上越・ナルミズ沢――「天国に続くナメ」は幻になった

2004・8・7,8日、 カミさんと





ナルミズ沢と大石沢の出合にある、2メートルの滝。左上部に朝日岳の稜線

 美しいナメが稜線に向かって延々と続いている、ナルミズ沢に行ってきました。上 越の宝川の上流にある沢です。入山は、群馬県の宝川温泉をへて朝日岳方面に入る林 道から。

 第1日は、昼前から激しい雷になり、中流の大石沢出合いの2メートルの滝(1286メー トル)のかたわらで模様眺めのあと、幕営。  2日めは、朝5時前に出発し、快調に魚止めの滝、8mナメ状の滝を越えて、142 0メートルの二股へ。ここで、正面の越後烏帽子を大烏帽子山と勘違いして左俣に入っ てしまいました。「天国へ続く」穏やかなナメに出会うことはできず、残念。

 ジャンクション・ピークと越後烏帽子の鞍部にせりあがる左俣沢の源頭は、最上部で シューズのフリクションが効くかどうかの、傾斜のあるナメ滝が現れ、気が抜けません 。また、枝沢が分岐するごとに、ルート判断にまた真剣になるところ。まちがうと、手 間がかかる岩場や長い笹薮こぎの地帯に突き上げてしまいます。何度も地図やGPSと にらめっこし、草つきのトラバースもまじえて、ようやく穏やかな地形の鞍部に上がる 沢筋をつめることができました。
 思い込みが招いた失敗で、「天国」→「地獄」のツメになりかねないところでしたが 、まったく予備知識がないエリアに入ってしまったために、地図と現地判断が頼りの、 沢遡行ほんらいの醍醐味は体験できました。
 枝沢がこみいった源頭部で、ただ1本の枝沢のやさしいルートをたどるうえで、今回 は、GPSにはほんとに助けられました。





 大石沢出合いから上の、遡行ルート。
 赤い軌跡が、私たちがたどったルートで、稜線直下で支尾根をトラバースした位置が屈曲 して描かれている。二股から右へすすむ黄色のルートが、本来のナルミズ沢のツメ のルートで、大烏帽子山と越後烏帽子の鞍部に出る。
 朝日岳からの下降ルートは、登山道だが、上部で25000分の1地形図の踏み跡のライン が実際の登山道と少し、ずれている。
 「山旅倶楽部」を通じて国土地理院地形図と数値地図を使用。「カシミール3D」で、 GPSのトラックログを取り込んで、表示した。



行動記録
8月7日
東京西部の自宅(4時50分)車→関越道→水上インター(6時38分)→林道車止め (7時25分着、車デポ、48分発)→林道終点(8時30分)→本流渡渉地点(9時45分) →大石沢出合・2条の滝(11時15分、雷雨のため待機、幕営)

8月8日
大石沢出合(4時55分)→魚止め滝(6時02分)→1420メートル二股(6時44分) →左俣に入って1つめの二股→上部二股(7時35分)→トラバースで支尾根を越える→ JPと越後烏帽子との鞍部(8時24分)→ジャンクション・ピーク(9時03分)→ 朝日岳(9時31分、同48分発)→登山道を下山→大石沢出合・デポ回収(10時25分 着、同58分発)→林道終点(13時50分)→林道車止め・車回収(14時30分)→ 宝川温泉で汗を流し、関越道で帰京。



8月7日
 宝川温泉から奥へ入る林道の車止めを7時48分に出発。
 滝や釜が連続する廊下状の宝川を見下ろしながら、林道終点から、登山道をすすみ、9時45分に 本流の渡渉地点に着きました。

 沢幅は6メートルほど。水量は少なめですが、登山靴では渡れません。この先は登山道もひどく ぬかるむ場所を通るため、ここで渓流シューズに履き替えました。
 右岸(上流から見て)に渡った道は、うっそうとしたブナ林の中を、いったん沢から40メートル ほど高い位置まで高度をあげます。このあたり、宝川本流は滝や淵が現れ、大きな水音が聞こえて きます。
 登山道は、ウツボギ沢の出合で、沢床の広河原まで下降します。増水すると沢水で現れる河原には、 数張りのツェルトが張られていました。大きなテントがないのは、人気の沢遡行コースならではで しょう。テントをもたず、小さなタープの下でマットとシュラフを広げる女性の単独行者もいまし た。

 ナルミズ沢遡行は、ここから入渓するのが、本筋です。しかし、ここからの2キロほどの区間は、 巨岩帯と呼ばれ、上流部よりも遡行には手間取る場所です。今日中にできるだけ高度をかせいで、 いい天場を得たい私たちは、右岸の山道をさらに上流へと進みました。
 遠くでしきりと雷鳴がします。午前10時をすぎたばかりなのに、今日は雷雨があるかもしれ ません。

