本社ヶ丸
―――好展望と、シリセードと、追われる猪


2000年2月12日   家族4人





本社ヶ丸の展望岩から南アルプス

東京・西多摩の自宅(7時35分)車→大月(8時20分、朝食、9時15分 発)→甲州街道・笹子の分岐(9時25分)→東京電力の変電所→奥野 沢の橋(車デポ、9時55分発)→清八峠下の尾根テラス(朝食)→稜 線の岩場のテラス(11時15分、昼食・撮影、12時20分発)→本 社ヶ丸山頂(12時35分、12時45分発)→岩場テラス(13時0 2分)→奥野沢の橋(14時09分、14時30分発)車→自宅 (15時45分着)

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 前日の朝までは、私と二男・峻ニ(中学2年)とで、湯の丸か根子岳 の上信国境の山へスキーで登ろうと思っていた。しかし、前夜、帰宅し たら妻(遥子)が、「全員で行くことにしたからね。もっと近くの、歩 ける山へ行きたい」という。  ばたばたと行き先を検討したあげく、中央線沿線の山で、ぜひと思っ ていた高川山、杓子山、本社ヶ丸あたりを候補に選んだ。遥子は体調が 回復したばかりだが、いずれの山も車を使えば行程は短い。  出発してから、名前のおもしろさと標高から予想される好展望を期待 して、本社ヶ丸を目標に選んだ。

 2月12日、朝はゆっくり7時30分すぎに家を発つ。八王子ICか ら中央高速に上がると、奥多摩の山々には薄くもやがかかっていたが、 小仏トンネルを抜けて相模湖の手前へくると、真っ白に輝く富士山が目 の前に現れた。丹沢もくっきり。今日は展望が期待できるかもしれな い。遅く出てきたのを後悔した。

 大月でゆっくり腹ごしらえをして、笹子から、甲州街道と分かれる。 登山道コースから少し先の新しい車道の分岐で左折して、できたばかり のトンネルを抜け、東京電力の変電所への車道を上がる。
(トンネルの先で登山ルート・旧道が左から合流。最初は新道があるの に気づかず、旧道を上がって車は行き止まりになり、甲州街道へひき返 した。)
 変電所からは林道のように道が細くなった。護岸をコンクリートで固 められた沢を橋で渡る。この沢は完全に氷結して、氷の大スロープに なっている。林道が細い砂利道になって、凍った路面を上がっていく と、登山口らしい駐車エリアに出た。
 身づくろいをして、出発(9時55分)。

 7分ほど上がると、林道と分かれて、ようやく登山道が始まった。こ こまで、ブリキの板に紅白のペンキで描いた道標が要所にあって、迷う ことなく誘導された。

 登り出すと、積雪は10センチくらい。足場は昨日の登山者がよく踏 み固めてくれていて、スパッツはいらない。
 事前の情報では、この尾根道は北側だけに、暗く、寒いと予想してき た。ところが、尾根は終始、カラ松(落葉松)の林が続き、冬は葉が完 全に落ちて、陽射しがまぶしいくらい。2月半ばの太陽の位置、そして 遅い出発、そのうえ尾根の緩やかな傾斜も、幸いしたのかもしれない。 みんなシャツだけで、それでも温かい。

 登りながら何度も振り返って、背後の山々を確認する。
 奥秩父、そして茅ガ岳方面は早くから視界に入ってきた。そして、尾 根道を中腹まで上がったところで、八ヶ岳の白い稜線が姿を現し始め た。
 標高1400メートルほどで、右手(西側)の稜線ごしに甲斐駒ケ岳 が黒ぐろとした岩山となって姿を現す。ついで1450メートルほどで 北岳が白い稜線と黒いバットレスも鮮やかな姿を現した。突然、鞍部ご しに現れた北岳の大きさに驚く。


本社ヶ丸の展望岩から白根三山


同じ場所から、赤石岳(左)、悪沢岳(中央)

 南アルプスは登るにつれて聖岳まで3000メートルの峰みねを連ね た全容が浮かび上がってきた。
 北西の送電鉄塔が立つ尾根の右手、はるか遠景には、薄く、白い山々 も見える。穂高連峰と槍ヶ岳へ続く稜線だ。大キレットは、かすんでい ても判別しやすい。

