両神山・金山沢右俣。連続するナメ滝とチチタケ

2001年8月14日



 金山沢は、両神山の稜線の西側斜面の水を集め、金山(日窒鉱山)を へて、中津川へと流下する沢です。このうち本峰(剣ガ峰)から南側の 分水嶺からの水を集めるのが、右俣(右沢)。剣ガ峰から東岳、西岳、そして八 丁トンネルまでの分水嶺からの水を集めるのが、左俣(左沢、八丁沢)と呼ば れています。
 右俣と左俣は、どちらも長いナメと、連続するナメ滝を特 徴とする、美しく、楽しい沢です。しかし、何ヶ所かの二股のルート取 りを誤ると、源頭で、ただのガレ場とやぶこぎに時間を食わされたり、 冷や汗ものの岩場にもって行かれたりする危うさをあわせもっていま す。

 標高差約600メートル。遡行時間は2時間半と短い。私は、出合の 落合橋から右俣を上がり、時間がゆるせば左俣を下降する計画で、ザイ ル、基本登攀用具などのフル装備で出かけました。けれども、右俣源頭 の手前のルート取りで右にややそれ、岩場まじりの尾根に導かれてしま い、時間をロスしてしまいました。稜線に上がってからは、雷鳴に追わ れて、剣ガ峰近くの鞍部から最短の作業道(登山道としては廃道扱い) を使って、落合橋に下降しました。

 ハンディGPSは、沢の中では、頭上を覆う樹木とV字谷にはばまれ て、ほとんどトラックログをとることができませんでした。源頭を抜け てからの岩とやぶの尾根では、正確な現在位置の確認に使うことがで き、下降の廃道のトレースもしっかりとることができました。

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西多摩の自宅(6時33分発)車→秩父・中津川・日窒鉱山経由→落合 橋(9時12分着、同47分発)
→2つめの二股(10時05分)→3つのナメ滝が連続→5メートルの 滝(10時32分、左から巻こうとして逆層の岩にはばまれ、右からま く。山菜のミズ多し)→4、5メートルの滝が4つほど続く
→3つめの 二股(10時33分)→小滝を2、3越し、8メートルのやや緊張する ナメ滝を越す→120メートルの大ナメ(10時42分、先が見えない 長大さ、青葉の樹木のトンネルの中を流れ落ちてくる)
→4つめの二股 (10時54分)→右の沢をとるが、出合の10メートル滝で時間をく う(左側の落ち口の側壁がもろく退却。右から落ち口へ上がる)→もう 一つ10メートル滝→ルンゼ状の岩の沢床を50分間ほど上がる(長 い。登るほどに手を使う傾斜となる)
→水が枯れ、二股は右、左、左と とり、尾根下の源頭へ(チチタケの群生!)→支尾根のまた支尾根に上 がる(12時02分、変なところに出てしまった!)→小ピークの頂で 現在地確認(12時09分、赤岩岳、両神山の眺め、雷鳴、やぶこぎ) →1683メートル峰に続く岩の支尾根(12時20分)→2度ルート を失い、迷う
→稜線の登山道に出る(13時12分)→両神山の山頂 (13時32分着、同55分発、周囲は濃いもや。雷鳴に追われる)
→ 落合橋へ直接、下降する作業道(注・廃道扱い)の分岐に引き返す(1 3時57分、分岐には通行止めのロープ)→オダマキの群落→沢を6 本、トラバースする。踏み跡は意外に明瞭→落合橋・登山口(14時5 6分着、15時03分発)
車→秩父市街、飯能の手前が渋滞→西多摩の自宅(18時32分着)

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 8月14日、「晴れ、夕方はところによって雨」の天気予報のなか、 車で国道16号、狭山・飯能バイパス・299号を走る。秩父から中津 川に入り、分岐のトンネルから金山へ。日窒鉱山の赤茶けた社宅の上 に、赤岩岳の岩の頂がそびえている。山間のこの景色は、なぜか懐かし さを感じるもので、時間が止まったような錯覚におそわれる。北海道の 炭鉱で、こんな風景を見たことがあったのかもしれない。絵心があるな ら写生しておきたいような、場面。ここ金山は、2年前に長男と大ナゲ シに登ったときの登山口でもある。
 林道をさらに数分上がり、八丁トンネルの手前の落合橋に、9時12 分着(自宅から111キロ)。
 落合橋は、金山沢の右俣と左俣の出合にあり、この橋を渡ったところ に10台の駐車スペースが設けられている。

