ブナ林のきのこと、初秋の花を愛でつつ、妙高山へ

2002年8月31日



飯縄山頂から、妙高山の山頂ドーム(右)。
左は火打山――2002年2月撮影
佐武流山の途中、ワルサ峰からの妙高連山
(左に妙高山の山頂ドーム。右の新雪の峰は
焼山と火打山)――2000年10月撮影


 個性的な風貌の名山が多い上信越の山のなかで、妙高山は遠くからひ ときわ目立つ山、遠望してよい目印になる山だと思う。2446メートル の高さとともに、見る角度によって意外な形に姿を変える山頂部の巨大な ドーム(中央火口丘)が、異彩を放っているからだろうか。
 そのドームの大きさ、傾斜のきつさを、登って体感させられた。

 ルートは、北東山麓の燕温泉から燕登山道を登り、山頂を経て、燕新道を 下りて、起点の燕温泉にもどってくる時計回りの周回コース。

 地形が険しい火山のためだろう。谷は土石流や崩壊の跡が生々しく、地 滑りをした地盤の上に成立したブナの林も目にした。多くの登山者に踏ま れてきたはずの道なのに、登山道は浮き石や流水による足場の崩落箇所が 多い。鎖場やロープを張った崖状の場所もあった。下山で渡った大 倉沢の渡渉地点は、少し増水すれば渡渉不能となるようなところだった。
 好天を選んで、登りたい山だと思う。笹ヶ峰から火打山に登るルートにくらべて、 短いながらも注意がいるコースと感じた。



妙高山へ登ったルート。赤い軌跡はGPSトラックログ。
左の燕登山道を登り、山頂から、右よりの燕新道を下山した。
カシミール3Dで描画。国土地理院数値地図50メートルメッシュ標高を使用。
GPSトラックログは、Garmin GPS 12 で記録した。

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東京・西多摩の自宅(4時45分発)車→圏央道・青梅インター (5時00分)→関越道・上信越道経由→妙高高原インター(7時 25分)→燕温泉(7時58分、駐車場)

燕温泉(8時20分発)→北地獄谷の吊り橋→麻平(8時56分 着、食、9時12分発)→左の燕登山道を行く→北地獄谷渡渉点 (10時07分、谷筋を上がってきた道と合流)→地獄谷を離れる ガレ場の急登(10時28分着、同35分発)→天狗平(10時5 5分着、11時02分発)→鎖場→妙高山頂(12時02分着、同 45分発)→
黒沢池方面との分岐(大倉乗越分岐、13時38分着、食、同45分発)→燕新道 を下山→長助池→黄金清水(14時44分着、同57分発)→大倉 沢へ急下降→大倉沢渡渉点→麻平→燕温泉(16時15分着)

燕温泉(16時32分発)車→長野市内(17時55分、泊。翌 日、帰京)

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 前夜遅く成田から自宅へ帰ったので、就寝はやっと12時を回った時刻。午前4時に目覚 ましを合わせたものの、まだ疲れがとれていないまま、荷物を車に積んで出発 した。今日は、妙高山を登下降する行程で、正味7時間は歩くことになる。帰り は長野市内に宿をとったので安心だが、元気に登り通せるか、心配だった。

 上信越道を長野市まで走るとぐっと眺望がひらけてくる。北信五岳の山々の向 こうに一段高く、頭をもたげた妙高山が姿を現した。北アの鹿島槍も見える。今 日の妙高山頂からの眺めはすばらしいかもしれない。上信越道のこのあたりを走る 時は、どんなに眠たくとも、胸がどきどきし、うれしくなる。

 妙高高原インターで下り国道18号を少し北上。左へ折れて、舗装された山道 を10キロほど登ると、登山口の燕温泉に着く。深く切れ落ちた谷の斜面に細長 くはりつくように、10軒ほどの宿が並ぶ。駐車場は温泉の入り口に20台分ほど 停められる場所があった。細く狭い温泉地のために、宿泊者以外のマイカーは中 に入ることができないし、車を停める場所もない。

 8時20分、駐車場を出発。
 温泉地の坂道を抜けると、切り通しのような場所の林道歩きになった。右手の 大田切川の谷底まで30メートルくらい。ガードはなく、夜間は危険だ。
 この温泉の周囲の地形はけわしい。下山時に尾根の上部から燕温泉を見下 ろしたが、温泉地は断崖の狭い傾斜地に宿が軒をこすりあうようにして立ち並 ぶ、ちょっと心もとない場所になっていた。

