沢を遡って、ブナ林の奥深くへ(奥利根)
2004・10・1


 私が毎シーズン通う奥利根の「ブナの山」は、登山道が整備され、きのこ狩 りの人も多く入るところです。
 登山道の周囲は、シーズンには多くの人が歩き、キノコを撮影するにも、採集す るにも、手付かずのものを探すのに苦労することがしばしばです。
 でも、この山のブナ林のなかで、人が入っている範囲はごく一部です。障壁に なっているのは、密生したネマガリダケのヤブ。ブナ林の下生えは、高さ2メート ル前後のネマガリダケに覆われています。ヤブこぎがたいへんで、数十メートル 単位で奥へ入り込むのも、簡単ではありません。





 体力的に苦労するだけでなく、迷う心配もあります。
 ブナ林のキノコ探索というのは、倒木や立ったままの朽木などを目当てに、ヤブの 中をジグザグに動き回ります。2回、角度を変えて移動すると、たいていは方角が わからなくなります。1本の大木の周囲を回るときだって、ほぼ1周したあとで、 「あれれ、道はどっち側だっけ?」などと思案することがしばしば。地形がほとん ど平坦な場所だと、判断ができなくなります。
 私は、道迷いの用心に、声が届く範囲から離れないことや、何人かでいくとき は道に1人を残して合図を送りあうことなど、工夫してきました。磁石を使い慣れた 人なら、方位確認を重ねてもどることができますが、それも 登山道の入り込みかた次第では、困難がひろがります。

 ということで、体験上も、たぶん実際上も、登山道から100メートル以上離 れたブナ林は、それこそ、手つかずの自然、キノコが保存されている聖域なので す。

 前置きが長くなりましたが、今回は、そういうエリアのブナ林のど真ん中に、沢 を遡行して入り込みました。
 なぜ、沢からなのか?
   それは、沢はいろんな動物も、そして人も移動しやすい道だからです。ヤブなどの 障害物がなくはありませんが、水流があり、ときどき襲う増水・土砂の移動のため に、ほとんどの行程で狭い幅だけれど道が開けています。この山の場合は、火山で、表 層の下に溶岩が一枚岩にように連なっているエリアが多くあります。私が今回たどった 枝沢も、こういうナメや岩の場所が多く、それだけ足元がしっかりしていて、ヤブの 苦労は少ないところでした。
 なぜ、沢からなのか?
   自分が登った沢に限るならば、もし迷ったときも、もどった り、隣りの沢へ支尾根を越えて移動したりと、行動範囲も広げることができるからです。



ブナ林のど真ん中に続く枝沢

 10月1日午前、準備をととのえて、ブナの山にある枝沢に入りました。この沢は、道を 横断することはなく、源頭は、深いブナ林の真ん中に消えています。
 沢筋は、周囲よりも気温が低く、ひんやりしているので、今年のように秋口が暖かい陽気 のシーズンでも、キノコが早く出てくれるという思いもありました。

 地図(緯度経度を10秒メッシュで入れたもの)、ハンディGPS(写真)、コンパス をナビ用の装備に、今回も持ちました。足固めは、渓流シューズ、渓流ソックス、渓 流スパッツ。後者2つは、素材がネオプレン・ゴムできていて、厚地。この時期の冷たい 水の中でも膝下を保温し、保護してくれます。滝や難しい場所はないようなので、ザイル やヘルメットは不要。

 沢は、両岸の森のなかを凹型ないしV字形に深く掘り下げながら、流れ落ちています。沢 床にも、傾斜のある岸の斜面にも、倒木が落ち込んできています。運がいいと、ヒラタケ が、こういう流木、倒木にはついていますが、まだキノコは出始めです。ニカワチャワンタケ、 ムキタケが見つかり、撮影。クリタケもまだ幼菌でした。この標高では、もう半月もたて ば、ナメコなども出てくるでしょう。
 人の踏みあとや、伐採したあとが、まったく見られない、沢です。



ニカワチャワンタケの幼菌。レモン汁で甘く味付けすると、デザートに。

 この枝沢は、イワナが産卵・生長する場所らしく、10〜15センチくらいの魚影が水流 を逃げ惑います。より小さいのも、ずいぶん多い。小さな岩のくぼみに逃げて身を潜めたふ りをしている1匹を、撮影のために、綿手袋を滑り止めに生け捕りにしました。源流はごく 浅く、潜んだイワナは、手で頭と体を押えられるまで動かない習性があり、かんたんに手づ かみにできます。



この枝沢は、イワナの産卵・生長場所で、たくさんいました。
綿手袋のつかみどりの奥義で、1匹捕らえて、撮影。
逃がしたあとも、初めて見る人間を何者か? と驚いた様子で泳いでいきました。


 沢は、上部で二股に分かれました。水流比で、右:左が、3:2くらいか。
 右は、さらに深いブナ林へと登っていきます。今回は左へ。
 傾斜が増し、狭くなった谷は幅3メートルくらい。人の体がすっぽり入るくらいの深さで、V 字に掘りさげられ、その底を、わずかになった水流が流れています。
そろそろ水が尽きるな、というあたりで、昼食。おにぎりを頬張って、頭上のコシアブラの黄 葉と、真っ青な空を見上げました。

 谷はすぐに膝くらいの溝になり、そこから100メートルも進まぬうちに、目の前にネマガリ ダケの笹ヤブが現れ、通せんぼされました。いよいよヤブこぎです。
 ここは、ブナ林のど真ん中。
 人知れず、四季をおくっている木々と菌類たちの世界です。

 人が入らないだけに、自然のままに育ったナメコに、ばったり出合いました。
 ブナの倒木の両側に長くずらりとびっしり。しかも、幹は12メートルくらいあり、今後 も有望! ほかのナメコは、今年は暖かく、まだまだ小さかったのに、やはり沢筋は周囲の 気温が低めなのでしょう。
 今回、この時期に沢筋をねらい目にしたのが、当たりました。



すごいナメコにばったり出合いました。
このブナの倒木の両側に長くずらりとびっしり。
しかも、幹は12メートルくらいありました


 別の大木には、数メートルの区間に幼菌がびっしり。あと半月もすれば、盛期でしょう。人 知れず育っているナメコたちです。人がふれているキノコは、全体のごく一部なのでしょう。











今年は紅葉が遅く、ナメコももたもたしていて、
別の大木には、数メートルの区間に幼菌がびっしり。


 ゆっくり撮影に時間を費やし、下山にかかります。
 まず、登山道に出て、そこから別の枝沢に下降します。
 猛烈な笹薮こぎが、続きました。現在地を再確認すると、GPSでは、薮コギはまだ200 メートルあります。結構長いけれど、倒木や朽木をめぐりながら、大体の方向に、向かっていき ます。



愛用のハンディGPSは、年代もの。ガーミンGPS12です

 そろそろ道に出てもいいはずというころに、ふたたびGPSで位置確認。登山道はすぐ30 メートル先とわかりました。
 ひとがんばりで、ドンピシャで、道に出ました。

 登山道を使って少し移動。下降は、ぬかるむヤブをこいで、さらにちょろちょろ流れる溝道を たどり、ふたたび水流のある枝沢に入り込みました。
 さっき、ナメコを採ったときに、手袋がぬめりでぐにゅぐにょに濡れたので、沢水で洗いまし た。数秒も水に手をつけていられないくらい、冷たい水です。
 キノコが入ったザックが重い。あと2週間、3週間先が楽しみな倒木、流木を眺めつつ、また 源流のイワナたちを追い散らしながら、ずっと下の林道をめざしました。




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