 身づくろいをして、9時47分、出発。
 落合橋を金山側のたもとにもどり、左手の草むらの緩い斜面を下降し て出合に降り立った。水流はかなり少ない。

 出合からいくらも登らないうちに、最初のナメが現れた。ナメは、4 メートルから20メートルほどのものまで、幾つか連続し、その途中で 右手から支流が、連続するナメ滝となって落ち込んできた。(第1の二 股



第2の二俣に、右から入る5メートルの滝(右俣の本流)



続いて、4メートルの滝

 10時05分、第2の二股に出る。
 左手から傾斜のあるナメ滝が落ちてくる。本流は正面で、岩場の屈曲 するくぼみを5メートル余りの滝が落ちてくる。傾斜がゆるく、足場が しっかりしているので、水が少ない流心を上がった。すぐ上に同じく岩 溝状の4メートル滝があり、これは滝壷をまわりこんで流心を上がる。 このあたり、増水したときは高巻きがたいへんだろう。今日は、カメラ をぶらさげながら、るんるんと登って行く。続いて、やはり傾斜がゆる い4メートル内外の滝が3つ。



滑りやすく、てこずった5〜7メートルのナメ滝

 「こいつは、カメラをしまって、登らないと」。そう思わせたのが、 落差5メートルのナメ滝だった(10時32分)。直登は無理。左右ど ちらの脇からも簡単に上がれそうに見えて、とりあえず左側から登って いった。
 中段で、行き詰まる。ナメはコケがついていて、やわらかい泥もたま り、滑りやすい。スラブ状の岩は逆層で、足がかりがない。傾斜はさほ どでないのに、手がかりがないスラブというのは、きびしいものだ。
 いったん退却。へつりながら斜めに下降して、沢床にもどされる。つ いで、右側のナメの斜面をへつり気味に上がってみる。鍋底から側壁に 這い上がるよう。ここも、コケと、腐った枯葉が岩についていて、足で 削ぎ落としながらステップを探す。山菜のミズが、周囲に群生している が、これはとても手がかりにはなからない。ときにズボンの膝のフリク ションまで使って、やっと木の枝がつかめる場所まで進み、まわりこん で落ち口の上に出た。
 この沢は、通常の流水が少なすぎるのが、滑りやすい原因ではないか と思う。だから、岩が磨かれず、コケや枯葉が付いている。

 

 すぐ上に3つめの二股(10時33分)。小滝を越しながらすすむ と、落差8メートルのナメ滝に出た。この滝も沢床から見ると鍋底状。 右からまき、岩の割れ目、小さな角など、できるだけフリクションの 大きいステップをたどって、へつっていく。ちょっとした小さな岩角や 割れ目も、指先をかけたり、逆に押したりして、バランスをとってい く。最後は岩の手がかりに導かれて、落ち口のすぐ脇の、滑りやすい濡 れた岩をたどって、上に抜けた。ややこしい滝は、これでおしまいのは ず。



大ナメが始まった

 緊張するナメ滝を抜けると、上部には金山沢右俣の「大ナメ」が待っ てきた(10時42分)。背の高い広葉樹林に両岸を囲まれた中を、緩 やかな曲線を描いて、長大なナメが流下してくる。
 青葉の樹木のトンネ ルの中を下降する、ひとつづきの岩の滑り台のよう。水流が幅がやっと 50センチとわずかなのが、残念だ。先は見えない。少し上がっては前 方に展開するナメに見とれ、流水に足元を洗われながら、遡行して行 く。ところどころ、傾斜が強くなったところは、ステップを拾って脇に 逃げてルート取りしながら、上がって行った。途中、左から3本の涸れ た枝沢がナメとなって流下してきた。

