雨飾山 紅葉のブナ林を登る

1997年10月19日  家族4人




雨飾山の山頂部(荒菅沢を渡渉した尾根の登りから)

 雨飾(あまかざり)山は、長野県と新潟県の県境に位置 する。その響きのよい名前に似合わない、荒々しい岩壁を もつ山であり、また北アルプスと妙高、頸城(くびき)、 戸隠の山々の展望の山としても知られている。ブナの紅葉 もそろそろだなという10月半ばの日曜日、東京からはかな りの強行軍になるが、日帰りで登ることにした。

 西多摩の家を午前4時半に車で出発。信濃大町、白 馬を抜け、小谷(おたり)温泉に到着。ここからは林道を 登り、行き止まりの登山口に8時44分に着いた。

長野オリンピックで、アプローチが短く

 途中、朝食休憩などをとったのに、300キロに少し足り ない行程に4時間余りしか、かからなかった。これは、こ の冬の「長野オリンピック」に合わせて道路が大幅に改良 されたことが大きい。長野自動車道の豊科インターから大 町までも、犀(さい)川の堤防道路が拡幅されて、高速道 路並みのスピードで走ってしまった。この道は堤防上にあ るだけに眺めもすばらしく、常念岳、燕岳、スバリ岳、そ して真っ白な姿に変わった鹿島槍ヶ岳など北アルプスの大 きな山々を見上げながら、走ることができた。でも、こん なバイパスができたら、これまでの国道沿いのそば屋さん やみやげもの屋などは、客が減ってだいぶ影響するかもし れない。

 小谷温泉の先にある林道終点(鎌沼方面とは途中で右へ 枝別れする)へ来ると、登山口は想像していたのとはまる で違っていた。駐車場が幾つもあり、林道脇にも車が並ん でいる。大きなつくりのロッジ風の建物まである。乗り捨 ててある車は、ざっと200台くらいだろうか。「百名山 」の山だし、今日は快晴の日曜日。相当な数の人たちが登 って行ったようだ。荷造りをしている間にも、まだ車が上 がってくる。すぐ隣にも年配の3人が着いたが、富山から 来たとのことだった。



紅葉真っ盛りのブナの尾根を登る

 午前9時すぎ、登山口を発つ。小谷温泉からは5時間近 くかかる行程だが、ここからは3時間で頂上に立てるとの こと。それならば、お昼は山頂でとれるかもしれない。

 登山道は最初は沢床の林の中を進んでいく。この道に入 ってまず感激したのは、雨飾山から下りてくる尾根も、そ して沢の対岸の山腹も、ブナの紅葉が真っ盛りだったこと だ。遥子と子どもたちを先に行かせて、何度も足を止めて 鮮やかに染まった木々に見とれた。ブナの森は夏は薄暗い けれど、紅葉の季節はとても明るい。

 沢を離れて左手の尾根の登りにかかると、そこでは次々 とあらわれるブナの巨木が、頭上に枝を広げていた。ナメ コが着くのにはちょうどよさそうな、ほどよく朽ちた倒木 も、適当な間隔でデーンと横倒しになっている。10分ほ ど登ったところで、腰を下ろすのにいいブナの倒木があり 、ナメコの幼菌があちこちから顔をのぞかせていた。十月 に入ってほとんど雨がないので、乾燥でキノコの成長は遅 れている。この場所から上でも四、五本の倒木にナメコが 出ていたが、みな幼菌ばかりで、しかも乾燥気味。でも、 本来はキノコの密度は濃い山のようだ。

巨木さがし、キノコ見つけ

 それにしても、すごい急登の尾根だ。登山道も、あまり ジグザグを切らずほとんど一直線に伸びているので、登る 効率はいい。遥子と岳彦は、2人で先行。峻二が「もう、 ここから引き返そうかな」などというので、帰りのキノコ 狩りの話や赤いウルシの葉っぱのことなどを話して二人で 登る。「お父さん、この赤い葉っぱもウルシだね」などと 峻二はいうようになる。そのあともブナの巨木探しや、倒 木のキノコ鑑賞などをして登る。直径一bを超すブナの幹 は何本もないけれど、80〜90センチならざらにある。そう いうブナになると、背丈も20メートルを超し、すばらしく大き い。幹の途中、人の背丈の4倍くらいあるあたりに、赤い ペンキが塗られているのもあり、これは三〜四月ごろの春 山登山の目印だろう。優に5〜6メートルの積雪があることにな る。

 登りが平坦になって、いったん下りだすと、荒菅沢の渡 渉点だ。沢の上部は岩壁が城壁のように立ち並んでいて、 その上に、雨飾山の山頂部を見上げることができた。灰色 の岩壁は膨大な積雪で磨き上げられている。ブナやナナカ マドの紅葉に埋まる尾根、そして青い空、三対照の鮮やか なコントラストの景観が眼前に広がる。「ふーっ、まだあ んなに登らなくちゃ、いけないんだ」と峻二がいう。確か に、対岸の尾根に付けられた登山道は、急な尾根を一直線 という感じで登っていく。あちこちで人が列をなして、そ の尾根をよじのぼっている。ずっと下方からも、樹林の向 こうから、にぎやかな人の声が響いてくる。渡渉点の沢床 で休んでいる人たちだろう。

荒菅沢から、雪崩に磨かれた岸壁を望んで登る

 10時20分、荒菅沢に着く。おにぎりをほおばり、冷 たい沢の水で喉をうるおす。岳彦は、遥子と二人で歩きな がら、来春に迫った高校受験のことを話していたらしい。 ほどほどにやっていれば、まちがいなく入れる高校を受け る、と例によって気楽な言い方をしていたらしいが、本人 はそれなりに気苦労の中にあるのだろう。それにしても、 こんな時期に受験生が山に来ていいのか、などと言われか ねないが、連れ出す親も親だな、と思う。十月だけで三度 (キノコ狩り2回と、この雨飾山)も、山へ出てきたのだ から。

