて下る。
 傾斜が緩やかで、途中、ここもミズナラやカラ松の樹林が美しいルートだっ た。

 13時すぎに車道に出る。1・8キロ先の車のデポ地点へ、私だけが走るよう に向かい、みんなが待つ中島川橋へ引き返す。
 帰りの青梅街道・多摩川沿いの道は、芽吹きから新緑へと、来たときとは逆 に季節がどんどん先へすすむ眺めを楽しむことができた。
 まずまずの天気に恵まれ、富士山も北岳も眺めることができて、いい山登り ができた笠取山だった。

 




山の便り、大地の恵み (野原森夫)
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