ふたたび暑寒別岳へ

1977年6月2日〜4日
野原、水戸、別府





ランドサット衛星で撮影した暑寒別岳付近。カシミール3Dによる。
これは7月初めころの映像と思われ、残雪は山行時期よりもかなり少ない。
6月初めには、南暑寒岳の下側(東側)の雨竜沼湿原の
ほとんどが、残雪におおわれていた。




雨竜沼のテラス状の湿地から、南暑寒別岳をへて、暑寒別岳へ
カシミール3D(DAN杉本 作)で描画。国土地理院50m数値地図を使用。



こんどこそ、暑寒別の本峰へ

 大学祭で授業が休みになるのを利用しての入山。メンバーは恵迪山の 会の水戸君と別府君。

 ニペソツから残雪の尾根をたどって石狩岳へと縦走する計画だった が、大きな低気圧が接近してきて悪天候になることが予想されたため、 目標を暑寒別岳にきりかえた。

 雨竜側からは2年半前にも登っており、そのときは南暑寒岳で引き返し たため、今度は本峰まで通しで縦走したいという思いもあった。

 6月2日、午前6時半すぎの普通列車で札幌駅を発ち、滝川から国鉄バ スに乗り換え、9時40分、登山口の第二神竜橋に着く。

 途中、暑寒ダムで管理人さんに南暑寒荘の宿泊の届け出を行なう。前回 同様、長い林道歩きを覚悟していたが11時ごろ、ヒッチハイクに成功し、南 暑寒荘に入る。正午。午後はルート偵察。

 天気が崩れ、強い風雨となる。

恐怖のワイヤー綱渡り

 3日。低気圧は夜半に道北部を駆け抜けた。そして雨と強い風が残ってい たけれども、3日の朝はガスが割れると青空も見える天気になった。必ず回 復してくれると祈るような気持ちで、ぼくたちは南暑寒荘からの縦走に出発 した。(6時07分)


 きのうの午後からの雨で、ペンケペタン川の支流の渡渉点のスノーブリッ ジは崩落していて使えない。支流の上流へまいて、渡渉できるところを捜し たため、最初のつり橋に出るまでに1時間近くもかかってしまった。

 白竜の滝の前後にかかる2つのつり橋は、まだ山開きの前のため、つり 橋のワイヤーは張ってあるけれど、踏み板はすべて除かれている。ゴーゴ ーとうなるものすごい水流が、ワイヤーのすぐ下、2、3メートルのところを 盛り上がりながら流れ下っている。落ちたら、一瞬にして茶色の沢水に呑 みこまれ、流されてしまうだろう。互いの声も濁流の音がかき消してしまう。

 怒涛の水流を真下に見ての恐怖のワイヤー・ロープ伝いが、20メートル 余りも続く。昨日の偵察のときもそう思ったけれども、一人だったら、ぼくは きっと引き返したろう。でも、怖がるぼくを挑発する2人のパートナーに励ま されて、ぼくはメンツにかけても綱渡りに挑まざるをえなかった。雨はまだ 落ちてくる。ワイヤーが揺れるとザックが大きく振られる。つり橋にとりつい ている時間の、なんと長かったことか。太いワイヤーに自分でも気がつか ないくらい思いきりしがみついていたので、腕には濃い青あざができてし まった。

湿原でワンデリング、ヒグマの足跡も

 2つのつり橋をやりすごし、ひと登りすると、残雪と霧雨で何も見えない雨 竜沼の一角に出た。8時40分。雨はときおり本降りにさえなってきて、視界 もまるでない。南暑寒岳で引き返した前回の山行のときを思い出した。

 沼の東端でパンをおなかにつめこみ、気を引き締めて出発する(9時)。

 視界のない雪原は、歩く方向がまるで見当がつかず、始めは同じところを ぐるりと回らされた。でも、強風がガスを飛ばすと、前方遠くに黒く道標が見 える。そんなことの繰り返しで、ぼくらは少しずつ距離をかせいだ。残雪の 上には、このあたりの主のような、でっかい山オヤジの足跡もあった。

 沼の西端に着くころには、視界が急速に回復してきた。ガスがどんどん 上がっていき、ときおりまぶしい陽も差してくる。視界が開けた雪の尾根を、 ぼくらは快調に飛ばした。留萌の海岸線も、夕張・芦別の山々も望めるよ うになってきた。

 11時21分、南暑寒岳山頂。すごい西風が吹く。暑寒別の本峰が、青空 を背景にどっしりとして美しい。群別岳は、稜線がピークめがけて鋭角的で いきおいがある線を描いていて、登高欲をそそられる。

 ここからは初めての道だ。鞍部への急な下りのあとは、残雪の上に乗った り、笹原を抜けたりの縦走路を行く。思いもしなかった急速な天気の回復に、 3人ともワイワイと声を上げ、掛け声をかけながら、弾むように暑寒別岳へ と近づいて行った。雨竜川の源頭部は残雪と緑が美しい。

青空の下、ついに暑寒別山頂に立つ

 崩壊がひどいガケを左手に見て、やせた尾根の最後の急登を終えると、 広々とした暑寒別岳の頂に着いた(13時55分)。2度めの挑戦で、ようやく 立てたピーク。三角点を手でなでるときの気持ちは最高だ。海と海岸線が眼 前に展開する。ふりかえると南暑寒岳が、すでに小さい。増毛側は想像して いたよりも残雪が少なくて、夏道が出ているところもあり、意外だった。

 14時10分、山頂発。下りはグリセード、尻セード、そして夏道と、思い思い に楽しみながら高度を下げていく。ぽかぽかする天気の中を、3人とも軽快 に飛ばした。花がたくさん目につき、エゾコザクラ(紅紫色)、ムラサキヤシオ ツツジ(紅紫色)、シラネアオイ(紫)、エンレイソウ、ザゼンソウ(茶)、エゾリ ュウキンカ(黄)、ミズバショウなどが、かわるがわる姿を見せてくれた。シラ ネアオイは紫のものに混じって、ときおり、ごくまれにしかない(?)という白 い花も咲いていた。

カジカとギョウジャニンニクと

 暑寒荘への分岐は、5万分の1地図のルートはもう使われておらず、そこ から少し下ったところに尾根コースから分れて左へ下降する道が開かれて いた。行動時間が10時間を超すと、さすがに足がまいってしまう。17時30 分、暑寒荘に到着。

 この小屋は、ところどころ内部の床がはがれたところもあるが、古い木造 で味わいがある建物だ。それに西暑寒から本峰にいたる屏風のような山容 を望める場所にあって、快適だ。

 この夜もまた豪華なメニュー。ギョウジャニンニクのおひたしと、カジカの油 いためが、雰囲気を盛り上げた。

 4日。下山の日は快晴。朝早くから小屋のまわりで探索したあと、ぼくたち は薄着でゆったりと山を下りた。海風が風車を回す増毛の町へ。





(小屋10時27分発、増毛13時40分着。増毛から15時08分発の普通列車 で留萌で急行に乗り換え、札幌には19時00分着。このときのギョウジャニン ニクを食べた体験は、「山菜」の項に短文をまとめている。)







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野原 森夫