札幌近郊の野山で、春の花の探索

     2007年5月6〜9日





エゾエンゴサク 定山渓

 5月の連休直後の春まっさかりの札幌で、花の探索と撮影を楽しんできました。
 札幌は学生時代をすごした街です。当時の私は春の登山の場合も、残雪を踏んで稜線 めがけて「エイヤっ」と一気に登るだけ。山へ続く雪解けのアプローチで、春がこんな にも鮮やかに、やさしく輝いていたことなど、視界の外でした。
 あれから30年の時をへて、花が咲き出す時期の札幌の野山へ、初めての花の旅。豊 かな自然に囲まれたこの街の良さを、実感させられました。





エゾムラサキツツジ 北大植物園

 滞在期間のその日ごとの予定は、お天気次第でした。
 5月6日は、翌日が雨の予報。千歳について、用事を一つ、すませて、予約した札幌 市内のホテルへ。わずかな時間も生かそうと、午後3時から北大植物園に出かけました。
 高山植物のロックガーデンは10日から開放とのことでした。が、ここは森の中に自然 に生育しているオオバナノエンレイソウやスミレ、樹木の芽吹き、そしてツツジ類がお もしろい。
 アイヌの人々が生活にどう生かしていたかの解説つきの野草園も、いっせいに芽吹き のときを迎えていました。今の時期、芽吹いたばかりの植物は、判別がいっそうむずか しい。そういうときだからこそ、案内板のガイド付きで伸びかけの若芽の様子を観察で きるのは、ありがたいことです。





コジマエンレイソウ 北大植物園

 ほとんど手を加えず、自然のままに更新させている林では、オオバナノエンレイソウ、エ ンレイソウ、エゾエンゴサクがちょうど開花期を迎えていました。水辺にはエゾノリュウ キンカも満開。フッキソウはやや時期がすぎていました。コジマエンレイソウは、フィール ドで出会うのはたいへんな花ですが、ここではまとまって咲いていました。
 野草では、オオウバユリが地上に大人の手のひら大の葉を数枚広げだしていました。  撮影に熱中していたら、園内のアナウンスで「閉園の時間です」の知らせが。4時半
の 閉園を少しオーバーして、門を外に出ると、札幌駅前の大都会の喧騒のなかに、飛び出し ました。
 北大植物園の空間は、まるで、ドラえもんの「どこでもドア」のような場所です。

 7日朝、今日は終日、雨模様のはずですが、その雨がいったん上がっています。
 藻岩山は山頂部分だけが雲の中。定山渓神威岳は頭を雲に突っ込んでいます。その雲が少 しずつ、山肌を伝い上って行くように見えます。
 迷うことなく、今日は山へ行こうと決めました。
 目的地は、札幌市の西南部、定山渓の付近にある低山です。





ハリギリ  定山渓

 バスを使って登り口まで出かけていくと、青空も見えるほどに天気は回復してきました。雪 解け水を集めて、豊平川はドドドーゥッと音を立てて流れています。
 膨大な水量。谷を囲む周囲の山肌には山桜が満開。雪が融けだした地面には、フキノトウが 伸びだしていました。
 ハリギリの芽、エゾエンゴサクの群落、キタコブシとエゾイタヤの花などを撮影しなが ら、1時間ほども歩き、いよいよ山道へ。

 崖状に赤土が崩落した斜面に、ヨブスマソウがへばりつくように、すくっと緑色の若芽を立 ち上げていました。若芽といっても、背丈はもう40センチ前後に伸びて、コウモリそっくり の葉を広げだしています。関東ではほとんど出会うことのない北国の野草です。
 山道をさらに分け入って、急な登りにかかる手前の、沢型の地形にすすむと、森が小広く開 けた場所に、空色のじゅうたんを敷き詰めたように、エゾエンゴサクが群生していました。す ごい! この景色を見に、ここまでやってきたのです。
 ザックを下して、おやつを食べながら、カミさんと2人、周囲の景色に見とれました。ヨブ スマソウの芽は、ここでは、エゾエンゴサクの囲まれるように、何本も立っています。