 数分で林道も途切れ、北地獄谷を橋(妙仙橋)で渡る場所に出た。対岸の橋のたもとか ら左へ谷沿いに下って行くと「河原湯」の露天風呂がある。登山道はこの河原湯 への道を左に見送って、正面の支尾根をジグザグに登って行く。
 20分ほど登って、麻平と呼ばれる分岐点に出た。「平」といっても、そこはブナ 林の中の、畳10畳ほどの小さな刈り払い地。ブナの幹は太く、森のなかの気持 ちのいい休み場だ。朝ご飯にする。
 この分岐から右は燕新道・黒沢池方面コース。私たちは、左の燕登山道を登 る。

 9時12分、麻平発。
 妙高山頂のドームは、北東側に急な支尾根を幾筋か落としている。その一 番、地獄谷側の支尾根を、私たちは登っていった。ブナの林はずっと続いてい る。涼しい風が流れるし、日差しをさけられて都合がいい。

ハツの仲間(ベニタケ属のきのこ) チチタケ

 足元には、夏の終わりのきのこが、けっこうたくさん生え出している。今の時期 は、もろい肉質のハツの仲間(ベニタケ属)が多い。ハツにはけっこういい出汁が出るのもあ るが、食べられないものも多い。姿がいいのに惹かれて登山者がひき抜かれて、あちこちに 転がっているきのこもある。
 食べられるきのこでは、チチタケがちょうどいっせいに生え出している。これは 北関東や南会津で人気のきのこ。このあいだ「東北のキノコ」(日本菌学会東北 支部)という新しい図鑑で調べたら、フライパンの油をあつあつに熱したところで ザッと炒め、しょう油とみりんで味付けするのが、うまい食べ方のこつなんだと か。うどんや蕎麦の具に使う。



苗場山、鳥甲山方向の眺め



ほぼ同じ位置からのCG展望画像。
この図の右端は、上の写真では山陰になって写っておらず、
鳥甲山の右のピークから佐武流山方面は木陰になっている。
また左部分も写真には至仏山などが雲に隠れて写って
おらず、前景の山の稜線だけがとらえられている。
カシミール3Dで描画。国土地理院数値地図50メートルメッシュ標高を使用。



 登る途中、樹林の中に何度か見晴らしの窓が開いた。平坦な苗場山ととんがった 鳥甲山が好対照で眺められた。左に駒ヶ岳と中ノ岳、背後に薄く上越国境の山々。高 度を上げていくと、右手には岩菅連山と志賀の山々も見えてきた。



ウメバチソウ

 左手の地獄谷は100メートルを超す深い谷底から急傾斜でせりあがってくる。谷 は断崖でさえぎられるが、その段差の部分は光明滝、称名滝で一気に高度をかせ ぐ。下部は見えないが、滝は相当な落差があるようだ。そして、ついに登山道のすぐ左手 にV字型の谷が迫ってきた。私たちは、ウメバチソウの白い清楚な花が咲く道を、谷 へ向かって斜めに下りていく。

北地獄谷の渡渉地点から右岸(上流から見て)を登って行く。
正面奥が山頂方向

 10時07分、北地獄谷の渡渉地点に出る。渡渉の手前で、谷沿いの道 (尾根コース?)が合流してき た。源頭部となった地獄谷の沢は水流の幅が1メートルもない。V字型なので増水は劇的だろうが、いわゆる流 域面積は小さく、短時間で減水してくれる様子だった。
 沢の水は、硫黄分が多くて真っ白。地図には温泉マークがある。けれども、その 臭いがたちこめるだけ。流れに手をひたした妻が、「冷たいよ」と言う。
 沢の上方は、山頂ドームの一角を削って圏谷状の地形となり、岩場があちこちで城壁をつくっている。

 沢に沿って200メートルも登っていくと、登山道は左手(南)の尾根へガ レ場を登り始める。周囲が開け眺めがいいので、ここでまた食事休憩。
 桃(ネクタリン)が甘酸っぱくてうまい。ぶどうの巨峰も元気をつけてくれる。目の前 には視界いっぱいに、妙高山頂のドームの基部がたちふさがっている。傾斜がきつ く山頂は見えない。上部に見えているのは、山頂部の肩だろう。

