春うらら、雪たっぷりの、谷川岳

2004年4月11日




 天神尾根の登り。前方右は、オジカ沢ノ頭。左は、マナイタグラ。
途中の避難小屋は雪 に埋まって見当たらず、
ルート上にあった鉄柱のモノサシの表示で積雪は310センチでした。



 東京では満開の桜が散り、3日続きの晴天となりました。「明日も晴天」との天気予 報に誘われて、4月11日、谷川岳(トマの耳)に、天神尾根から登ってきました。
 ロープウェイで、標高1300メートル余りの天神平に上がると、谷川岳の山頂は、2 時間少しの距離です。ルートとなる天神尾根には、途中の避難小屋がすっぽり隠れるほ どの、3メートルを超す雪が残っていました。

 私は、ひと月ほど前に軽い肉離れをした左足の回復が悪く、やっと普通に歩けるまで に調子がもどってきたばかりでした。短い行程の天神尾根は、足慣らしにはちょうどい い。、ふくらはぎにしっかりサポーターを巻きつけて、出発しました。
 山頂を往復して、3時間と少し。なんとか違和感なしに行動できて、ほっとしました。

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東京・西多摩の自宅(5時35分発)車→谷川岳ロープウェイ土合駅(7時55分着、 8時25分発)→同山頂駅(8時35分着、同45分発)
→谷川岳山頂(トマの耳、10時52分着、11時14分発)→山頂駅(12時29分 着、同35分発)
→ロープウェイ土合駅(同45分着、13時10発)車→自宅(15時40分着)
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 8時45分、天神平の山頂駅を出発。「3日続きの晴天だったから、幅1メートルの 、よく踏まれた道ができちゃってるさ」、などといって、歩き出しました。
 尾根に上がってみると、雪面には、幅が1メートルどころか、ところによっては3メー トルにもなる踏み跡ができてます。降雪のたびごとに、登山者に踏み固めれてきた雪上 の道。深いつぼ足を踏み込む心配がないのは、1メートル弱くらいの幅でしょうか。踏 み跡からはずれた場所では、膝上まで踏み抜いて雪に埋もれる場所もありました。

ルートは、尾根筋にほぼ忠実に、小さなアップダウンをしながら進んで行きます。緩や かな登りで、しかも雪面がほどよく緩んでいるため、アイゼンなしで距離をかせぎまし た。
 正面に谷川岳のトマの耳が見えています。右は、西黒沢の谷で、対岸の西黒尾根は、天 神尾根よりずっと切り立ち、少し岩場も混じっています。
 左(西側)には、マナイタグラの荒々しい岩場が展開し、登るごとに姿を変えていくの で、あきさせません。


正面が、谷川岳山頂。天神尾根は、雪庇の発達は
少なく、わずかに名残がありました。

 途中の避難小屋は、完全に雪の下。この道が初めての私には、いつ通り過ぎたかもわか りませんでした。
 その先で、尾根のわずかに東側の斜面を右からトラバースする場所があります。立ち木 がなく、雪の下は笹原らしい。傾斜も危ない。踏み跡はまっすぐこの雪面を横断して伸 びていますが、雪崩が怖いので、尾根筋に上がるようにルートを選んで、進みました。

 その上部で、左に「迷い尾根」を分けるポイントに出ました。出発前にハンディGPS に位置を記憶させておいた、要注意ポイントです。
 振り返って見下ろすと、天神尾根はここで、左(東)に60度あまり、屈曲しています 。尾根の地形のまま、まっすぐに下降してしてしまうと、天神尾根のルートを外れて、 支尾根(迷い尾根)に入り込んでしまう場所です。視界が悪いときなど、いかにも、ま っすぐ下りたくなるような、支尾根です。

 その少し上部で、岩が露出する短い区間があり、私たちはここで、アイゼンを装着しま した。キックステップでも不安なく行動できる条件でしたが、蹴りこみや不意のスリッ プで、足に負担をかけないように、という判断でした。

 この日、トマの耳に登った登山者らは、およそ50人ほどでしょうか。
 うち、30人は登山者で、20人は山スキーとスノボという割合です。
 おおよそ区分けですが、スキーの人は、アイゼンに履き換えて山頂を目指したのは、ご くわずか。ほとんどはシール登高のまま、山頂直下の雪田を登りきりました。実際、傾 斜からも、不安は感じません。
 50人のうち、アイゼンを装着したのは、30数人というところでしょうか。トマの耳 だけの往復ならば、この日の雪の条件ならば、確かにアイゼンはザックの中にしまった ままでも大丈夫と思えました。
 ピッケルは、半数の人が持ってきていましたが、これも「往復ルート」に限れば、出番 はありませんでした。私たちもピッケルはザックにくくりつけたままで、伸縮自在でリ ングが付いたストックが、全行程を通して活躍してくれました。
 以上はあくまで、この往復コースの場合で、オキの耳のルートへ一歩踏み出せば、事態 はまったく変わります。念のため。
 ともかく、このルートは、好天の日を選べば、安全でのどかなルートです。