 11時15分、大石沢の渡渉地点着。この渡渉地点の少し手前の高みから、右手前方、40メートル ほどの下に、ナルミズ沢の中流部の関門、大石沢出合の2メートルの滝と、見事な滝つぼが姿を見せました。
 登山道は、大石沢の左岸に渡り、朝日岳へと登っています。
 私たちは、大石沢を下降し、出合に下り立ちました。

 雨が降り出しました。雷鳴は10秒おきくらいです。
 2メートルの滝を右岸から乗り越したところで、今度は頭の真上のように感じる至近距離に、落雷があり ました。雨の降り具合によっては、進退が極まります。いったん、滝を下降して、滝つぼの右岸にある 幕営地点にテントを張りました。

 それから、2時間あまり、ものすごい雷鳴とほどほどの雨が降りました。ふもとの水上の町では、 停電があったそうです。
 私たちは、今日の遡行はあきらめて、雨が小降りになるのを待って、流木を集め、苦労して焚き火 を起こし、のんびりとキャンプを楽しみました。
 大石沢に着いたばかりのときに、男女4人のパーティーが滝からさらに上流に登っていきました が、さすがにこの雷雨では、登るパーティーはありません。
 この天場に装備をデポしていた遡行パーティーが、午後2時30分ごろ、朝日岳まわりで下降して きました。3人のうちリーダーの男性は、稜線にあがってずっと雷だった。そこらじゅうに落ちたけど、 止まるわけにはいかず、必死で抜けてきた、と話していました。

 雷が止んだのは、午後5時過ぎ。  日没の間際にまって、ようやく、大烏帽子山と朝日岳の稜線が、姿を現しました。

 


1日目に泊まった大石沢出合いの滝の近くの天場。
沢岸の、水流から2メートルほど高い位置に、
3張りほどテントを張れるスペースがあります。
大石沢の方まで出かけて流木を集めて、焚き火を楽しみました。




流木の焚き火。一晩中、ずっと燃えて、虫をおいはらってくれました(7日夕)



8月8日  沢床の夜は、気温が下がり、何度も目が覚めました。シュラフカバー1枚きりでは、 寒い。
 午前3時に目覚めてテントをはい出し、残っていたおき火を使って、また元気な焚き 火をつくりました。天の川に大きな星が輝いています。快晴です。

 4時55分、テントなどをデポして、出発。
 大石沢出合の「2m二条の滝」を、左から乗り越えると、ナメや釜が連続して現れる 渓相となります。沢床は1枚岩の露岩が侵食され、さまざまな景観を作り出しています。



2メートルの滝の上部は、沢床は岩が露出し、さまざまな景観をつくっていました(8日朝)


 100メートルも行かないうちに、右手の沢岸にツエルトが1張り、立っていました 。少し先の釜で釣竿を振っている釣り師のものでした。あの雷のなか、脱出もままなら ないこの場所では、心細い幕営だったことでしょう。足元をイワナが走りますが、ナル ミズ沢のイワナの魚影は、釣り師が多く入りすぎたためか、あまり濃くありません。

 すぐ先で、深めの滝つぼと切り立った岩壁をもつ、「1mの滝」が現れました。規模 は小さいけれど、泳がないと越えられそうにない。高まきは、右手(左岸)から。しか しツルツルの枝沢が落ちていたため、先へ進めず、退却。こんどは、左手(右岸)の笹 の斜面を腕力を頼りにトラバースして越えました。

 その先に、「3mほどの幅広の滝」が現れました。右側から簡単に越せそうですが、 最後に体を持ち上げるところで、ホールドが足りません。木の枝は、皆が同じ部分をつ かむために、皮がはがれ、折れて、15センチほどの長さしかない。こいつをしっかり 握って、ぶら下がって、左足を高く持ち上げて、足場に立ちこみました。
 続くカミさんは、同じ場所で、右手が例の枝に届きません。お助けヒモを垂らして、 補助に使いました。あの枝は、いずれ抜けるか、枯れてしまうでしょう。落差は小さい けれど、岩場の下に水中の岩だながあって、落ちると痛い目にあうところです。

 「第一のトロ場」がその先にあります。予想より規模は小型で、渕は小さい。右から まこうとしたら、カミさんが、「意外に浅そうだよ」と。渕の中を左よりに進んでいくと、 腰までの深さもなく、通過することができました。増水のあと、土砂が底にたまったよ うに見えます。また、昨日の雷雨もカラ雷雨で雷鳴ばかりだったため、渇水状態なので しょう。ここは、高まくと下降でちょっと苦労させられるところです。