 稜線の下で尾根はぐっと傾斜を増して、陽射しが当らなくなった。積 雪が20センチほどになり、表面がクラストしたサラサラの雪質に変わ る。樹林もブナとカンバになる。丹沢や道志、そして奥多摩の山々に も、いまもこうして美しいブナ(イヌブナ)の樹林が残されているのは うれしいことだ。
 緩い傾斜のトラバースにかかって、休憩してのどを潤す。冬のブナの 林は、とても明るくて、まぶしい。

 清八峠付近の稜線に出た。
 5,6分、稜線をたどると、展望のいい岩まじりの明るいテラスに出 る。(11時15分)
 富士山と南アルプスがすばらしい。「富士山て、あんなに傾斜があっ て、高い山なんだ」「お父さん、やっぱり、一度富士山に登ろうよ」と 子どもたちから声が出る。
 ここで、昼食と決め、カメラと双眼鏡をとりだして、撮影と展望にい そしむ。気になっている北アルプスは、少しもやが多くなってきたか。 双眼鏡でしっかり確認する。槍ヶ岳はガスが少し出ているようで、瞬間 的に確認できただけだった。その右に、常念岳と、そして大天井岳 付近の大きな高い雪山も連なっていた。穂高の岩のかたまりも、はっき り見えた。
 双眼鏡でやっとおぼろげに、という条件だから、撮影はむずかしい。 空気が本当に澄んだ朝だったら、ここからすばらしい遠望写真が撮影で きるにちがいない。

 近くで鉄砲を撃つ音がし、周囲の山々に反響した。さきほど清八峠あ たりですれちがった猟友会の人たちが撃ったのか。
 この場所で一人で昼ご飯を食べていた登山者が、「さっき、目の前を 何頭もイノシシが駆けていったよ」と話す。

 昼食後、本社ヶ丸の山頂を往復する。山頂までは3度、4度と足場が 悪いアップダウンがあって、ところどころ凍っているだけに、けっこう 苦労させられた。
 山頂からは、ほぼ360度の展望。とくに南アルプスは、山頂からの 方が高度があって、全体が見渡せる。富士山は、前山の三ツ峠との位置 からいって、先の岩場のテラスの方が、高度感がある。北アと八ヶ岳は もやがひどくなってきた。

 帰りは、車まで、1時間少しと見積もって、歩き出した。
 雪のスロープになったブナ林まできて、遥子がポリ袋と、ザックの背 あて用のマットレスを出す。「すべろうよ、みんな」。そういえば、以 前、奥多摩の笹尾根に、そりを持って上がって、大滑降をやったことが あったっけ。ここも、登山道だけよく雪が踏まれて、トイ状になってい て、うまくやれば、かなり下まで楽しめそうだ。

 長男の岳彦(高2)がまず滑りだし、歓声を上げながら視界から消え ていく。続いて、遥子。峻二は、ちょっとはにかむ年頃で、いったんは 見合わせて、にやにやする。
 追いかけ、追い付くと、遥子が「ポリ袋はよく滑るけれど、雪面のデ コボコや木の根が直接、響いてきて、"自然とお尻で接している"という 感じ」という。言うなり、また下へ滑り降りて、今度は勢い余ってコー スを外れて、二本の幹のあいだに体が落ちて、動けなくなった。助け起 こした峻二が、「今度はぼくにやらせてよ」という。

 子どもたちは、ズボンもシャツも濡らして、尾根の傾斜が「もう、滑 らない」というほど緩くなるまで、走っては滑り、下っては滑りを繰り 返した。

 

 途中、猟友会の人たちが犬が戻ってこないと、探していた。イノシシ たちは、この登山道の尾根の東を稜線へと追い上げられ、今度は尾根の 西側の谷を下っているという。冬を越すだけでもたいへんなのに、犬と 銃に追われて、今日はイノシシたちにとって最悪の日になっているので はと思った。

 14時すぎに登山道から林道に降り立つ。子どもたちは、沢筋で今度 は太いツララを見つけ、騒ぎあって、雪が解け出した道を下った。「お もしろい山だったね。それにあったかくて、展望も素晴らしかった。」 と遥子がいう。私も、写真のでき上がりが楽しみな、充実した山行き だった。





山の便り、大地の恵み (野原森夫)
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