 ツボ足の消耗を避けるため、私たちは、ワカンを持っていきました。これも、ルート上 がよく踏まれていたため、出番がありませんでした。3月後半から5月初めあたりまで の、腐った、ずぼずぼの雪では、わかんは、たいへんありがたい装備です。いまどきの 装備の近代化で、真冬にわかんはつらい。けれど春山では、雪や斜面の条件の変化によ く対応でき、とり回しが軽快で、爪の利きもよく、推奨装備です。



山頂まで1キロくらい。浅く侵食されたカールもどきの源頭を、膨大な雪田が埋めています。

 頂上直下の雪田は、西黒沢の源頭部に発達しています。差し渡し500メートルくらい はあるでしょうか。傾斜はさほどでなく、スキーの人は気持ちよく滑降してきます。登 山者がシリセードしてきましたが、緩んだ雪で抵抗が大きく、途中で止まってしまいま した。

 マナイタグラは、槍ヶ岳と見まがうような鋭角の姿に変わったあと、今度は岩稜を連ね た板状の尾根に移り変わってきました。爆音のような音を響かせて、2回、大きな崩落 がありました。
 その手前には、20数年前、遡行したヒツゴー沢が、のびやかに落ち込んでいます。滝 が連続した核心部は、中ほどの谷が細まったあたりでしょうか。


大きな雪田を登り切って、山頂部から、天神尾根をふり返る。
手前の雪庇が発達した尾根は、西黒尾根の最上部



 左足をかばって、登ってきたため、右足に早く疲れが出てきた感じです。
 雪田の左の縁を登りきって、肩の広場の小屋を50メートルほど横に見、ケルンまで来 ると、トマの耳は目の前です。
 緩やかになった雪の稜線をたどって、山頂へ。(10時52分着)


トマの耳から、北を望む




朝日岳方面


 そこは、四周が、雪山でした。
 北には、目の前に、雪庇が発達した深い鞍部を隔てて、鋭角的なオキの耳のピークがあ ります。その左に、一ノ倉岳、茂倉岳。
 中景、遠景の山は、北の方角から、巻機山、霞んで中ノ岳、手前に大きく朝日岳、笠 ガ岳、白髪門、遠く平ヶ岳、景鶴山、燧ケ岳、至仏山。東にさらに回ると、武尊山は目 の前で、日光白根山、皇海山、赤城山は、霞んでいました。


山頂から、西を望む



苗場山


 西の方角では、オジカ沢の頭から、万太郎山、仙ノ倉山へと、大きく、鋭く起伏する 谷川連峰の稜線が望めました。
 浅間山は、天神尾根の登りの途中でうっすらと見えただけでしたが、ここからは、白砂 山、佐武流山が確認でき、佐武流山の左奥には、真っ白に浮かび上がる奥岩菅山も見え ました。仙ノ倉山の右手奥には、苗場山も浮かんでいます。

 この日の前橋市の気温は、21度まで上がったとか。稜線は風がなく、暖かい日差し に包まれて、シャツだけでも暑いくらいの陽気で、稜線から眺める下界は、すっかりモ ヤの中でした。けれど、山に登れば、やはり空気は澄む。まずまずの展望が開けていま した。

 前回は、ヒツゴー沢を遡行したあと、この稜線を茂倉岳まで抜けて、土樽へと下降し ました。そのときは、稜線に出てからは濃い霧と、雨。体が飛ばされそうな強い風の中 の稜線歩きでした。
 それだけに、今回の眺めは印象が格別でした。また、周囲の山から眺めてきた、この谷 川岳から、いま、逆にそれらの山々を眺め返すというのも、いいものです。

 撮影と昼食を終えて、11時14分、下山開始。
 太陽に真向かいの形で、天神尾根を下ります。


マナイタグラ


 雪庇が目立つ西黒尾根側からは、雪崩が轟音を上げて、西黒沢の谷に落ちていく様子 が望めました。
 スキーの人たちは、北へ縦走した人を除き、大部分の人が天神尾根を下降して来まし た。西黒沢(ザンゲ沢)は中ほどがすぼまり、傾斜がきつい場所は雪が開いているため (滝もある)、スキーヤーは、天神尾根の両側で適当な雪面を拾っては高度を苦労して 下げていました。避難小屋より下がった位置から、樹林帯にルートを切って、西黒沢へ と下るトレースもありました。

 下山の途中、コシアブラの、まだ芽が固い木を何本か見つけました。
 そのうち、2本の木の枝が、多い方では十数か所も、芽がついた枝先10センチほど をナイフ様のもので切り取られていました。規模は小さいものの、昨シーズンの尾瀬と 同じです。やはり育成して、何か、商売に用いられている様子です。コシアブラは幾ら でも繁殖しますし、枝先のみを落とすので、木はちゃんと生長するので、ほとんど影響 はない。そこを見越しての生業があるのでしょう。

 天神平の手前までくると、気温の高さで雪がさらに腐り、何度も膝上まで雪を踏み抜 きました。距離がわずかなので、わかんは、着けず、大またでかまわず下降。
 12時29分、天神平の山頂駅着。
 短い時間で、能率的に高度を上げ下げし、春の雪山を堪能できた山旅でした。





山の便り、大地の恵み (野原森夫)
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