 休んだガレ場から山頂から北東へ伸びる尾根へ、今日、最初のきつい登りとなる。「あと200メートル、30分。が んばれ」の小さな板があって、そこから10分ほどで、稜線の天狗平の広場に出た。10 時55分。
 天狗平は、30坪ほどの平地で、小さな祠があった。ネマガリダケとカンバが繁って、 見晴らしはない。ここには赤倉からの道が合流している。山頂までコースタイムで90 分。また巨峰を食べて、元気をもらう。



天狗平をへて、妙高山頂へ向かう

 11時02分、天狗平を発つ。
 山頂へ続く尾根に出てからも、 しばらくは、日差しを避けられる木陰の道が続いた。雨 水で削られ、登山道は深さ30センチほどの溝になっているが、歩くには支障がない し、ひんやりして気持ちがいい。けれど、多くの登山者は、溝道をきらって、刈り払い がされた道の両側を植物の根を踏んで歩く。そこはいずれ、溝がまた掘られるだろ う。こうして、踏みつけによる侵食はひどくなり、山に太い「林道」が現出したりもする。

オヤマリンドウ タテヤマアザミか?

 潅木が開けたところからは、青い空の下に山頂部が見えてきた。岩場が途中にあ り、10人余りのツアーが渋滞している。左手、はるか下には、赤倉からの登山道の 途中にある小屋の赤い屋根が見える。このコースも登りはきつそうだ。
 岩場は、一歩ごとに階段状の足場がうがたれて、安心して登ることができた。高度 差は50メートル弱か。美しい青紫色のオヤマリンドウが小さな群落をあちこちにつ くっている。アザミの仲間(タテヤマアザミ?)も、大きな群落をつくっている。ゴゼンタ チバナは赤い実をつけて、背丈が低いわりに、この季節にもよく目立つ。

 このあたりから上部は展望もいい。ふりかえると、上信越国境の山々が、さきほど よりもかすんで見えた。南には黒姫山、その影に飯縄山。北ア南部は雲の中。
 山頂直下では、大きな火山岩を縫うようにして、登っていく。先行するパーティーを 抜きながら、登る。目の覚めるような鮮やかな青紫色のトリカブトに、歓声が上がる。

 12時02分、妙高山頂の一角、南峰に着く。
 天気はいぜん、いい。台風が朝鮮半島方向にすすんでいたためかもしれないが、風 がある。



左から雲の間に剣岳、白馬三山、
写真中央から右へ雪倉岳、一つおいて一番右端のやや平らな頂上が朝日岳


 山頂からの展望――。
 飯縄山の左、雲の上に高く富士山の山頂部が見える。
 戸隠の向こうに、雲がまとわりついた北アルプスが望める。薬師ないし野口五郎岳 あたりまでが姿が見え隠れしていて、槍ヶ岳など北アの南部は雲の中。立山、剣岳は 雲が切れ、ごつごつした黒い姿をあらわした。五竜岳は背後の立山と重なる。鹿島槍は残念なことに稜線が雲の中で、 中腹しか見えない。白馬鑓、杓子岳、白馬岳から雪倉岳、朝日岳はずっと姿を見せて くれただけでなく、ずいぶん近くに感じた。この時期でも大雪渓は、まだまだ大きく、 上部の二股付近では大きく広がっているのがわかる。
 目の前には戸隠、高妻山、焼山、火打山。焼山には細く雪渓がまだ残っている。今日は噴煙は見えない。
 日本海の海岸線は残念なことに不明瞭でわからない。海を見るのと、佐渡の眺めを 楽しみにしてきたのに。新潟方面では米山かな、という姿が平地から浮き上がって見 えた。
 全体に、中層の雲にさえぎられて、好展望とまではいかなかった。でも、あちこちの 山からその姿を探してきた妙高山に、やっと登ることができたのは、とてもうれしい。
 3年前の火打山は、濃霧の山頂だったが、今日は幾つもの名山を遠望できるただから。

白馬岳。大雪渓がまだ大きい。 高妻山と、稜線左に乙妻山。

 12時45分、山頂発。山頂ドームから北西側へ急な道を下る。雨で地表の土が流され、 浮石や段差が多い。この山は全体に、登山道の保全では苦労が多いようだし、保守そのも のに手がまわっていない様子。沢床のような場所を下降して、黒沢池との分岐点 (大倉乗越分岐)に着く。13時38分。