 それに比べて「第二のトロ場」は、規模がふたまわりは大きい。深い渕が3つほど、 連続しています。右の斜面に平坦な草地があり、踏み跡を伝ってここへ上がり、泥田の ようなずぶずぶのぬかるみを進んで、上流へ下降しました。



魚止めの滝。右手の岩の端を登り、落ち口に出ます

 ナメがゴーロに変わってしばらく遡行していくと、正面に「魚止めの滝」が現れまし た。午前6時、順調なペースです。先行の男性4人のパーティーが、滝の右端の岩場を 登っているところでした。今朝早く、登山道をへて大石沢出合から入渓したパーティー のようです。間をあけるため、ここで小休止。

 一休みして岩場にとりつくと、簡単そうに見えて、中段からはスタンスがとりにくく なります。落ち口に体をもち上げるにもホールドが不足し、上体の腕力が必要。
 カミさんも、中段のスタンスで左足を高く上げるポイントで、苦労しています。お助けひも をおろそうとしたら、「いらない」と。落ちても、ここは下が滝つぼなので、大きな怪 我はなしでしょう。はらはらして見ていたら、うまくスタンスを得て、乗り越えること ができました。初心者には、前の「幅広の滝」と合わせて、ザイルが必要な場所です。実際、少なくない 記録がザイルを使用しています。先行の4人組も、リーダーがザイルで確保していました。

 魚止めの滝の上は、ほんらいなら美しいナメが展開するはずですが、7月の集中豪雨 のためでしょうか。大量の土砂や大きな石が、延々と沢床を埋めて、なんの味わいもあ りません。沢が大きくカーブする場所では、増水時の濁流が谷の外周をえぐり、生々し い侵食地形を見せている場所もありました。



8mナメ状の滝。左手の笹と草付きの斜面をまいて、上流に出ました

 

 沢幅がもう一度、狭まると、「8mナメ状の滝」です。手前に小さい滝つぼがあり、 両岸はスリップを誘う、ヌルヌルの、傾斜のある岩場になっています。迷わずに、左か らまきました。潅木まじりの笹のブッシュこぎです。カミさんが「だから、沢はいやな んだ」と不満の声をあげます。

 その100メートル足らずの先で、「1420メートルの二股」に出ました。(6時 44分)

 私は、目の前の山を大烏帽子山と誤解して、左の沢をルートと判断しました。水量も 左がやや多めに感じました。
 でも、正解は右股だったのです。地図を見れば一目瞭然なのに、越後烏帽子というも う一つの高みに、私はまったく無頓着でした。
 10分ほど左股を登って、どうも変だと思いました。沢床はナメは部分的で、荒れた ゴーロが多すぎます。最初は、増水で沢が荒れたからだと思っていましたが、やはりナ メの規模が切れ切れで、小さい。先行者の足跡も見当たりません。



二股から左俣に入ると、小滝が続きます

 上部の1540メートルの二股はすぐ目の前。もはや引き返すのもロスが大きすぎま す。それに、ジャンクション・ピーク(JP)と越後烏帽子の間の鞍部は、青空の下、美しいラ インを描いて、おいでおいでをしています。鞍部の両側は、白い岩場が展開しています が、草地も見えます。今日は、金属ものの装備は不足しているため、まともに岩場に向 き合うのは避けねばなりません。ようやく地図と真剣に向き合って、その鞍部のややJ Pよりに抜ける枝沢1本だけが、傾斜が最後まできつくなく、岩場にぶつからないルー トであることをつかみました。
 「行けるなら、行ってみよう。予備知識がないけど、かえっておもしろい体験ができ る」。
 そういう気持ちで左股沢を見直すと、ナメやナメ滝、階段状の小滝なども現れて、ほ どほどに楽しむこともできそうです。

 1540メートルの上部二股は、左にとれば、朝日岳の朝日平に抜けるこ とができます。稜線に直接、出るのが目的ですから、正面にルートを選びました。
 右手の越後烏帽子の方向と、左のJPの方向からは、その上部でも、幾つもの枝沢が 落ち込んできます。傾斜が増して、ナメはフェルト底のグリップをしっかり効かせて上 がります。