4つめの二俣に、左から落ちる長いナメ 4つめの二俣の正面の10メートル滝

 大ナメが尽きると、4つめの二股(10時54分)だった。
 流水は1:1で、支流の左の沢も多い。この左の沢は、大ナメがその まま続くようなスラブ状のナメが視界のかぎり続いている。セルフタイ マーでこのナメを背景に1枚、写真を撮る。
 本流は正面で、10メートルのナメ滝。傾斜が強く、壁状に見える。 滝の左、落ち口の側壁は、下から見るとホールドを自由にとれそうな岩 場に見える。岩の手がかりが少ない滝の右側ルートよりはいいかもしれ ないと思い、滑りやすい泥付きナメをすぐ直下まで上がっていった。
 ところが、そばで確認すると、この側壁は大きな岩に数センチごとに 水平の割れ目が入って、薄い板状の無数の岩に分解しつつあるような状 態だった。足元にも岩が幾つも堆積している。もろくてとてもホールド には使えない。退却。
 まず左の支流のナメに逃げ、それを下降して沢床へ降り立った。思い なおして、右側からまき、立ち木をつかみながら体を押し上げる。  少し上で、もう一つ、10メートルの滝を乗り越す。

 沢幅が小さくなった。V字谷の底は、岩でできた溝、または樋(と い)状となる。それが延々と上部へ続く。傾斜は、最初は楽に立って登 ることができた。ところが半ばすぎからは、ときどき、手を使う傾斜も 出てくる。平均して20度から30度未満の傾斜か。沢そのものが岩の ルンゼといっていい様子になった。
 水が枯れかかると、二股がこの区間に次々現れ、右、左、左と判断し て上がって行った。あとで地図とGPSのデータで確認したところ、 まず左を選べば、予定した場所に上がることができたのかもしれな い。途中、大事に持ってきた桃を食べて、元気を出す。

 登高の途中、泥にのっていた浮石を誤って1つ落としてしまった。1 0センチほどの大きさ。その石は、樋状の岩溝の中を飛びはねながら落 ちていき、見えなくなってからも音だけはずっと響いてきた。後続の登 山者はいないようで、良かった。数人のパーティーでの登高だったら、 ここでの落石はかなり危険だ。

チチタケ 源頭のルンゼを抜け、左の土の斜面に上がると、
目の前に現れた

 延々50分にも渡って、この岩のルンゼは続いた。途中、ルンゼが 尽きるあたりの右手すぐ脇に大岩があり、横幅のある岩の大きな隙間 が岩小屋として使えそうだった。
 尾根下50メートルの地点で、久しぶりに土の斜面に戻った。そこに待っていたのは、チチ タケの群生だった。時間が気にかかるけれど、カメラを出して撮影す る。夏の終わりを告げるチチタケ。栃木県などで珍重される、こくのあ るキノコだ。10本ほど、晩酌のサカナにおすそわけをしてもらった。

尾根に上がると、北東奥に両神山が見えた。
右の岩とヤブの大きなピークは1683メートル峰。
この峰の向こうに遡上するはずだった
支尾根をたどる途中で、1683メートル峰から
続く岩尾根の南西側を見る。
鋭角なピークは槍ヶ岳と呼ばれる。
あのあたりに上がらなかったのは、
不幸中の幸いだった。

 12時02分、尾根に上がる。
 意外にも沢ヤが使う踏み跡が見当たらない。「変なところに出ちゃっ たかも……」。すぐ左の小さな高みにやぶを漕いで上がってみる。「お おっ、両神山だ。赤岩岳だ」。遡行してきた深い谷を挟んで、岩の峰が 展開する。
 両神山の右手、すぐ間近に、なんだか予想外の頂がある。あれが、支 尾根の1683メートルのピークだろう。ほんとうだったら、あのピー クの向こうの鞍部に上がってくるはずだった。水平位置にして250 メートルほどの、まちがい。私が上がったところは、両神山の縦走路か ら張り出した支尾根の、そのまた支尾根(正式の支尾根から直角に張り 出した小さな尾根)だった。右手に続く正式の支尾根の先(西)には ニードル状の鋭い岩峰や薄刃の頂などが連なっている。こちらも200 メートルほど距離がある。私の技術では、ほとんどたどれない岩稜だ。 「両神山って、すごい岩山だなあ。あそこに突き上げないですんだの は、幸運だった」。