サンカヨウの実 長助池。外輪山との間に生まれた湿原

 分岐から、道は、外輪山と山頂ドームの間にできた窪地へと、進んでいく。 15分ほどで、長助池と呼ばれる広い湿原に出た。
 妙高山は、山頂ドームが巨大すぎて、外輪山との間に、いわゆる火口原が広がる ような場所はない。そのなかで、長助池は、数少ない平地。ぐるっと外輪山に囲まれ る様子を、ここでは少し、感じとることができる。
 長助池でもオヤマリンドウの群落が秋が間近なのを知らせていた。

 ここからは樹林の背丈が少しずつ高くなっていくなかの、 日陰の下り。傾斜は緩いが、けっこう長い。
 サンカヨウが濃い紫色の実をつけてい る。ナルコユリに似たタケシマランは、茎をつり竿のように斜めにしならせて、赤い実 を提灯のようにぶら下げている。赤橙色の、直径3センチ近い木イチゴ(ベニバナイ チゴ)の実も、よく見つかる。ツル性の、ホタルブクロの花を短くしたような形の、美し い花も咲いていた。
 小沢が何度か道を横断するようになると、黄金清水が近い。流水が流れこむ湿地にはミズバショウ の葉が繁っていた。

 14時44分、黄金(こがね)清水に着く。
 水音が心地よい。左手の山の斜面から細い枝沢が流れ、鮮やかな緑色の水ゴケの 上を伝い落ちてくる。きっとすぐ上に湧き水が出る場所があるのだろう。とびきり冷た い、そしてとってもうまい水だ。今日の周回コースで、初めての、水場になる。この冷た い水を飲み、梨を食べて、元気をもらう。

 あとひと下り、と思ったのだが、燕新道はここからが、意外に長く感じた。
 このあたりは外輪山が北東から東方向へとグルリと回りこんで高度を下げていく、 その尾根の内側の斜面になっている。冬には吹き溜ま りとなったり、雪崩もあるからだろう。ブナは矮木ばかりで、おまけに斜面に張り付くよ うにひどく曲がっている。
 ところが、同じ標高で大倉沢の対岸(北西向きの斜面)では、雪が安定して積もっていくため か、ブナは大きな木に育ち、深い樹林になっている。そこには直径200メートルをこすような、大 規模な土砂の崩壊(地滑り)の跡があり、その地滑り地の全体もブナ林になっていた。山 頂ドームを見上げると、ここからは頂上は尾根の肩の高まりに隠れている。そんな眺め を楽しみながら、途中まで外輪山の内側をたどる。そして、大倉沢が右手から迫ってくると、急傾斜 の電光形の下降になる。足場が滑りやすく、ロープが渡されている。

 沢床まで降り立つと、大倉沢の渡渉地点
 雨はこのところ降っていなくて、幅7、8メートル余りの流れで、深さは20センチほど。渡 渉場所の、ちょうど手でつかめる高さに作業用ロープが張ってあり、これでバランスを とって石跳びで渡る。15センチも増水したら、沢幅も倍に広がり、膝まで流れに入って の渡渉となるだろう。急流で、すぐ下流に滝状の段差が連続するため、増水時はザイルの確保なしではき びしくなる。燕新道は、夕立が予想される場合などは、下降には注意がいる。そういう天気の ときは、逆回りで、私たちが登った天狗平経由燕登山道コースが、より安全だ。
 渡渉のあとも、対岸で、小さな岩場のはしごを降りたり、沢岸の斜めの滑りやすい道 をたどるところもあった。

 分岐点の麻平は近いと思ったが、道はここから、山頂側から落ちてくる支尾根を何度かゆるや かにまき、3度ほど涸れた枝沢を渡って、けっこう長く歩かされる。
 やっと、今朝方に一服した麻平へ。

 麻平からはぐんぐん下り、ふたたび林道へ出た。河原湯へ入りにくる人が、グループ で行き来して、にぎやか。この時間帯では、露天風呂も順番待ちか。
 燕温泉の駐車場に、16時15分に帰りつく。出発から8時間もかかってしまった。

 変化のある自然を楽しめて、秋が入り口にさしかかったことを感じつつ、登ることができた妙高山。
 帰りは、長野市内に1泊。蕎麦を楽しみ、翌1日は善光寺近辺を歩いた。宿からは、前日、妙高山 頂から眺めることができなかった槍ヶ岳が、やや頭を左に傾けた鋭い姿でくっきり望めた。





山の便り、大地の恵み (野原森夫)
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