 沢から見上げた尾根の登りは、予想していたよりも楽し く、短かった。ブナの矮木の中を抜けると、周囲にはすば らしい景色が展開してきた。荒菅沢を見下ろすと、下流に は赤黄色に紅葉したブナが主体の広大な樹海が谷と山腹を 埋め尽くしている。その樹海が北に盛り上がったところに 金山、焼山の妙高の山々があり、火打山も少しだけ顔をの ぞかせ始めた。何度も噴火を繰り返している焼山は、山頂 部はドーム状の黒い岩の塊になっていて、雪で白くうっす らと化粧している。

 登山道の尾根の左手は荒菅沢の源頭の岩壁群が重なり、 さきほど谷底から見上げたときには確認できなかった上部 の壁も姿を現し始めた。海谷山塊の側からの風が冷たいの で、フリースを着て登り続ける。

紅玉リンゴのジャムつきクッキー食べ、日本海を展望

 休憩なしで登り続けて一時間ほどで稜線に出た。先行す る岳彦を追って、そこから登山者をさらに何人も抜いて、 小広い原っぱに着く。そこは笹平と呼ばれる休み場で、荒 菅沢からの風を避けて、西側の緩い斜面に、30人ほどの 登山者が思いおもいに休んでいた。遥子と峻ニが追いつい たところで、枯れ草に腰を下ろして、また食事タイムとす る。紅玉りんごを煮込んで作った、とっておきのジャムを 取り出して、クッキーにたっぷりとのせる。紅玉のうま味 をまるごと濃縮した感じで美味、美味。またたく間に一瓶 がからっぽになった。ここから下界を見下ろすと、はるか に糸魚川の町が望める。そして陸地の外側を濃い青色に包 んでいるのは日本海だった。風が当たらないので、日差し がポカポカと体を温めてくれる。お腹から元気が湧いてき たところで、最後のひと登りに挑む。

雨飾山の頂から、白馬、雪倉、朝日が白い

 山頂は、目と鼻の先にぐんと立ち上がっている。が、し ばらく稜線の上り下りがあったあとで、荒菅沢の急な源頭 を左下に見おろす怖い場所を通過し、ようやく最後の急登 にかかる。ここでも、遅いパーティーを追い抜く。笹平か ら10分余りで頂上に到達した。(12時08分)

 雨飾山の頂上は東と西の2つの突起があって、それが40メートル ばかり離れている。西の方がやや低いが、その分、人 が少ないし、頂上には仏像か何かを彫り込んだ石が何体か 並べてあった。そういえば、雨飾山は信仰の山でもある。 この様子にもひかれて、最初は西のピークに上がった。






 山頂に立ってまず見とれたのは、北アルプス北部の山々 の展望だった。姫川の谷をはさんで、朝日岳、雪倉岳、小 蓮華岳、そして白馬三山はほとんど縦に重なって、白い峰 を連ねていた。小蓮華岳と白馬岳は、この2000メートル足ら ずの山頂から展望すると、とても大きい。「オレ、ほんと うにあの山に登ったのかな?」と岳彦がいう。こうやって 白馬岳の大きさをあらためて実感してみると、四歳の岳彦 と一歳の峻二を連れての、あのときの白馬三山縦走は、ほ んとうに大冒険だったと思う。

 ずっと遠くには槍ケ岳も確認できた。戸隠や黒姫の山々 は逆光の中でシルエットとなり、雲の中から山体をのぞか せていた。ふり返ると、海谷山塊の稜線の上に、日本海の 水平線が青い輪をかけている。山の上に海がある、不思議 な感じだった。

 東のピークでは20人余りの登山者が展望を楽しんでい る。三角点の脇に鉄製の、直径12センチほどの球体が岩に埋 め込まれていて、それを手でなででから下りにかかった。 (12時23分)

ナメコ、ムキタケ、ブナハリ、チャナメ

 荒菅沢まで一時間で下りて、その下のブナ林では道の両 脇に入り込んでキノコを捜しながら下る。チャナメツムタ ケとクリタケがまず採れ、さらに下るとナメコの幼菌が出 た倒木も見つかった。走って3人に追いついては、また脇 のヤブに踏み込むが、ムキタケやブナハリタケが付いた倒 木を見つけて写真を撮っていたりすると、まだ3人から引 き離される。

 途中、ブナの根が地表にあらわれている急な下りを走る ように下りていくと、坂の下で3人がニマニマしながら私 を見上げている。岳彦は、私の足元を視線で追っている。 坂を降りきって平坦な場所に出て、「いったい、どうした ?」ときくと、遥子が、「私も、峻二も、岳彦も、この同 じ坂で転んだから、きっとお父さんも転ぶぞっていって、 観察していたんだ」という。「残念」の声。

 尾根を下りきると登山口は近い。子どもたちは、沢床の 小さな沢の中に岩魚の姿を見つけて、声を上げている。こ こにはブナの他に、化粧ヤナギの大木が目立つが、なかに は樹高が30メートルに達する、すばらしい枝ぶりの巨木もあり 、紅葉しないまま白っぽい薄緑色に変わっていく葉が、あ たりの赤、黄の葉色のなかで、かえって明るく浮き上がっ て見えている。「こういう木もまたいいなあ」と見とれて いると、また子どもたちの「イワナだ」「お父さん、けっ こういるよ」の声が飛んできた。

 午後3時前に登山口に着く。
 帰りの中央高速では、赤い出べそのような半月が、東の空から昇ってきた。





山の便り、大地の恵み (野原森夫)
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