心配な母子ネコ――作業小屋の大事件

2000・5

 日曜日(5月14日)、いつものように午前に畑へ出て、 さあ、作業にとりかかろうと道具や肥料を置いている、ごく 小さな掛け小屋に行きました。小屋は畳1枚分ほどの大きさ しかありません。
 鍬をとろうと体を小屋の中へ入れたら、左隅の肥料の陰か ら小さな生き物が目の前にバッと飛び出してきて、足の間を すり抜けて外へ逃げていきました。心臓が止まるほど、びっ くりしました。
 「何だ、いまのは?」。ふり向いて見ると、すぐ3メート ルほどのところに立ちとまっているネコがいました。薄い茶 色の模様があります。体は少し小さい方か。
 このネコは、そこでじっとして、私を見ています。小屋に 住みついて、堆肥の袋をやぶられでもしたら、たまらない と、「シッシッ!」と追い払いました。ところが、ネコは、 3メートルばかり行くと、またふり向いて、こちらを見てい ます。

 「ムムッ。もしかしたら………」。ピンとくるものがあっ て、小屋の中を調べてみました。ネコが躍り出てきた小屋の 左隅のあたりをさがしたら、道具や堆肥で囲まれた間に空の 大きな紙袋があって、その底に小さな2匹の子ネコが見つか りました。やっぱり………。
 ネコのことは基礎知識がないのですが、子ネコというより も赤ちゃんネコのようです。大きさは、牛乳瓶をひとまわり か、ふたまわり小さくしたくらい。毛は全身をおおっていま す。目を固く閉じたままで、母ネコが突然、去っていったか らか、弱々しく体をふるわせています。

 いったいいつ、出産したのでしょうか。ここ数日は雨が多 かったので、身重の母ネコが雨宿りに、小屋にたどりついた のかもしれません。中は風雨が避けられるし、堆肥からは熱 も出るでしょうし、とりあえずほっとできたのでしょう。

 それにしても、これは困った、どうしよう。
 雑草抜き、刈り払い、イチゴの収穫、レタスの移植などを しながら、ずっと考えました。正直言って、ネコはいままで 好きな方ではありませんでした。家で飼うのは、気がすすみ ません。箱に入れて、誰かもらってくださいと書いて、道路 脇に置くことも考えました。が、犬はいるし、雨は降るし、 保健所などに連れていかれたらおしまいです。

 作業の途中、小屋がある栗林の方に、カラスが何羽かやっ てきて、しきりに鳴きました。「まさか、子ネコが外に出て きて見つかったのでは」と、あわてて見に行きました。

 結局、こうすることに決めました。つまり、野良ネコは、 野良でたくましく生きていくしか道はない。うまく子ネコが 育つかどうかは、ネコの生命力にまかせるしかない。何も手 を出さず、旅立つまで小屋の一角にいさせてあげよう、とい うことです。
 母ネコは、やっと雨をさけられる小屋を見つけて、子ネコ を産んで、幸せな場所を得たのではないかと。

 昼に家に帰って、妻にこのことを話すと、「それがいいん じゃないの。大丈夫、ちゃんと生きていけるよ」といいま す。話を聞いて、二男はニヤニヤ。以前に、長男と近所の神 社の境内で内緒でネコを飼っていた話をし始めました。「お 父さん、駅には、みんなに餌をもらって、小屋まで作っても らっているネコがいるよ。そこに連れてくれば」「うーん、 でも、あの子ネコはまだ他のネコにもまれて生きていけるほ ど、育っていないからな」

 午後は夕立ちに。夜にもまた降りだしました。「母ネコは 帰ってきているのかなあ」「大丈夫、帰っていると思うよ」 「エサはどうしているんだろうか。300メートル四方には 家もない場所だからな」「どこかの家で、エサだけもらって いるかもしれないし、自分でさがしていくしかないんだか ら」。
 長男が帰ってきて、この話を聞いて、彼も神社で飼ったネ コのことを思い出したよう。「ネコって生意気そうだけれ ど、腹がへると体をこうやって寄せてきて、甘えるんだ よ」。

 1日おいて、火曜日(5月16日)、つまり今朝方、心配 なので母ネコがもどっていることを確認しにいきました。何 もしないつもりでしたが、何かないかと台所でバタンバタン と戸棚を開け閉めしていたら、妻が「はい、これ、もってけ ば」と鰹節の小さな袋を2つ出してくれました。ジャムの 入っていた安定のいい瓶も、水飲み用に持っていくことにし ました。

 今度は、突然、躍り出てきても、びっくりしないぞと、小 屋に体を入れました。
 いました。
 母ネコは、このあいだよりもゆっくりと、外に出ていきま した。紙袋の底では、2匹の子ネコがもぞもぞ動いていまし た。
 刻んで干したワラを、イチゴの根元に敷くためにとってお いたのがあったので、これを子ネコの周囲に敷いてやりまし た。ワラを敷くときに体に触れたら、柔らかい毛でした。外 にエサを置いては鳥などが来るので、小屋の中に場所をあけ て、水と鰹節を置きました。

 エサも結局は自分でさがすたくましさがないと、野良ネコ としては生きていけません。今後、エサをやることについて は、思案中。とにかく、2匹ともなんとか育って、旅立って ほしいと思っています。

                                2000・5・16 野原森夫


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