 12時20分、1683メートルピークをめがけて、やぶこぎ開始。 岩まじりの尾根はルート取りがむずかしく、その上、断崖の脇でへつり をやらされたりする。正式の支尾根に出ると踏み跡が出てきたが、危う さは同じ。岩場が順次、現れて、尾根筋をストレートにはたどれない。 1ヶ所、ルートを見失ったところで、運良く見つけた踏み跡は尾根の左 下をまいていた。
 すぐ前方に、一段高い岩と潅木のピークが見える。目標の1683 メートルのピークか。そこに登り返す踏み跡は、傾斜が60度くらいの 木登りミックスの急登だった。踏み跡に引かれて、尾根の右にまいて いったら、岩場の下で足跡がかき消えた。苦労してまた尾根上にもど り、左側から巻き気味に1度下降し、登り返す。
(同じルートをたどったと思われる「奥秩父・両神の谷100」(山渓)の記録 によると、この尾根を懸垂下降もまじえてたどっている)
 1683メートルのピーク着。てっぺんには、小さな三角点が設置さ れていた。そこからは、ずっと明瞭な踏み跡が鞍部を経由して、縦走路 へと延びていた。ここに源流から上がることができていたら、どんなに か楽だったろう。でも、そのまちがいのおかげで、尾根下まで延々と続 く、長い岩のルンゼもたどれたし、チチタケにも会えた。

 13時12分、ようやく稜線の縦走路に出る。
 さきほどから、南西の方角で雷鳴が響いている。汗をポタポタ落とし ながら、そのまま700メートル先の山頂をめざす。花はツリガネニン ジンかその仲間が、青い花を付けている。大きなイグチ(アシベニイグ チ)が3本生え出している。食菌のヤマイグチも目につく。
 山頂の100メートル手前の鞍部に、落合橋に下降する廃道(作業 道)の分岐があり、朝、登山口の駐車場であいさつした2人パーティー (30歳前?の栃木の男性)が休んでいた。八丁尾根をもどり返すのは しんどいし、雷がくるので、この道を落合橋まで下降したいという。私 は、「途中、道が不明瞭と聞いているので気をつけてください。130 0メートルほどの尾根のピークに上がったら、あとは尾根筋を落合橋ま でまっすぐですから」と話した。私だって、時間が遅れたのと、雷雨が 怖いのとで、左俣の下降はできない。話した手前もあって、「私も30 分遅れで、あとを追いますから」と約束した。



両神山の山頂

 13時32分、両神山の山頂に着く。
 誰もいない。小さな、控えめな祠が岩陰に据えられていた。この山頂 は雰囲気がいい。期待していた眺めは、周囲をつつむ濃いもやにはばま れる。それに雷鳴は、なんだか近づいてきた気がする。食事のあと、1 3時55分、山頂をあとにする。

 100メートルもどって、分岐から、作業道を下降。すぐに、オダマ キが一面に咲く斜面に出る。また撮影で道草をくう。
 3本の枝沢をトラバースしたところで、先行する2人を追いぬく。さ らに3本、沢を渡って、尾根のピークに上がる。道は、廃道とされて以 後もよく踏まれていて、意外に明瞭。大雨の時は沢が増水して下降でき ないが、この点に注意すれば、臨機に使うことができると感じた。すで に25000分の1地形図からも抹消されている道なので、トラックロ グもしっかりとらせてもらった。(廃道扱い・通行止めとされているた め、利用は推奨はできません。)

 登山口の落合橋に14時56分着。
 帰路、大滝村でにわか雨となる。

 全体の一部に接しただけだったけれど、両神山は手応えのある山だっ た。
 金山沢は、見かけ以上に滝、ナメがデリケートで、二股のルート判断 も神経を使う沢だった。装備など、用心して入った方が安心と思う。蛇 足だが、フェルト靴でなく、ナメのぬめりに強いわらじがほしいと、 思ってしまった。





山の便り、大地の恵み (野原森夫)
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