秋山郷から苗場山――残雪と花とタケノコ

2000年6月30日





苗場山の山頂部の西端にある、坪場付近

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西多摩の自宅(4時15分)→圏央道・青梅IC(4時27分)→関越道・赤城高 原SA(5時25分、朝食と朝寝、6時20分発)→塩沢・石打IC(6時47分) →国道353号経由→秋山郷・小赤沢登山口3合目(8時15分着、8時35 分発)→6合目(9時53分、1750メートル)→7合目(10時05分、食事、 10時21分発)→山頂の西端(10時37分)→苗場山頂(11時16分〜24 分)→山頂の西端(11時57分〜12時03分)→小赤沢登山口3合目(13 時45分着、14時03分発)→塩沢・石打IC(15時37分)→自宅(17 時40分)
 走行 片道242キロ。(紅葉の時期は、休日の飯山街道と、秋山郷への 道はひどく渋滞します。)

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 早朝に出発して関越道の赤城高原サービスエリアまで走ってきたら、ものす ごい霧で視界がほとんどない。「やはり、梅雨の時期は、山は展望なしの雨降り か」とがっかりして、ガラガラの駐車場で一眠りした。雨に降られても、花や池塘、 残雪につつまれた山頂部の景観は十分にたのしめるのではと、苗場山を目標 に選んだが、こんな天候でどうだろうか。
 ところが関越トンネルを越後湯沢側に抜けたら、青空が見える天気に変った。 神楽峰あたりだろうか、西に緑の稜線が朝日に照らされている。残雪が白い。
 飯山街道を折れて秋山郷に入っていくと、前方には左に苗場山、右手奥には 鳥甲山が、明るい空に映えている。鳥甲山の東面の岸壁は、いつ見てもすご い。この山の西側にひろがるカヤノ平のブナ林へ、10年くらい前からキノコ狩 りに通ってきたので、秋山郷の一帯は紅葉の時期の抜け道もふくめて、土地 勘はある。平日で交通量の少ない道を、ぐんぐんとアクセルを踏みこんで登って いった。

 8時すぎ、家(東京の西多摩)から片道242キロの道のりで、小赤沢の登山 口(3合目、1450メートル)に着いた。30〜40台は収容できる広めの駐車スペ ースと、真新しいトイレが設けてあった。荷造りをして、8時35分に出発。
 登山口には、5月31日付で入山者への注意書き掲示されていた。「残雪が例 年になく多く、登りではアイゼンの用意がいる」「山頂の木道は雪の下に埋まって おり、雪山になれた人でないと無理である」などの趣旨が書かれていた。1ヶ月前 の張り紙だし、さきほど眺めた苗場山は、沢筋をのぞけば残雪は消失している 様子なので、アイゼンは置いていくことにした。

 秋山郷からのルートを選んだのは、行程の短さがまず第一だった。また、苗場 山のなかでは和田小屋からの表コースにくらべて、秋山郷側の各ルートは開発 の手が比較的入っていない地域であり、ブナの樹林、そしてこの時期ならではの 山菜や初夏の花という楽しみがある。山頂の西の端に登り上がるので、苗場山 ののびやかな山頂部をゆっくり眺めながら、北端の山頂へとたどっていける利点 もある。
 ブナの樹林は、林道を登ってくる途中で、トチやミズナラも混じったすばらしい 一帯を通りぬけてきた。山菜は、「採るべからず」と看板が出ている。私は、写 真が中心だし、今日は日帰りで山頂往復、東京帰りだから、時間がない。で、熱 中するわけにはいかない。でも、登りだしてみると、このルートは登山者が負けて しまうほどたくさんの山菜採りの人たちが入っていた。