 エンゴサクが群生しているのは、傾斜が緩い林。その林床が、すぐ先で大きく落ち込んでい ます。地形から見て、そこからは沢が現われてくるはず。私たちは山道をはずれ、千島ザサの 薮を漕いで、下降しました。
 足元に岩屑の堆積する場所があり、その急斜面を下りると、地下からも、前方からも水音が 聞えてきました。




ヨブスマソウ 定山渓





フクジュソウ 定山渓

 降り立ったところは、岩屑の斜面から噴き出した水が、沢となって流れ落ちる場所。背丈が 伸びてしまったフクジュソウが花を開いていました。V字型の沢の両岸は、コゴミとヨブスマソ ウがそこここに若芽を伸ばしています。オシダの大きな株から、金色の熊の毛のような密毛を 生やした芽も、伸びだしていました。水の音、小鳥の声、誰もいない小さな源流。「こういう ところが、いいよね」、「ちょっと下ってみよう」。
 私たちは、水流が山靴にかぶって中を濡らす、ぎりぎりのあたりまで下降したあと、急な沢 岸を這い上がって、森が明るく開けた場所に上がりつきました。







 そこに、望んでもいなかった景色が待っていました。
 エゾエンゴサクのなかなかの大きさの群生地です。一面の空色ですが、1本1本のエンゴサ クは濃いもの、薄いもの、赤紫、白色など、実に様々な色彩です。ここで再び、一休み。北海 道はやっぱりすごい。こんなふうに彩る春は、やっぱり北海道ならではでしょう。先ほどの沢 の水音が、遠くから聞えてきます。





エゾエンゴサク 定山渓

 登山道との間隔、だいたいの位置加減はわかります。それに、ハンディGPSと緯度経度のライ ン入りの手製の地図をもってきたので、迷うことはありません。そろそろここを去らねばと思った あたりで、クマが怖くなりました。芽吹きにはしゃぎ、沢筋近くや雪解けの明るい森へ寄ってく るのは、人間だけではないでしょう。
 千島ザサの薮こぎは、数百メートルと今度は長い。でも、遠目が利く薮コギです。残雪が解け て日が浅いので、笹がまだ立ち上がりきっていないのに、助かりました。

 3時間の楽しいワンデリングを終えて、再び豊平川の雪解けの増水の眺めに圧倒されつつ、私 たちはバス停へと帰りました。





ヒメイチゲ  野幌森林公園

 5月8日は、石狩市の友人宅を訪問し、バスからの春の眺めを楽しみました。

 5月9日は、札幌市の東部に隣接する野幌森林公園へ。
 このときまで札幌でまだ出会えなかった、黄色のナニワズの花に対面。ザゼンソウとヒメイチ ゲも撮影することができました。エゾエンゴサク、オオバナノエンレイソウは、この森でも春の 主役でした。
 野幌の森は広大です。午前中だけの3時間足らずでは、数分の1しか歩けません。森の中に大 きな谷が刻まれ、沢水が大きな音をたてて流れていました。ハリギリ、カツラの見事な大木もあ りました。
 この日、午後の便で帰京するのでなければ、1日でも2日でも時間をかけて、森の中を歩きたい ところでした。





ザゼンソウ 野幌森林公園

 千歳に向かう電車の車窓からは、西に無意根山と余市岳の真っ白な山並み、東には夕張、芦別 の山々が、それぞれ意外な大きさで望めました。いずれも、若い時期に登った山々です。札幌は、私 にとって、心に残る街になっていたことに気付かされました。そのうえ、今回の旅で、以前には 気づかなかった魅力も知りました。
 こんな景観に囲まれ、四季の森の変貌に驚きながら、今の私ならばずっと深くこの街の良さを感 じて暮らせるのかもしれないと思いました。




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野原 森夫