左股の小滝とナメ。この上部が、やや荒れた源流帯で、ルート判断に悩みました
GPSに大いに助けられました


 前方に見えていた岩場が目の前に近づいてきたところが、1644メートルの三股で した。一番右の枝沢は、越後烏帽子に向かうもので、除外。真ん中の水流は、目の前の 岩場が視界をふさいで奥が見通せない。どうもこれが、鞍部へぬける、唯一のやさしい ルートの様子です。そして、左の沢は、約10メートルの傾斜のあるナメ滝をかけ、水流は 一番多めです。上部はやはり見通せません。この左の沢と、中央の沢の間には、上部に おだやかな地形の支尾根があります。中央と左、どちらをルートに選んでも、上部でト ラバースすることはできそう。GPSで、現在地ははっきり確認できますが、目指す沢 筋が中央か、左か、目の前の岩場がじゃまになって、確認できません。また、ここまで 細かい枝沢になると25000分の1地形図でも、やや解 像度がアバウトで、現地の地形ときっちり対応しきれません。

 カミさんが、「とりあえず左に行こう」といいます。目の前の滝を越えれば、視界が 開け、地形と進路は明瞭になるでしょう。「あの草付きをトラバースすることになりそ う」ということを条件にして、左の沢の滝を登りました。

 ナメ滝はツルツルで、フリクションが効かず、右手の草付きと笹を使って、上部に出 ました。その上は、細い溝状のナメ滝で、傾斜は少し楽。もう水流はほとんど消えてい ます。ここも、草付きとの境を進みました。草付きもまた傾斜があって、滑ります。
 長いナメ滝を登りきると、前面に、いままでよりも困難な岩場が現れました。もし、この岩場を乗 り越えても、先にあるのは新たな岩場か、JPへの長い藪こぎです。

 幸い、この地点からは、左股沢の源頭部の全体が見渡せました。鞍部の一角に上がるには、 中央の沢が、やはり正解でした。
 GPSで位置を再確認し、私たちはこんどは迷わずに、中央の沢へ150メートルほど 草付きをトラバースし、水流がわずかに残っている沢筋に下り立ちました。
 この源頭の沢は、気持ちの良い草地を抜けて、鞍部へとせり上がっていました。


 ◆あとで確認したら、以下のサイトに、この源頭の様子を撮影した写真がありました。
 やさしい枝沢が1本だけであるのが、周囲の岩場と対比して、よくわかります。
 http://homepage2.nifty.com/mscc/narumizu2.htm

 8時24分、最低鞍部のややJP寄りの位置で、稜線に出ました。JPは、ここからは ひと登りです。目の前に越後烏帽子の高みがあり、そのさらに北方に、大烏帽子山が見 えます。その間の鞍部が、ナルミズ沢を遡行して上がるはずの場所でした。
 見下ろす左股沢は、JP側からも、越後烏帽子側からも、たくさんの支沢を集めて、深 い谷へと落ち込んでいます。
 ルートを間違えたけれど、結果的にはこれだけ早い時刻に、またなんとかよりやさしい ルートを選んで、遡行をやり遂げることができました。視界の良さにも助けられました。



稜線に上がりつき、ジャンクションピークの登りから、源頭の鞍部越しに、越後烏帽子、大烏帽子山を 望む<BR>

 渓流シューズを軽登山靴に履き替えました。スズタケが腰の高さに伸びて、踏み跡は不 明瞭な道です。JPに9時03分着。ジャンクション・ピークからの眺めは、いつか体 験したいと思っていたものでした。越後烏帽子、大烏帽子山、遠くに巻機山方面が望め 、背後には利根川源流の山々が連なっていました。



JPより、大源太山方面



朝日岳から谷川岳方面

 JPからは登山道をすすんで、朝日岳に9時31分着。
 緑鮮やかな清水峠、七つ小屋山、大源太山を派生して、茂倉岳、一ノ倉岳、谷川岳とつ づく稜線の眺めも、感無量でした。
 朝日平の湿原の傍らに湧き出す冷水も、おいしかった。
 昨日と同じに、西からも北からも、もくもくと上昇する入道雲たちに追われるように、 テントをデポした大石沢出合へと、下降しました。

 カミさんは、「今度は秋に、ちゃんとナルミズ沢に登りにこよう」といいます。「沢は 虫と藪コギが、きらいだ」と言ってきましたが、「屋内ゲレンデでトレーニングして、 また登りたい」という話も出ました。
 達成感を確認でき、課題もはっきりした山行でした。

 ◆朝日岳から大石沢の出合をへて、宝川温泉の林道へ続く登山道は、とくに上部の露 岩地帯が登山道が不鮮明で、迷いやすい道でした。地図には道がついていますが、この ルートは下部で3度の渡渉があることも含め、注意がいる道です。





山の便り、大地の恵み (野原森夫)
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