 登り出して15分ほどで最初に出会った人は、60歳前後の地元・長野の男性。 山菜を入れる布製の袋(ふた付き)を肩から提げて、体中泥だらけで下りてきた。
 「タケノコですね。うわーっ、いっぱいだ。ちょっと、写真を撮らせてください」
 ふたを開けて見せてもらったら、見たこともないような、とびきり太いネマガリダ ケのタケノコがいっぱい入っていた。「夢中になっているうちに、ザックをどこかに 置いてきてしまってね。いくら捜しても、見つからない。ほら、タケノコ採りっていう のは、笹薮にはいりこんで、方角もわからなくなるくらいだから……。大事なもん はみんな、ここ(ウエスト・ポーチ)に入れてきたから、まあ、仕方ない」。ザックが 失せても、満足げな顔だった。
 今年は残雪が多かったせいで、例年なら6合目から上で盛期になっているはず が、「4合目あたりが一番、多かった」とも話していた。

 その4合目まで上がっていくと、道の脇には、摘みごろを少し過ぎたばかりのコ シアブラが、たくさん生えている。登山口から登り出してすぐに、コシアブラの太い 木が3本並んでいて、全部、時期をとっくに過ぎていたので残念に思ったけれど、 少し登れば、ここはまだ賞味期限内だった。霧が濃くなってきて、展望はなし。で も陽射しをさえぎってくれるから、助かる。
 今度は5人のタケノコ採りの男性が地下足袋姿で下りてきた。みんな泥だらけ。 「いつもの年よりも10日くらい、遅れている」という。

 5合目をすぎ、残雪がところどころ出始める。ここから上では枝沢を2、3度、横 断する。早い時期にはアイゼンがあればより安心だけれど、傾斜はいずれもさほ どでない。
 6合め近くになると、「シドケ」(モミジガサ)が、若い芽をいっぱい伸ばして群生し ている。アプローチの林道ではすでに大きくなり過ぎていたが、このあたりは食べ ごろ。トリアシショウマも旬。期待のヨブスマソウは最後まで見つからなかったけれ ども、コウモリソウの仲間が群生していた。苗場山のこの季節は、山の幸の宝庫 です。



シラネアオイ

 花も多い。
 シラネアオイは、今が盛りで、2ヶ所に群生していた。この花の色は、好きです。
 ツバメオモトにそっくりの花で、葉の形がフキの仲間に似ている、名前がわから ない植物にも出会った。(サンカヨウであることを、FYAMAPのメンバーの方々 から教えていただきました。)
 ウラジロヨウラク(ツリガネツツジ)の淡い桃色の花にも気をひかれる。
 ムラサキヤシオは、まだつぼみのものもある。
 雪融けを待って咲くショウジョウバカマは、登山口からずっと目についていた花 で、標高が上がってからは、まだ花茎を立てていない株が目立ってきた。  3合目では実をつけはじめていたエンレイソウは、上部に登っていくとつぼみや 葉だけの姿が多くなってきた。
 キヌガサソウは咲いたばかりのまだ白い花に、そしてゴゼンタチバナにも、今年 初めて出会えた。花は、咲き始めがやはりいい。
 そのたびにカメラを出して撮影するから、なかなかピッチが上がらない。でも、団 体の下山者がまったくないので、ロスタイムは最小限。
 7、8合目は、ネマガリダケの最大の群生地帯になっていて、道端にもタケノコが そこここに顔を出している。森林限界を抜けて、日当たりが良くなったので、雪融け も芽を出すのも、一気に挽回したからだろうか。森林帯の上部の6合目、5合目あ たりのタケノコが一番、割を食って遅れているように感じた。

 1800メートルを超えたあたりから、周囲の霧が薄くなり、陽射しが強くなりだす。 でも、西隣の鳥甲山は、霧に隠れたまま。

 10時27分、ひょっこりと、苗場山の山頂の西の一端に登りついた。標高2000 メートル少し。登山口から、休みを入れて2時間たらず。「坪場」と名前がついた地 点で、2036メートルの小さなピークがすぐ西にあった。
 見晴らしが開け、南に佐武流山、白砂山へと続く稜線が雲の合間に見え隠れし ている。濃い霧か、雨の山頂を予想してきたのに、予報よりも天気は上々。湿原 は、明るい光につつまれて、霧はない。

