谷川岳・ヒツゴー沢遡行

         1980年7月26〜27日
         野原、S君

 谷川岳南面の沢から本峰へ

 東京での仕事と生活が始まって3カ月。このあいだに、 秩父・和名倉沢(6月)、奥多摩・小川谷(7月)、奥利 根・楢股川(7月)と、3度、渓流釣りをかねて沢に入っ た。4度めが、この谷川岳登山。谷川岳は、高校時代に読 んだ山の本で「魔の山」としての、その歴史と登高記録を 知り、なるべく早く登ってみたいと考えていた山だった。 この山には沢から入るのが一番、ふさわしいと考えたが、 私には岩登りをまじえた登高の技量が欠けている。幸い南 面に「ヒツゴー沢」という、ほどほどにやさしい沢がある ことを知って、このルートから谷川岳の本峰をねらうこと にした。




ヒツゴー沢のチムニー状の滝


 同行は、恵廸山の会OBのS君。7月26日の午 後3時に赤羽駅で待ち合わせ、鈍行列車で水上駅へと向か った。水上からはタクシーで谷川温泉に入り、そこからヘ ッドライトをつけて登山道を40分ほど登って、道の傍ら に適当な空きスペースを見つけてテントを張った。

 逆くの字状の滝でスリルを味わう

 27日は6時48分発。テントをたたんで40分ほど 登って、二股につく。オジカ沢沿いの登山道をさらにすす んで、10分で目的のヒツゴー沢との出合いに着いた。ヒ ツゴー沢は、出合いのすぐ上に「逆くの字状の滝」(7メートル、15メートル )を懸け、落ち口を見上げると、相当な高度感が ある。遡行の最初から、これはなかなか手ごわそう。先行 するパーティーがザイルの確保付きで取り付いている。「 大丈夫かな」「なんとかやれるよな」などと声をかわし、 私たちもあとに続く。



 「逆くの字状の滝」は、滝の左岸の壁を登って、途中か ら、滝壺側へ張り出した丸みのある岩をトラバースして右 岸に出ないと、上へ進めない。ボルトが打ってあるのはち ょっと大げさじゃないの、などと思ってはみたが、やって みる段になると、岩の張り出しを「えいっ」と乗り越すと ころは、これは怖い。S君はうまく抜けたが、次は僕。下 を見たら、思わず体が岩にひっつくが、体をぐいっと外に ふらないと、岩の張り出しは越えられない。右手のホール ドで支えて、「それっ」と半身を振り出し、左手のホール ドをタイミングよくつかむ。助かった。

 そこからしばらくは、滑滝、小滝が連続する気楽で美し い渓相に変わった。重武装の先行パーティーを追越し、少 しいやな泥壁の滝などを巻いてすすむと、3段20メートルの滝 に出た。両岸は草付きの壁で危なそうなため、巻いて越す しかないが、ルートがはっきりしない。S君は、左手から 草付きと岩のミックスに取りつく。しかし、2段目の滝の 乗っ越しにかかったあたりで、草付きの様相が一段と悪く なり、ホールドを失いかける。それでもワラジのフリクシ ョンと草の根がかりをあてに、なんとか上部へ。僕も続く 。草付きはますます悪くなる。「ルートがこっちじゃなか ったね」と対岸を指差すS君。いまごろ、いわれても困る が、僕の力量でもなんとかクリアできた。

 10メートルチムニー状の滝

 2時間ほどの遡行で、目の前におもしろい滝が現れた。 「10メートル・チムニー状の滝」で、黒々と磨かれた岩の内部に 、傾斜角65度ほどのまっすぐなトンネルがあり、沢水が その中を勢いよく流れ落ちている。水流を包むトンネルの 外壁は、一段が30〜40センチほどの岩の階段になっている 。ワラジで岩の感触を楽しみながら、この岩場を乗り越す と、上には雪渓があり、その50メートルばかり先にハングの滝 (5メートル)があった。この滝は、落ち口の脇の岩を直登でき るが、我が身をわらじの摩擦力にまかせて乗り越すのは、 スリルがあった。

 浅いV字型の沢幅がぐっと狭くなり、ついには水がきれ て源頭となった。11時45分、源頭を離れ尾根に取りつ き、12時25分、稜線に到達する。

 谷川岳山頂から茂倉岳へ縦走

 12時45分、谷川岳山頂着。風が強く、ガスも出始め 、視界はほとんどなかった。一の倉岳へ縦走路をたどる。 稜線の右下はバッサリ切れ落ち、一の倉沢が黒い大きな口 をあけている。僕たちは、越後側からの風で断崖側へ吹き 飛ばされないように、風が強まった時には手をつないで歩 いた。そして、ガスが吹きはらわれるたびに、その断片を 見せる一の倉の岸壁を、怖いものでも見るように何度も立 ち止まっては、見おろした。灰色の岩壁に汚れた残雪がひ っかかっている様は、凄惨な光景でもあった。

 茂倉岳14時17分通過。ガスが晴れ、小雨が落ちては くるけれども、展望がひらけ始める。ここからさきの谷川 連峰は、稜線も丸みをおび、蓬峠が目の前にひろがる。こ こで稜線を離れ、越後側のブナの尾根を下って、土樽の駅 へと下った。駅には18時着。赤羽駅に着いたのは22時 17分だった。






山の便り、大地の恵み (野原森夫)
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