 ここから100メートルほど湿原をすすむと、池塘の周辺をお花畑が埋める美しい 場所に出た。イワカガミの赤色と、チングルマの白い花は、今が盛り。イワイチョウ の背丈のある白い花も見える。山頂へ向かう尾根の南東〜北東面には吹き溜ま りの大雪田が残っていて、木道はシラビソの林の手前で残雪の中に埋まっていた。
 樹林に入って、厚さ1メートル近い残雪の上を木の梢をぬって進むと、こんどは より広い湿原に出、お花畑をぬってすすむ。ここにはタテヤマリンドウの薄紫の小 さな花も、咲いていた。ワタスゲはもうしぼんでいた。雪が融けたら、またあちこち で咲き出すだろう。コバイケイソウはまだ芽をのばしかけ。カエルが産んだ泡状の 卵のかたまりが、池塘の岸に垂れ下がっていた。
 右手に、龍の峰を経て赤倉山、佐武流山へと向かうルートを分けると、こんどは 山頂付近までずっと続く膨大な雪原の上に出る。この赤倉山へのルートは、整備 はされていない。分岐からは雪田を下って、大小の池塘が点在する湿地に出、シ ラビソの中の広い、ゆるやかな尾根へと延びている。そのルートには見通せる限 り、残雪がびっしり付いていた。縦走するのは、残雪の時期に限られる、用意のい るコースのようだが、気を引かれてしまった。
 このまま尻セードで、あの湿原まで下ってみようか。秋に、ひっそりとした湿原とシ ラビソの森を訪ねるのも、いいかもしれない。

 山頂へは距離にして500〜700メートルもあろうかという雪原歩きとなる。陽射し が雪面で反射して、顔が暑い。とてもまぶしい。
 前方の樹林のあたりに小屋が見えた。それが、栄村村営の苗場山頂ヒュッテで、 建て替えたばかりの新しい小屋だった。山頂の三角点(2145メートル)は、さらに 80メートルほど北へすすんだ樹林の中の、遊仙閣という古い山小屋の裏手にあっ た。

 11時16分、山頂の一等三角点に着く。
 樹林と小屋に囲まれて展望はまったくないので、記念の写真を1枚撮って、また 見晴らしのいい雪原にもどる。
 山頂部の北東の端が、急な尾根となって落ち込んでいるのが見えた。10年ほど 前の冬、3人パーティーでこの尾根に挑んだことがあった。山スキーで神楽峰を越 え、いったん深い鞍部(夏はお花畑)に下降し、雪の壁に取り付いた。あのとき、谷 川連峰と上越の山々が真っ白く連なり、途中の神楽峰付近からは鳥甲山の雪の 壁も望めた。けれど、今日は周囲の山の展望はほとんどなし。でも、季節を変え て、苗場山がいちばん輝く季節に、訪れることができてよかった。

 帰りは、12時には坪場から下降し始めた。
 道の脇のタケノコを何本か採り、花を写し、シドケやコシアブラを少しいただく。
 8合目で高知県からきた20人の団体とすれちがう。「明日は谷川岳。だから、こ こで、ばてるわけにはいかない」という。バスは和田小屋側へ回しているようだっ た。12人ほどの団体もやってきた。秋山郷からでも、このルートについては、休日 は相当に混みそうだ。一足早く登って、静かな山頂を楽しめてよかったと思う。タケ ノコ採りの人たちにも、何組か会う。

 セミの声を聞きながら、4合目からはブナ林にもどって、2時前に登山口に降り立 った。
 ここまで下りてきて、鳥甲山の霧が消えて、両翼を広げたような山容が正面に見 渡せた。細い雪渓を数筋ひいているだけで、もう夏山の姿。登ってみたいと思って きたやせ尾根の稜線(縦走コース)を間近で詳細に目で追える。炎天の時期はき つそうだなあ。でも、意外に早い時期に、挑戦することになるかもしれない。





山の便り、大地の恵み (野原森夫)
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